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(2018年2月)          


Fire and Fury
炎と怒り

by Michael Wolff


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 今年の1月5日に発売されるや全米ベストセラーとなった本著は、副題が「トランプ政権の内幕(Insaide the Trump White House)」というごとく、著者のマイケル・ウォルフは以下の点を明らかにしています。

    ■トランプ大統領のスタッフは彼のことをどう考えているのか?
    ■トランプがオバマ大統領に盗聴されたと主張した理由は?
    ■なぜFBI長官ジェームズ・コミーは解雇されたのか?
    ■なぜ首席戦略官スティーヴ・バノンとトランプの娘婿であるジャレッド・クシュナーは同じ部屋にいられなかったのか?
    ■誰がバノンの解雇を巡ってトランプ政権の戦略を本当に指揮しているのか?
    ■トランプとのコミュニケーションの秘訣は?
    ■トランプ政権が映画「プロデューサーズ(2005年)」と共通している点は?

 本書を巡る騒ぎがきっかけで、トランプはバノンと手を切りました。バノンは白人至上主義などを唱えている右派思想「オルト・ライト」を掲げるトランプの腹心で、本書の最大の情報源でもあります。本著の出版がきっかけとなり資金的な後ろ盾だったマーサー家などの信頼を失ったバノンは、1月9日にオルト・ライトの代表格とされるニュースサイト「ブライトバート・ニュース」の会長も辞任しました。今頃、ウォルフへここまであけすけに語ったことを悔やんでいることでしょう。

 ウォルフが「オフレコ」の約束を尊重しないジャーナリストなのか、あるいは本で特定の場面を再現する際、人が言ったことを勝手に飾り立てて書くタイプのジャーナリストなのかどうかはわかりませんが、本著の内容はおおむね信用できると思われます。彼が明かしたところでは、大統領へ敬意を抱く人間がホワイトハウスにはもはやほとんどおらず、スタッフらが「(トランプの行動へ)絶えず不信感を抱いているとは言わないまでも、不安できまり悪そう」だそうです。

 昨年(2017年)7月28日、トランプ氏が更迭したプリーバス元大統領首席補佐官も、そしてムニューシン財務長官もトランプを「バカ(idiot)」と呼んだと本著では引用されており、コーン国家経済会議(NEC)委員長などトランプを「めちゃくちゃ低能(dumb as shit)」と表現したとか。いっぽう、ティラーソン国務長官がトランプを「救いようのないバカ(f***ing moron)」だと思っていることは広く知られています。トランプ自身、メディア王のルパート・マードックから認めてもらいたくてたまらないみたいですが、当のマードックは彼のことを「ひどいバカ(f***ing idiot)」と呼んだそうです。言うまでもなく、本書は決して子どもへ読ませるような本ではありません。
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邦訳の表紙

 また、バノンによるとトランプの長女イバンカ大統領補佐官が「どうしようもないバカ(dumb as a brick)」で、ドナルド・トランプ・ジュニアは映画「ゴッドファーザー」へ登場するIQの低い兄「フレド」だといいます。そこで、その一家のあるじ「ドン・コルレオーネ」がどこにいるのかと言えば、どうやら寝室へこもって電話で友人たちに愚痴をこぼしているようです。メールでニュースレターを配信するメディアAXIOS(アクシオス)は先日、トランプが勤務時間をますます短縮していると報じました。

 就任当初は、朝9時からスケジュールを入れていたトランプが、今では午前11時前後まで姿を現わさず、たいてい午後6時までにとても過密といえないスケジュールを終え、上階の公邸へ退却するそうです。そこでは巨大な薄型テレビ3台に囲まれて、好きなチーズバーガーを頼んだり、電話で友人と自分がいかに大変かという話をしたり、ツイートの投稿をしたりするそうです。ウォルフ曰(いわ)く、トランプへの嫌悪感をほぼ隠しきれない元軍人のジョン・ケリー大統領首席補佐官は、トランプ氏の執務室での仕事を大統領にふさわしいきちんとしたものへ改革しました。おかげで大統領執務室はケリーが首席補佐官へ就任する前のように、誰もが自由に出入りできる場ではなくなったとか。その結果、トランプはケリーがコントロールできる時間帯を短くするという手に出ているといいます。

 これらはほんの一部で、ウォルフが書いている内容はジャーナリストのジョー・スカボローや次席補佐官を昨年、辞任したケイティー・ウォルシュのエピソードなど多岐にわたります。彼が極端な例ばかり選んでいるのは間違いなく、トランプが正しい文法を使うこともあるだろうし、ブリーフィングの書類を最後まできちんと読むこともあるだろうし、トランプへ今なお忠誠を誓うスタッフもいるに違いありません。しかし、いくら細部へ少々の疑問が残ろうと、ウォルフの伝えようとしている内容の主旨には真実味があります。邦訳は、早くも今月(2月)28日に早川書房より出版される予定です。


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