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(2019年2月)          


自衛隊の闇組織
秘密情報部隊「別班」の正体

by Gyou Ishii


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 出版社の言葉を借りると、本書は身分を偽装した自衛官に海外でスパイ活動をさせている陸上自衛隊の非公然秘密情報部隊「別班」の実体へ迫ったものであり、その別班がロシア、中国、韓国、東欧などにダミーの民間会社を作り、民間人として送り込んだ「別班員」へヒューミントを展開させる他、日本国内でも在日朝鮮人を抱き込み、北朝鮮に入国させて情報を送らせるいっぽう、在日本朝鮮人総聯合会へも協力者を作って内部で工作活動をさせているということです。

 たしかに、米DIA(国防情報局)のようなヒューミントを行う軍事組織は海外でも存在しますが、いずれも文民統制(シビリアン・コントロール)、あるいは政治のコントロールが効いており、首相や防衛相がその存在さえ知らされていない別班とは明確に異なるといいます ――― じっさい首相や防衛相がその存在を知らないとは思えません。知らないとすれば、責任を逃れるため知ろうとしていないだけでしょう ――― 張作霖爆殺事件や柳条湖事件を独断で実行した旧関東軍の謀略を持ち出すまでもなく、政治のコントロールを受けず、組織の指揮命令系統から外れた別班のような部隊の独走は、国家の外交や安全保障を損なう恐れがあり、極めて危うくなる可能性はあっても、それと別班を同列で考えると、ちょっと違うような気がします。

 本著は、いわば帝国陸軍の「負の遺伝子」を受け継いだ「現代の特務機関」が別班であり、災害派遣に象徴される自衛隊の「陽」の部分とは正反対の「陰」の部分で憲法9条をめぐる本格的な改憲論争を控えたいま、自衛隊を考えるための必読書というのが出版元である講談社の宣伝文句です。しかし、いざ読んでみるとそれほどの内容ではなく、著者である石井暁がよく調査をしているのはわかりますが、その調査は偏っている感が拭えません。たとえば、以前ご紹介した矢部宏治著「日本はなぜ、『戦争ができる国』になったのか」や、その前作「日本はなぜ、『基地』と『原発』を止められないのか」と比べて雲泥の差です。

 本著でたびたび登場するシビリアン・コントロールが重要なのは当然ながら、結局、別班も含めた自衛隊が、ある意味で米軍の下請的な存在である事実は避けられず、したがって、そこをもっと掘り下げないと石井がいったい何を言いたいのか読者へ伝わらないのではないでしょうか? 日米地位協定を切り離して北方領土問題を考えるようなもので、いくら安倍首相が交渉しようとプーチン大統領は日本国憲法の上位に日米地位協定がある限り、北方領土を返還する可能性はゼロです。安倍首相の説明で交渉が進んでいると期待した日本人へは、ご存知のとおり、ちゃぶ台返しの結果となってしまいました。

 朝鮮戦争の終戦やそれと関連した沖縄の米軍基地問題も同じパターンで、まず日米地位協定を理解しないと先が見えません。そして、この別班も日米地位協定抜きでは語れない類の問題(テーマ)です。帝国陸軍の負の遺伝子を受け継いだ現代の特務機関という過去のつながりより、戦後の日米地位協定とのつながりのほうが今後の方向性を決める鍵となります。その上で別班はどうなるべきかを掘り下げると、もっと読み応えのあるノンフィクションが仕上がったはずです。何より、本著の性格から私見を交えず(感情抜きで)事実だけを述べると、もっと説得力を持てたでしょう。

 あるいは、ノンフィクションの体裁でなくフィクションにすればスリリングなドラマが展開できたかも?・・・・・・冒頭から登場する「キーパーソン」など、それこそ「小説(フィクション)の主人公(キーパーソン)」の1人として活かせるだろうし、ところどころノンフィクションとして感情的すぎたり詰めの甘い箇所はフィクションならさほど気になりません。


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