ディズニー・オンラインはここをクリックして下さい
(1997年1月16日)          




オスカー・レース先行馬

今年(1996年度)のアカデミー賞はノミネートの枠数以上に素晴らしい演技や作品がひしめき合い、近来希な緊迫したレース展開を期待できそうです。ノミネートはもう少し先のことですが、現在までの時点で公開されている映画を「ハリウッド最前線」なりの観点から検討し、いわば「新春特別予想」として主演オスカー候補を選んでみました。


主演男優賞ノミネート

  トム・クルーズ("エージェント")
  ジェフリー・ラッシュ("シャイン")
  リアム・ニーサム("マイケル・コリンズ")
  レイフ・ファインズ("イングリッシュ・ペイシェント")
  デンゼル・ワシントン("戦火の勇気")

主演女優賞ノミネート

  ウィノーナ・ライダー("クルーシブル")
  ニコール・キッドマン("ある貴婦人の肖像")
  フランシス・マクドーマンド("ファーゴ")
  グウィネス・パルトロー("エマ")

そして、この中でオスカーを獲得するのは誰か?・・・・・・男優がトム・クルーズ、女優がフランシス・マクドーマンドと、「ハリウッド最前線」では予想しています。“オスカー選考委員会”が、はたしてどの主演俳優を選ぶかはさておき、今年も例の封筒を開ける儀式がハリウッドを賑わす季節の到来です。





シャロン・ストーンの姉弟愛

スクリーンでは気丈な女性を演じるシャロン・ストーンですが、私生活では意外と情が深いようです。彼女にはマイケルという弟がいて、まだ売れないモデル時代、10代で家出をした彼とは音信不通のままでした。ある日突然、この弟からの電話で、一度に8トンもの大麻を動かすプッシャー(麻薬の売人)となった彼が逮捕されたあげく、懲役15年の刑を宣告されたことを知らされます。弟に泣きつかれたストーンは、50万ドルという莫大な弁護士費用の1部を、所属するモデル事務所からの借金で埋め合わせたそうです。ホテルの部屋で逮捕された時、1キロ近いコカインを保持し、マフィアの手先として月々10万ドル稼ぐプッシャーだった彼も、その後8年間の刑務所暮らしですっかり更正しました。今はストーンとアカデミー授賞式へ出席したり、駆け出しの俳優であるマイケル自身、自分の人生が変わったのは、下済み時代にも拘わらず援助を惜しまなかった優しい姉のおかげだと、ストーンへ感謝の意を表しています。





両刀使い

これまでは超過激なロックバンドのリードシンガーとして、また自殺した“ヌーバナ”のボーカリスト、カート・コベインの妻としても知られるコートニー・ラブが、新春映画“ラリー・フリント”の華々しいデビューで話題を呼んでいます。この作品はプレイボーイ、ペントハウスと並ぶアメリカのメジャー男性誌、ハスラーを創設したラリー・フリントのセックスと薬物まみれの赤裸々な私生活がモデルとなった事実に基づく物語です。ウッディー・ハレルソン("ナチュラル・ボーン・キラー")扮するフリントは、銃撃されて半身不随となりながらも表現の自由を追求し続け、コートニーがその妻で麻薬中毒のエイズ患者を文字通り体当たりで演じています。最近、ガラの悪い女というイメージから脱皮し、ミュージカル“エビータ”ではアルゼンチンの伝説的英雄の生涯を演じたマドンナといい、“天使の贈りもの”でチャーミングな容姿とズバ抜けた歌唱力を披露しているホイットニー・ヒューストンといい、歌手でありながらデミ・ムーア、サンドラ・ブロック、ウィノナ・ライダーといったハリウッドの目玉女優と並ぶ存在感を誇るマルチタレントが増えてきました。コートニーもこの映画をきっかけに一躍スター街道をばく進するかもしれません。また、両刀使いのタレントはアメリカの女性歌手ばかりでなく、53歳の今も皺クチャの顔と痩けたボディーでステージ狭しと暴れまくるローリング・ストーンズのミック・ジャガーが、かつて“パフォーマンス”で主演、同じイギリスのロックシンガー、デビッド・ボーイは映画出演の常連組といえます。ともあれ、売れっ子歌手達もマドンナやホイットニーのように映画界への転身を夢見る人が多いようです。これまで映画デビューを果たした他の歌手をざっとあげれば、


人気カントリー・ポップ歌手メリッサ・エスリッジ
'60年代を象徴する歌手ジャニス・ジョプリンの伝記映画に主演。

アイルランドの問題児シニード・オコーナー
ニール・ジョーダン監督("クライング・ゲーム")の“ブッチャー・ボーイ”に、なんと聖母マリア役で出演。

“ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック”のドニー・ウォールバーグ
"身代金”に出演。

その兄弟でマーク・ウォールバーグ
"マーキー・マークとファンキー・バンチ”というよりは例のカルビン・クラインの下着コマーシャルが有名だったマークは“バスケットボール・ダイアリーズ”に出演。

ロックバンド“ボンジョビ”のリーダー、ジョン・ボン・ジョビ
“ムーンライトとバレンチノ”に出演。

“ブロンディー”のリードシンガー、デボラ・ハリー
リック・ベイカーのSFX(特撮)が注目を浴びたSFスリラー“ビデオドローム”でジェームズ・ウッズと共演以来、“フロム・ザ・ダーク・サイド”や“ヘビー”に出演。ブロンディーを解散し、しばらくソロ活動を続けた後は、ミュージシャンというより、むしろ俳優稼業が目立つ。

クリス・アイザックとヘンリー・ロリンズ
日本で生活した経験もあるクリス・アイザックは去年の夏“すべてをあなたに”に出演、マッチョなロック歌手ヘンリー・ロリンズもキアヌ・リーブス主演の“JM”に出演。

ジャネット・ジャクソン他
"ボーイズ'ン・ザ・フッド”以来すっかり俳優じみているアイスキューブ、最近ラスベガスで銃殺されたトゥーパック・シャクーラ等のラップ軍団や“ポエティック・ジャスティス”でシャクーラと共演したジャネット・ジャクソン。

という大混戦の中、映画スターが歌手の領域を荒すという逆のケースもあります。その代表選手には、最近CDまで出した過激ロックバンド“P”を率いる、サンセット通りの有名なクラブ“バイパー・ルーム”(故リバー・フェニックスが麻薬中毒死した場所)のオーナーでもあるジョニー・デップ("エドワード・シザーハンド")、“スピード2”を降板してまで自分のバンド“ドッグスター”とコンサートツアーを続けるキアヌ・リーブス、自分のヒット映画“フットルーズ”の曲を中心に活動しているバンド“ベーコン・ブラザーズ”のケビン・ベーコン("スリーパーズ")といった若手がいる他、ブルース・ウィルスやルー・ダイヤモンド・フィリップス("戦火の勇気")のように趣味でバンドを結成しているスターもいます。ミッシェル・ファイファーは“恋のゆくえ〜ファビュラス・ベイカー・ボーイズ”で歌手役を好演していますが、歌うシーンは吹き替えを使わずすべて自分でこなしました(ちなみに“バック・トゥー・ザ・フューチャー”でマイケル・J・フォックスがギターを弾くシーンは吹き替えです)。こうして見れば映画スターとミュージシャン、“隣の芝は自分の庭より緑(あお)く見える”というアメリカの諺を地で行くような図ですね。もっとも、往年の映画スター、ビング・コロスビー、フランク・シナトラ、エルビス・プレスリーや最近のベット・ミドラー("ファースト・ワイブス・クラブ")が元々れっきとした歌手だったことを考えると、どちらもエンターテイナーとして根本は同じなのかもしれません。





熟年マーケット

離婚経験のある中年女性の心理を面白く描いて大ヒットした“ファースト・ワイブズ・クラブ”が、ダイアン・キートン("アニー・ホール")、ベット・ミドラー("ローズ")、ゴールディー・ホーン("プライベート・ベンジャミン")という、峠を越した(?)女優3人のキャリアを復活させた例に示されるごとく、最近のハリウッド映画のトレンドは“中年”がテーマのようです。ジャック・レモン("ラブリー・オールドメン")とジェームズ・ガーナー("マーベリック")の老練俳優がそれぞれ元大統領に扮して大活躍する冒険コメディー“マイ・フェロー・アメリカンズ”や、シャーリー・マクレーン主演の”イブニング・スター”が新春公開という華々しい配給スケジュールに乗れたのも、この熟年ブームのせいでしょう。以前、僕もプレイするマリブ・カントリークラブでよく練習していた前出のジャック・レモンなど、若い頃の全盛期よりも忙しいと嬉しい悲鳴をあげています。現在、彼は“ラブリー・オールドメン”とその続編“ラブリー・オールドメン2”でコンビを組んだウォルター・マッソウ("わんぱくデニス")と老人2人の冒険コメディー“アウト・トゥー・シー(海へ繰り出す)”を撮影中ですが、その他の老人パワー映画といえば、スーザン・サランドン("依頼主")を巡って旦那役のジーン・ハックマンとボーイフレンド役のポール・ニューマンが張り合う“マジック・アワー”も快調に進行中です。ただ、このトレンドは最近のX世代向けの作品やティーン層を狙った映画の興業成績が不振なことも原因となっており、観客はいつまで50〜60歳代の主役に満足しているかが課題でしょう。子供、ベビー、ティーン、ヤッピー、X世代、大人、老年と、次から次へ目先を変えるハリウッド、さて次のトレンドは何になるのやら?





台頭するブラックパワー

    

今では“アフリカン・アメリカン”と呼ばれる黒人のタイプキャスティング(典型的な配役)が、ギャング、ドラッグ・ディーラーというのはハリウッドの相場でした。最近、こうした従来の枠を超えるばかりか、脚本上白人の役にまで進出する才能ある黒人スターの活躍が目立っています。キアヌ・リーブス主演“チェイン・リアクション”で神秘的な師匠役を演じたモーガン・フリーマン("セブン")、メガ・ヒット“インディペンデンス・デイ”で地球を救うパイロット役のウィル・スミス("バッド・ボーイズ")、法廷スリラー“評決のとき”で強姦された幼い娘の敵を討つ被告役のサミュエル・L・ジャクソン、“ミッション・インポッシブル”でコンピュータの天才役を好演したビング・レームス、そして大ヒット作“身代金”で迫真の演技を見せたデルロイ・リンド(写真右)と、どれをとっても素晴らしい演技です。また、すでに主演級スターとして活躍中のエディー・マーフィーが見せた“ナッティー・プロフェッサー/クランプ教授の場合”での七変化や、“ファン”のウェスリー・スナイプス、あるいは1996年度の“最もセクシーな男優”に選ばれたデンゼル・ワシントン(写真左)の“戦火の勇気”で見せた演技も印象的でした。加えて、“グリマーマン”でスティーブン・シガールと共演したキーナン・アイボリー・ウェヤンズ、“イレイザー”でシュワルツェネッガーの相手役を務めた歌手のバネッサ・ウィリアムスや“チェンバー/凍った絆”のレラ・ラションなどの新勢力が個性的な演技でスクリーンを賑わし、“天使の贈りもの”のホイットニー・ヒューストンや“ゴースト・オブ・ミシシッピー”のウッピー・ゴールドバーグに続いています。一昔前までは、黒人スターといえば太い声("ライオン・キング"の父親の声優)と渋い演技("フィールド・オブ・ドリームス")で有名なジェームズ・アール・ジョーンズや“夜の大捜査線”でアカデミー賞を受賞したシドニー・ポワチエぐらいだったのが、今や前出の俳優個々の活躍のみならず、ホイットニー・ヒューストン、アンジェラ・バセット("ティナ")ほか4人の黒人アンサンブル・キャスティングで成功を収めた“ため息つかせて”のような作品も登場し、ブラックパワー躍進へ貢献しているようです。さらに、期待のSFコメディー“メン・イン・ブラック”ではキアヌ・リーブス降板と入れ替わってウィル・スミスが主演を射止めたり、スタローン用に企画された昨夏のアクション企画“ソロ”ではマリオ・バン・ピープルズ("ニュー・ジャック・シティー")が主演を務めたり、白人コメディアン・コンビ、ジョン・ロビッツ("スペース・エイド")とデイナ・カービー("ウェインズ・ワールド")を想定して企画されたバディー(仲間)アクション映画“バッドボーイズ”がウィル・スミスとマーチン・ローレンスの黒人コンビで爆発的ヒットを収めるなど、ようやくハリウッドも良い意味でのカラー・ブラインド(色盲)になってきたんだと思います。“戦火の勇気”で黒人スターとして初めて1、000万ドルのギャラを獲得したデンゼン・ワシントンは、トム・ハンクス、ハリソン・フォードといった超大物スターを押さえて“マルコムX”(1992年)以来2度目の主演オスカー候補ノミネート(1989年に“グローリー”で受賞したのは助演オスカー)と噂されるほどの演技を披露しました。この事実が、スパイク・リー("ゲット・オン・ザ・バス")、ジョン・シングルトン("ボーイズ・イン・ザ・フッド")両監督から始まったハリウッドの人種革命の実りといえるのではないでしょうか!?




(1997年1月16日)

Copyright (C) 1997 by DEN Publishing, Inc. All Rights Reserved.