ローマ法王


 あるイタリアの小都市での出来事・・・・・・その都市の中心部にある宮殿前の広場では、一目ローマ法王を見ようと民衆が詰めかけていました。みんなが今か今かと待ちかねる中、宮殿のバルコニーへ1人の男が現われます。一瞬、群衆の歓声で埋まった広場も、男はローマ法王でないことがわかるや再び元の静けさに戻り、そのタイミングを見計らったごとく、
 「皆さん、今日は法王のため、これだけ沢山の人々が集まって下さって誠にありがとうございます! 間もなく準備は整いますので、もう少しお待ち下さい」
 そう言って男が引き下がった後、民衆はしびれをきらしながらも、じっと待ちます。1分、2分、3分・・・・・・時が流れ、およそ20分ほど経った頃、またもやバルコニーへ姿を見せるのは先ほどの男です。
 「皆さん、ただいま法王の心臓具合がすぐれませんので、もうしばらく我慢して下さい。10分もすれば良くなる見込みですから」
 それから、さらに20分が経過して、
 「皆さん、法王のご容態は芳しくありません。いま医者が来たところなのですが、どうやら心臓移植をしなくてはならないようです。そこで皆さんにご協力いただきたい!」
 それまでざわめいていた群衆が静止、すべての視線はバルコニーの男へ集中します。固唾を呑んでたたずむ群衆をゆっくりと見回した男が一息ついて、
 「さて、心臓移植をするにあたっては提供者(ドナー)が必要です。もしも、この中で自分の心臓を法王へ捧げたいと思う人は名乗り出て下さい」
 しばしの沈黙をおいて中の1人が、
 「おれの心臓を使ってくれ!」
 それを引金として、
 「ぼくが・・・・・・」
 「いや、わたしが・・・・・・」
 群衆は、ほとんど全員が手を上げながら口々に叫びます。
 男は両手を掲げ、興奮する群衆を制すると、
 「こんなにありがたいことはありません! 皆さんの気持ちを知れば、法王もさぞ喜ばれることでしょう。しかし必要な心臓は1つ、皆さんの中から1人だけ選ばなくてはなりません。それも公平に選びたい・・・・・・こういうことにしましょう。わたしの手元に1枚の羽根があります。今からこれを投げますから、その羽根をつかんだ人が運よく提供者(ドナー)に選ばれるのです」
 そして、男の手を離れた1枚の羽根は、熱狂的な争奪戦へ備えるかのごとく、ゆらめきながら群衆に向かって落ちてゆきます。すると、それまで手を上げていた群衆が一斉に手を下ろし、それぞれ自分のほうへ向かって飛んでくる羽根を、一生懸命になって吹き返し始めました。



 ある時、ローマ法王の元に日本企業から献金の申し込みがありました。額はなんと1,000万ドル、しかしその条件として祈りの一部分、すなわち「我らの日用の糧を今日も与えたまえ」という箇所の「日用の糧」を意味する「ブレッド」を「スシ」に変えてほしいというのです。憤慨したローマ法王が、当然ながら断ります。
 しかし日本人たちは諦めず、数日後に献金額を2,000万ドルまで引き上げ、前回と同じ申し出を行ってきました。日本人たちは、どうしても「毎日のブレッド」を「毎日のスシ」へ変更したいようです。が、ローマ法王は動ぜず、この要求も避けます。それでもしつこい日本人、とうとう献金額が5,000万ドルにまで達し、さすがのローマ法王もこれを認め、枢機卿たちを集めて言うのです。
 「今日は良いニュースと悪いニュースがあります。どちらから話しましょうか?」
 「では、良いニュースからお願いします」
 そこで、一息ついた法王が、
 「良いニュースというのは、5,000万ドルもの献金をいま受けたところです」
 枢機卿たちから笑顔と歓声がこぼれます。
 「で、悪いニュースというのは?」
 法王が溜息混じりで答えるには、
 「今後、ロイヤル・ブレッド社からの献金がなくなってしまうことです」


筆者から一言 

「ローマ方法」の一部は拙著「9ケ月+21日世界一周(1987年)」からの抜粋ですが、その原案はパブリック・ドメインであり、著作権の対象となりません。