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(2007年7月)          




Outrage
アウトレージ

by Dick Morris and Eileen McGann


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 アメリカのフィクションやノンフィクションでベストセラーの基準としてよく使われる表現は「ニューヨーク・タイムズ紙・ベストセラー」、たとえば本著の作家であるディック・モリスなら、「『リライティング・ヒストリー・アンド・コンディvs.ヒラリー』はじめ5冊のニューヨーク・タイムズ紙・ベストセラーの著書」というだけで、彼が売れっ子だと一般のアメリカ人にはわかります。

 じっさい、20年間ビル・クリントンの政治顧問を務めてきたモリスが書くノンフィクションは、どれもそれなりの説得力があり、加えて長年彼を支えてきた共著者の弁護士アイリーン・マクガンも、インターネットの世界では一目置かれる存在です。

 そんなフロリダ州在住の2人が書いた本著は、現在のアメリカで憤慨すべき事態がどれだけ多いか!・・・・・・不法滞在外国人の半数合法的に入国し、いったん入国した外国人がまだいるかどうかを調べる術はありません。もし、アメリカが日本その他の国同様、出国手続を行っていたとすれば、9/11の犯人たちは大半が事件前に官憲へ目をつけられているはずだったといいます。

 また、下院議員たちは政治運動の資金に彼らの妻への給料という名目で経費を計上し、結果として運動資金の寄付だったはずが個人的なわいろに使われていたり、ACLU(米市民開放組合)は、その理事たちのフリー・スピーチを認めていません。そうかと思えば、国連組織が崩壊している中で、その予算の12パーセントを支払っている80ケ国は組織の再編成を阻止されているのです。

 製薬会社医者たちへわいろを払って必要でもない薬の処方箋を書かせる構図は、わいろを払って病院に薬を納入させる日本のそれと似てなくもなく、学校で悪い教師を斬ろうとしたら教師組合が反対し、教員制度の向上を阻害しています。ハリケーン・カトリーナの被害者たち保険会社から保険金の支払を渋られ、安い外国製品がアメリカ人から雇用を奪っているという名目で消費者は無駄な出費を強いられるいっぽうで、ほんの一握りの雇用が貿易保護政策で確保されているに過ぎません。

 こうしたアメリカの抱える多くの問題点を、モリスとマクガンは1つ1つ統計(数字)で裏づけながら浮かび上がらせてゆきます。そして、どうすればそれらの問題点を解消できるか、彼らなりの答を提示しているのです。たとえば、テロリストの国からの移民を禁止するとか、下院議員の家族への給料を禁止するとか、実行は難しいかもしれませんが、どれも効果的な答であることは確かです。

 国情が違う日本ではピンと来ない部分がある反面、本著で提起された多くは根本的に進歩した近代国家なら共通して抱える問題点だと思います。つまり、人間社会の業(カルマ)です。毎日読んでいる日本の新聞の紙面へそれらが現われています。ともあれ、アメリカを知る上で非常に興味深い著書といえるでしょう。


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(2007年7月)

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