チャイニーズ・ディテクティブ


 ジェーソン氏は中年の貿易商、妻と共に中国へ返還される間際の香港を訪れ、早3ケ月目も終わりに差しかかろうとしていました。当初、氏の仕事が忙しくて自分のことを構ってくれないとこぼしていたジェーソン夫人は、最近になってがらっと態度が変わり、文句1つ言いません。どうやら浮気をしているらしい・・・・・・そう思ったジェーソン氏はチャイニーズ・ディテクティブ、つまり中国人の探偵を雇います。名前がチェン、英語は達者じゃありませんが、真面目でよく働きそうなので、彼を採用したわけです。

 連日、チェンはたどたどしい英語で報告を入れてきます。しかし、これといった成果もないまま数日が経ち、
 「ジェソンさん、わたしチェンあるよ。あんたの奥しゃん、今日、男と会ったあるね」
 「なに、ついに現場を押さえたか!・・・・・・よくやった。それで?」
 受話器を持つジェーソン氏の気が逸(はや)ります。ただでさえわかりにくい英語なのに、氏が急かすものですから、ますます手間取りつつ、どうにか話の核心へ近づいてきました。
 「じゃあ、家内は1人でそのホテルに入り、2階の部屋で男が待ち受けていたと言うんだな?」
 「そうあるよ」
 「そこで、お前は木に登って、窓から2人を観察した・・・・・・そうだな?」
 「ヤー、ヤー」
 「で?」
 「ヒー・ドゥー・シー」
 「・・・・・・『彼が彼女にした』と言うのか・・・・・・いったい何をしたんだ?」
 「抱いたあるね」
 「それから?」
 「ヒー・ドゥー・シー」
 「次はなんだ?」
 「キスよ、それも熱い熱い!」
 「ふむふむ」
 「そして、シー・ドゥー」
 「今度は家内が何かしたのか?」
 「服縫いだ」
 木の上で双眼鏡を覗(のぞ)きながら興奮するチェンの様子が、受話器を通じて生々しく伝わってきます。
 「2人はついにベッドに入ったんだな・・・・・・それで?」
 いよいよ核心に触れるからなのか、チェンは一呼吸おいて、
 「アイ・ドゥー」
 「どうして、お前が登場するんだ・・・・・・」

 なんのことはありません、そこで興奮したチェンが木から落ちて気を失うのです。かくして可哀相なチャイニーズ・ディテクティブ、気ばかりでなく職まで失ってしまいました。



 どうもチェンの一族は英語でドジッてばかりいるようです。ジェーソン氏の本拠地ロサンゼルスには、チェンの甥リンが住んでいます。家族とアメリカへ移住して間もないリンは、ハイスクールで外人生徒用の特別教室に入れられました。アジアばかりでなく世界各地から集まった生徒がいるこの特別教室は、当然ながら普通のクラスより英語に重点が置かれているわけです。
 ある日、いくら質問しても手を上げる生徒がいないことに業を煮やした教師は、
 「それじゃ、きみたちの中で『Son of a Bitch (淫売の息子)』の意味がわかる人は手を上げて」
 それまで静まり返っていた教室が俄(にわ)かに活気を帯びます。ほぼ全員が手を上げているのをひととおり見回し、
 「よし、リン君。答えたまえ」
 指名されたリンは意気揚々と立ち上がり一言、
 「先生、それはサンタモニカにある海岸の名前です」



 アメリカ・インディアンの先祖は中国人だと言われていますが、そのインディアンと英語の小咄でこういうのもあります。

 1人の伝道師がインディアンの酋長に英語を教えながら、一族の住む村へ入ろうとしていました。ちょうど彼らの前を通りかかった犬を指差した伝道師は、
 「ドッグ」
 首を縦に振った酋長が、
 「ドッグ」と、伝道師に倣って言います。
 しばらく歩くうち、焚き火で料理をするところを見た伝道師は、その焚き火を指差し、
 「ファイアー」
 それを倣って、
 「ファイアー」と、続く酋長。
 そして、トーテンポールへ差しかかった彼らがふとその下の藪を見ると、そこでは裸の男と女が抱き合っていました。職業柄「セックス」と言えず、言葉に詰まった伝道師は、
 「あー、ラ・・・・・・ライディング・バイセクル(自転車)」と、何とか誤魔化します。
 ところが、酋長は無言で矢を1本引き抜くや弓をかざして裸の男を射るではありませんか! 後頭部へ矢が刺さり、裸の男は即死です。腰を抜かさんばかりに驚いた伝道師が、
 「な、なぜ、あなたは彼を殺したんですか?」
 酋長が応えて曰く、
 「あいつ、わしのバイセクル(自転車)に乗ってたある」


筆者から一言 

「チャイニーズ・ディテクティブ」は拙著「9ケ月+21日世界一周(1987年)」からの抜粋ですが、その原案はパブリック・ドメインであり、著作権の対象となりません。