キャンプ


 マイクはここしばらくキャンプに行ってません。そこで、都会の垢を落とすべく、週末はトムを誘ってビッグベアーで過ごすことにしました。
 ロサンゼルスから車で2時間ばかり走ると早くもビッグベアー、目指すキャンプ場が見つかると、さっそくテントを張ります。そして、薪を拾いがてら、2人は森の中へ散歩に出かけるのです。
 「やはり、来てよかった。たまには、こうして自然に浸らないと駄目だね」
 マイクがトムに言います。
 「ああ。しかし、おれはさっきからもよおしてるんで、そう落ち着いて自然に浸っちゃいられないんだ。マイク、この近くにトイレはないのかな?」
 都会育ちのトム、いくら囲りに人がいなくても、トイレ以外は抵抗があるようです。
 「気にしないで、そこらの木にやっちゃえよ」
 マイクがこう言うので、トムは渋々木陰に姿を消します・・・・・・そして数秒後、
 「ギャー!」
 トムの叫び声を聞いて、マイクは木陰に走りました。すると、そこではトムが股間を押さえながらうずくまっているではありませんか。
 「いったい、どうしたんだ?」
 「ど、ど、毒蛇のやつ、何の先を噛みやがった」
 「そいつは大変だ。すぐに医者を連れて来るから、ここで待ってろ!」
 そう言い捨てるや、マイクは車に向かって駆けだします。

 そして5分後、ビレッジへ着いたマイクは往診に出ようとしている医者をタイミング良くつかまえることができました。
 「先生(ドック)、大変なんだ。おれの友人が毒蛇に噛まれて死にかかってる。一緒に来て下さい」
 「きみ、無理を言っちゃ困る。わしの身体は1つ、それに重病人が待っておる」
 「それじゃ、おれの友人には死ねって言うんですか?」
 「あわてちゃいかん。毒蛇に噛まれたぐらい、きみでも応急処置はできる・・・・・・ところできみ、ナイフを持っているかね?」
 「ええ」
 「それはいい。まずナイフを火で焼く。もちろん消毒のためだ。次に噛まれた傷口を中心として、そのナイフで十字の切れ目を入れる。そこからきみが毒を吸い出せばいいんだ。簡単なことだよ・・・・・・それはそうと、噛まれたのが足か腕か知らんが、身体中に毒が回らないよう、根本をちゃんと縛っておいたかね?」
 「今は本人が押さえてます」
 「それはいかん。まず縛ってから、いま言った処置をするんだ。それからここへ連れてくればいい。急げ!」
 「わかりました先生(ドック)、どうもありがとう」
 マイクは車に飛び乗ると、もと来た道を急ぎます。しかし、心なしか、先ほどと比べてスピードが落ちていなくはありません。

 友人の待つ森にマイクがたどり着くと、
 「先生(ドック)はどこだ?」
 毒が回らないよう、しっかりと局部を握りしめたトムが言います。あえぎながらマイクを見つめ、返答を待つ彼の額には脂汗が浮かび、いかにも苦しそうです。
 「すまん! 先生(ドック)を見つけることは見つけたんだが、他に急用があって来られないそうだ」
 「じゃ、解毒剤でももらってきてくれたのか?」
 「いいや・・・・・・」
 「そうか、きみに治療方を言うとかしたんだな?」
 「言うことは言ったんだが・・・・・・」
 「で、先生(ドック)はなんて言ったんだ!」
 しばし躊躇したマイクが、
 「トム、きみには悪いが・・・・・・先生(ドック)の言うには手遅れらしい」



 この小咄(ジョーク)を知り合いの女性に話したところ、彼女が言いました。
 「ハリウッドだと、そうはいかないわね」
 「なぜ?」
 「だって、ゲイが多いんですもの!」



 また、この小咄(ジョーク)と状況設定はまったく違っていながら、オチが同じパターンの「ヤクザの通訳」というエピソードもあります。

 ニューヨークでも有数の日本人税理士である加藤は、顧客の1人であるマフィアのボスから次のような依頼を受けます。
 「日本のヤクザが50万ドルを持ち逃げし、なんとかその男を捕らえたものの金の隠し場所はわからず、言葉もわからないので通訳として来てもらえないだろうか?」
 了承した加藤がマフィアのアジトへ赴くと、そこでは1人のヤクザが椅子に縛られていました。マフィアのボスは、
 「金をどこへ隠した? 早く言え!」と、ヤクザへ英語で怒鳴り、すぐにそれを加藤が通訳します。
 「そんなこと、言うわけねえだろうが!」と、ヤクザは日本語で怒鳴り返し、加藤が通訳すると、今度はボスがどこからともなく拳銃を引き抜くや、ヤクザの右膝を撃ち抜くのです。
 「もう一度聞く。金はどこだ?」
 「教えるもんか!」
 加藤がそのままの言葉を伝えると、今度はヤクザの左膝を撃ち抜いたボスが、
 「なかなかいい度胸だ。しかし、もう次はないぞ。これが最後のチャンスだ。もしこれで喋らなかったら、お前の頭を撃ち抜く。さあ、金はどこだ?」
 加藤がその言葉を訳して伝えると、さすがのヤクザも顔を歪めてこう叫びました。
 「わ、わかった。すべて話すから助けてくれ。いいか、俺の家のガレージに停めてある車の助手席の下を見ろ。そこに隠してある」
 それを聞いた加藤は、涼しい顔でこう通訳します。
 「彼は今こう言いました、『死ぬことなど、まったく怖くない。お前など地獄に落ちろ。さあ、殺すなら殺しやがれ!』と」


筆者から一言 

「キャンプ」は拙著「9ケ月+21日世界一周(1987年)」からの抜粋ですが、その原案はパブリック・ドメインであり、著作権の対象となりません。