土曜のみ
田中さんは農協預金もがっぽり、土地を売った金でアパートを建て、悠々自適の余生を送っています。世間のクレジットカード・ブームに「わたすも乗っかってみっか」・・・・・・それを耳にした勧誘員が、軒並み彼女の家を訪れました。
それぞれ、自社のカードはどれだけ優れており、また他社のカードにどのような欠点があるかを必死で説明するため、田中さんとしては決めかねているところです。連日のごとく押しかける勧誘員に「アメリカン・エクスプレス」のそれが混じっていたことは言うまでもないのですが・・・・・・「わたす、絶対あんたのところはお断りだからね!」
たとえ「マスターカード」であろうと「ビザ」であろうと、いちおう説明を聞く田中さんなのに、どういうわけだか「アメックス」に限って頭から拒否します。それでも勧誘員は食い下がり、
「・・・・・・ですから、田中さんのような資産をお持ちのかたへは、普通のカードじゃなく『ゴールド・カード』をご用意させていただきます。社会的な信用度も『アメックス・ゴールド・カード』に優るものはございません」
「いいや、いらねえ」
「せめて、パンフレットだけでも読んでいただけませんでしょうか?」
「いらねえと言ったら、いらねえ!」
「何か特別な理由でも?」
「わたす、土曜日しか使えないカードなんて嫌だ・・・・・・不便でねえの」
「どういう意味でしょうか?」
「だって、あんたとこのカードは土曜日しか使えねえだ」
「誰がそんなことを・・・・・いつだってお使いいただけますよ」
「これだから、あんたのところは信用ならねえ・・・・・・TVで、あんだけ『土曜のみ』と宣伝しておきながら、まったく図々しい。わたすを誤魔化そうたって駄目だからね」頭がクエッションマークで埋まったまま、しばし首をかしげる勧誘員は、突如として膝を叩きます。田中さんの言った理由が、ようやく閃いたのです。それは田中さんの完全な誤解でした。TVコマーシャルでアーノルド・パーマーなどの有名人が言う台詞の聞き間違い・・・・・・「Do you knou me?」→「ドゥー・ユー・ノウ・ミー?」→「ドーヨーノーミー」→「土曜のみ」・・・・・・と。
謎は解けたものの、いったんこうと決めつけた年寄りの頭をほぐすことは容易ではありません。結局、勧誘に失敗し、田中さんの家を出た勧誘員の後ろ姿が夕焼けの中でシルエットとなり、そのガックリ両肩を落としたシルエットは、ゆっくりと田舎道を遠去かってゆきます。そこへオーバーラップしてくるのがアーノルド・パーマーの笑顔、
「Do you know me?」
「はい、知ってます」
田中さんの住む隣町で、農協主催の海外旅行が企画されました。行き先はロサンゼルスです。いよいよ出発の日が来て、参加者一行は成田空港を飛び立ちます。そしてロサンゼルス到着後、空港からバスでダウンタウンへ向かった一行がホテルでチェックインの際、宿泊カードは各自が記入しなくてはなりません。添乗員が書き方をひととおり説明し、わからないことは聞けばいいわけです。
ただ、添乗員も忙しく、参加者の中でわかる者に聞くほうが手間はかかりません。親子で参加した山本さんの場合、中学生の息子が宿泊カードの英語ぐらいは読めます。その息子へ父親が、
「おい、ここは何と書くだ?」
「名前だよ」
「ここは?」
「住所」
「で、ここは?」
「セックス」
「・・・・・・」
相手が自分の息子だけに、どういう意味か聞き返すのをためらった父親は、黙って書き込みます。また、聞いたとしても、息子自身、それが「性別」の記入欄であることを理解していないため、結果は同じです。
父親が自分の解釈で何やら書き込んでいる横から、こんどは同僚の清水さんが首を伸ばし、
「そこへセックスを書かんといかんべか?」
「ああ」
かくして、添乗員が回収してみると、山本さんの宿泊カードには性別の項目が「週2回」と書かれており、清水さんのほうはといえば「土曜のみ」・・・・・・彼らを見習い、個性豊かな人生を送りたいものですね!
筆者から一言
「土曜のみ」は拙著「9ケ月+21日世界一周(1987年)」からの抜粋ですが、その原案はパブリック・ドメインであり、著作権の対象となりません。