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(2017年3月)          


The Shack
神の小屋

by William P. Young


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 本著は現在、全米でニューヨーク・タイムズ紙その他のベストセラー上位へ入っていますが、出版されたのは文庫版が2007年、単行本が2008年とかなり古く、邦訳は2008年に吉田利子の訳で単行本が、2015年に結城絵美子の訳で単行本が出ています。本著をお読みいただけば、それだけ売れているのは、おわかりいただけるはずです。ただし、キリスト教の思想が背景となっているため、日本では好みが両極端かもしれません。かえって聖書信仰のあつい一部の日本人クリスチャンほど(形式を重んじるゆえ)、本著を否定する可能性は予想できます。

 マッケンジー・アレン・フィリップスの娘ミッシーは、家族で休暇旅行中、拉致されました。そして、オレゴン州の大自然の中で見捨てられた小屋へ、彼女が惨殺されたような痕跡が残っていたのです。それから4年後、悲しみに打ちひしがれるマック(マッケンジー)は、同じ小屋へ週末に来るよう神から指示されます。葛藤の末、真冬の小屋へ着いた彼がそこで見つけたものは、彼の人生を永遠に変えるのです。

 聖書信仰が深く係わる物語の中、「言葉で言い表わせないほど心の痛みが満ち溢れた世界で、いったい神はいずこ?」という昔から人類が問いかけてきたテーマを、本著は掘り下げてゆきます。そこでマックが獲る答はあなたを驚かせ、また読み進むうちあなたも彼と同じように変化を遂げるでしょう。たとえ本著が神学の研究書でないとはいえ、マックが体験する旅は読者の内部で再体験され、神への認識を考える方も少なくないと思います。

 本著が伝えるメッセージは非常にパワフルなものであり、神という概念をもっと大きなスケールで捉えようとするものです。聖書信仰があつかろうとそうでなかろうとアメリカ人読者の多くは、それをごく自然に受け止めるいっぽう、聖書信仰のあつい生真面目な日本人へは受け入れがたい部分があるのではないか? そこで読み終わってからインターネットの読者評を確認したところ、案の定、大半は肯定的であったのに対してかなり熾烈な意見も少なからずあり、それらがほとんどクリスチャンからだったのは言うまでもありません。たとえば、「聖書信仰のクリスチャンとしてこの本をお勧めできません」という読者の場合、聖書の何章何節と例を挙げて本著の一部がイエス様ご自身の言葉と完全に矛盾していると指摘しているのです。
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邦訳の表紙

 あるいは、「クリスチャンは注意が必要な書」と書いている読者もいます。その読者は「キリスト教の十字架が私の罪の為だったと信じる時、信仰によって救われます。キリストを通してでなければ救いはないのです。どうか皆さん、この本のペースに流れている違う霊の語り掛けに注意してください」と、かなり勘違いをされています。

 こうした否定的な意見を引用したのも、それらが本著の性格を説明する上で一番早そうだからです。そうした否定的な意見をお持ちの方へまず言っておきたいのは、本著が「小説」であり、「キリスト教神学の教科書」でもなければ「キリスト教の教理注解書」でもありません。したがって、本著に関してこれは異端であるとか何が真実であるかを述べるのは的外れです。

 もっとも、日本と限らずアメリカでも保守系のキリスト協会で物議を醸しており、「三位一体」の神の現われ方が問題であった点は日本と変わりません。ふつう三位一体の神が男性吊詞で表わされるのに対し、本著でヤングは父なる神をアフリカ系の女性、聖霊なる神をアジア系の女性として表現しています。しかし、「許し」が本著のテーマである以上、それらの違いは問題点となりません。聖書信仰のあつい生真面目なキリスト教徒がどう言おうと、とにかく本著は小説として単純に優れており、感動します。


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