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(1997年2月16日)          




不沈艦へ託されたドラマ

ケビン・コスナー主演のSF大作“ウォーター・ワールド”が興行的に大失敗して以来、もう「水」と係わるテーマで巨額をつぎ込むのはコリゴリかと思われたハリウッド映画業界ですが、現在メキシコで撮影中の“タイタニック”から、そんな懸念はまったく感じられません(いったん「水商売」を始めると、それだけ足を洗いにくいってことですか?)。この“ターミネーター”シリーズや“トゥルー・ライズ”の鬼才ジェームズ・キャメロンが監督する新作は、タイトル通り、1921年不沈鑑といわれながら氷山に衝突して呆気なく沈没する豪華客船タイタニック号の惨事を描いた大型アクション・ドラマです。メキシコで特設スタジオを建設したり、現在1,200万ドルを超える製作費は今後まだ増え続け、完成の時点で1、800万ドルが注ぎ込まれると見積もられています。公開を予定している夏休みは、年末と並び興行シーズンのうち各社がもっとも力を入れる重要な時期であり、中でも目玉の“タイタニック”へ託された夢は、それ自体が1つのドラマといえるでしょう。レオナルド・ディキャプリオ("ロメオとジュリエット")、ビル・パクストン("ツイスター")、そして新人ケート・ウィンズレット("ハムレット")の主演で、パラマウントと20世紀フォックスが製作費を折半し、その投資分たるや回収はアメリカ国内の売上が最低2億ドルなければおぼつかないという、一大ギャンブルなのです・・・・・・などと囲りで騒ぎたてるのを尻目に、さすがSFX(スペシャル・イフェクト)アクションの神様と呼ばれる「アイアン(鉄人)ジム」ことキャメロン監督、製作への意気込みは並々ならぬものがあります。海底に横たわる実物の無惨な姿を撮るため自ら潜水艦で深度400メートルまで潜ったり、メキシコの巨大なスタジオへコンピュータ操作で傾く仕掛けの長さ25メートル、高さは6階建のビルに匹敵するタイタニック号のセットを作ったり、大ヒット作“ターミネーター2”にも優る緊迫したアクション大作を仕上げてみせると自信満々です。テーマが豪華客船のパニック映画といえば、まず思い浮かぶのは1972年度作“ポセイドン号の冒険"(ジーン・ハックマン主演)ですが、あれだけ成功した理由は、やはり当時のハイテクを駆使した撮影が大きく、そういった点も含め、これら新旧2本の映画を比較すると面白いかもしれませんよ!





暇なしウィリアムス

"ジャック”での、体だけ大人になってしまう少年役が印象的だったロビン・ウィリアムスは、現在コメディーを監督させればハリウッドで人気ナンバー・ワンのトム・シャディアック("ライアー・ライアー")が製作準備中の“パッチ・アダムス”で主演の第1候補です。ところが、最近は超多忙なためスケジュール調整が出来るかどうか微妙なところ・・・・・・というのも、ビリー・クリスタル("シティー・スリッカーズ")との共演作“ファザーズ・デイ(父の日)”を撮り終えたばかりのウィリアムスは、さっそく往年のディズニー・ヒット作“アブセント・マインデッド・プロフェッサー/フラバー”のリメイク版の撮影に入っている他、撮影スケジュールこそ未定ながら、文豪セルバンテスの名作“ドン・キ・ホーテ”での主演が控えています。また、10月1日の「最新情報」で紹介したスティーブン・スピルバーグ監督の企画“ニューポート”では自閉症の主人公役も決まっており、忙しさたるや極みありません。そんな現状ですが、当人は何としても“パッチ・・・”へ出演したいようです。バージニア州で無料奉仕の医療クリニックを運営する献身的な医者をモデルとして、ペット探偵エース・ベンチュラ2”のスティーブ・オイデカーク監督が脚本を書いたこの物語に、さあウィリアムスは出演できるでしょうか?





また1人、テキサスから!

12月13日の公開直後、ボックス・オフィスで1位となって以来、未だヒット中の“エージェント”は、前回の「お先に失礼!」でも取り上げたばかりです。その劇中、トム・クルーズの相手役の若き未亡人役を好演したレニー・ゼルウィガーが、従来の華麗なスター・イメージと少し違うダウンホーム(庶民的)な魅力で、このところ注目を集めています。そもそも、TVの脇役やコマーシャル出演と平行して大学へ通うゼルウィガーは、ある日突然、元ローリングストーン誌記者キャメロン・クロウ監督("シングルズ")の推薦で、この作品のスクリーン・テストを受けることになりました。スーパースター、トム・クルーズ演じる理想を追うタレント・エージェントを、5歳の子持ちでありながら陰で支えてゆく気概のある未亡人が彼女の役柄です。それをオーディションで見事に演じたのをクルーズとクロウから絶賛され、スタジオ側は大物女優の配役を希望していたにも拘わらず、その要望を蹴って彼女の配役が決まりました。じっさい、ご覧いただければ判るように、スクリーンを通じて伝わってくる繊細で逞(たくま)しい彼女のキャラクター作りは、全米映画批評協会推薦最優秀新人スター賞受賞へとつながります。テキサス州(牧場のイメージが強い一方では、この州から出た有名な白人の女優やモデルも多く、美女の産地として有名)出身の元陸上競技選手でオリンピック出場を夢見たゼルウィガー、現在27歳の彼女がもっとも期待される新人女優の1人であることは間違いありません。そんな彼女が見て、クルーズの体の囲りには一種のオーラ後光(オーラ)が射しており、彼はその光を周囲の人々へ分け与えるような触れ合いかたをするとか・・・・・・それが、この映画の撮影と並行し、“ミッション・インポシブル”での主演およびプロデュースもあったクルーズは、ゼルウェガーとのシーンが撮り終わるや編集所へ急行しなくてはならなくなりました。おかげで、絶世の美男子との強烈なロマンス・シーンの余韻が、最初は彼女を戸惑わせたようです。トムが「You complete me. I can't live without you.(僕は君がいてはじめて一人前なんだ。君なしでは生きていけない)」などと言うシーンを撮影した直後、いなくなるわけです。シーンの余韻を独りで背負うハメになった彼女の気持ちがわかるような気もします。ともあれ、やはりテキサス州出身の大型新人マシュー・マッコナヒー("評決のとき")同様、ハリウッドの新風となりつつあるゼルウィガーです。





カリブの熱い風!

自分のバンド“ドッグスター”の公演ツアーを理由に、キアヌ・リーブスが1、100万ドルという莫大のギャラを蹴って降板した“スピード2”は、以来、何かと噂が絶えません。監督のヤン・デ・ボン("ツイスター")によると、続編のヒーローは特別リーブスを意識して考案したわけじゃないそうです。配役で最大の課題となったのが、1作目への出演をきっかけに今やトップスターのサンドラ・ブロックと息が合うかどうか?・・・・・・こうして新しいヒーローはジェイソン・パトリック("スリーパーズ")で決まり、映画の幕が開きます。1作目からの流れを印象づけるごとく、「ジャック・トラベン(リーブス)との恋は異常な状況下で芽生え、けっきょく長続きしなかったわ」とか、「今は新しい恋人(パトリック)に夢中なの」というサンドラの台詞で始まるオープニング・シーンが終わるや、ローラーコースターの世界・・・・・・豪華客船「レジェンド号」の船上で繰り広げられるアクションは、かならず観客の度肝を抜くと太鼓判を押すヤンです。現在、カリブ海のセント・マーチン島で架空の街を築いたり、先の“タイタニック”じゃないですが、車輪付で長さ75メートルという大型客船のモデルを作って撮影進行中。筋書はまだ極秘ながら、みなさんのために少しだけバラしましょう・・・・・・ウィレム・デフォー("イングリッシュ・ペイシャント")扮する狂気のコンピューター技師が、自ら開発したハイテク航海ナビゲーターで豪華クルーズ船をシージャックし、孤島の街へ衝突を企てます。それを阻むのは、たまたまこの船でラブ・クルーズ中の船客、いうまでもなくブロックとパトリックの2人という次第・・・・・・“ダイハード”シリーズ同様、主人公がなぜそこへ居合わせるかという疑問はさておき、この作品、客船モデル上に設置された広角レンズ付のカメラ数台をはじめ、水中撮影や数台のクレーンを動員したスケールの大きなスタントなど、“ダイ・ハード”シリーズで撮影監督としてならしたデ・ボン監督の手腕がじゅうぶん発揮されています。いわば彼のトレードマークである盛りだくさんのアクション・シーン、クライマックスの衝突場面は、暴走バスが工事中のフリーウェイを飛び越えるオリジナルのシーンを上回るもの凄さだとか! 7月4日の独立記念日、いよいよカリブの熱い風とともにやって来る“スピード2"、今から胸がワクワクしますね!!





休み明けの教訓

期待はずれに終わった感のある映画界のクリスマス〜お正月シーズンでしたが、失敗の原因は何なのでしょうか? 僕自身が分析し、その教訓を探ってみた結果は・・・・・・


天使」の選択にご注意!

大物スター、デンゼル・ワシントンとホイットニー・ヒューストンの主演で注目されながら転けてしまった“天使の贈りもの”ですが、その理由は白人社会の出来事をほとんど黒人のキャストで製作したためで、白人映画ファンへこの種の映画がまだまだ違和感を抱かせることの証明となりました。実際の統計を見ても、この映画の観客層は大半が黒人映画ファンなのです。一方、同じ天使の主人公でヒットした“マイケル"、こちらはジョン・トラボルタ演じる薄汚い天使がダンスを踊るたびに、映画ファンは“サタデー・ナイト・フィーバー”や“パルプ・フィクション”を思い出し、彼らの共感を得たことが成功の大きな秘訣といえるでしょう。

流行り」を追うなら気をつけて!

シャーリー・マクレーンとジャック・ニコルソン主演“イブニング・スター”で、20世紀フォックスは名作“タームズ・オブ・エンディアーメント”に続く二匹目のドジョウを狙ったようです。しかし、オリジナルと比べて意外性や話題性が乏しい上、致命傷は“ファースト・ワイブズ・クラブ”にあやかった中年市場へアピールできないことでした。

歴史物」には無関心!

今世紀初期のアメリカで起こった魔女狩りを扱った“クルーシブル”は、文豪アーサー・ミラーの原作ということでも話題になりました。ところが、いざ蓋を開けてみると、デミー・ムーア主演で大転けの“スカーレット・レター”同様、観客は暗い時代背景のイメージを嫌ってヒットせず、名監督ロブ・ライナー("フュー・グッド・メン")の実話ドラマ“ゴースト・オブ・ミシシッピー”も、やはり人種差別裁判がテーマの“評決のとき”より遅れて公開されたためファンの興味をそそれず失敗しています。

時代遅れの「独り舞台」!?

バーバラ・ストライサンドが主演、製作、監督を担当した“ミラー・ハズ・トゥー・フェイセス”は、全米興業収益5,000万ドル突破と合格数字が出ているものの、大ヒットを予期していた製作スタジオのソニーとしては読みが外れました。そのしわ寄せは、映画の最初から最後まで出っぱなしの感があるバーバラを、観客は途中で見飽きたのかも? という反省の声へ反映されています。撮影中もワンマン(ワンウーマン?)ぶりを発揮して共演者に恐れられたり、我を通してスタジオを困らせたりと噂の多いバーバラ叔母さん、やはりあの天才的な「声」が彼女の良さであり、「顔」はほどほどにしておけば・・・・・・?

気ままな「女性ファン」!

前述の“ミラー・・・”同様、ターゲットに女性ファン層を狙って製作されたロマンチック・コメディー“素晴らしき日々”は、ジョージ・クルーニー(次期バットマン)、ミッシェル・ファイファー("デンジャラス・マインド/卒業の日まで")という豪華キャストながら、思ったほどの成果が上がりませんでした。統計を見れば、女性ファンのほとんどは男性ファン市場向けの“エージェント”へ靡(なび)いており、いくら「レディー・キラー」の新顔と巷で評判が高いクルーニーも、大御所トム・クルーズとはまだまだ格が違うって意味でしょうかね!?

求む! 「新アクション・スター」!!

ハリウッドきっての2大アクション・ヒーロー主演作、アーノルド・シュワルツネッガーの“ジングル・オール・ザ・ウェイ”とシルベスター・スタローンの“デイライト”が、どちらも多大な製作費をかけて不発に終わりました。これは中年となった2人へのファン離れが始まっているということです。最近はもっぱらバイオレンスと特撮が主流のアクション映画界で、カリスマ性のある新人は久しく現われていません。そろそろ若い大型ヒーローの登場が待たれます。

好き嫌いが激しい「ティーン・ファン」!

マイケル・ジョーダン主演“スペース・ジャム”の大ヒットにあやかるはずのスペース・パロディー“マーズ・アタック”は予想外の大転けとなりました。ティーンへ絶対的人気を誇るティム・バートン監督("バットマン"、"ビートルジュース")だけに、ショックが大きかったようです。彼のファンはSFをパロディった“マーズ・・・”より、MTVでお馴染みのアニメ・キャラクターが活躍する過激で斬新な“ビーバス&バッドヘット・ドゥー・アメリカ”のほうを好んだというわけです。

以上、「ハリウッド最前線」なりに分析してみました。失敗した当事者の場合、もちろん我々よりシビアーな立場とはいえ、彼ら自身で分析した結果も、さほど変わらないと思います。ただ、結果が似てようと似てまいとどうでもよく、肝心なのはそれを次回へどう活かすかです。ハリウッドを生活の場とする1人として、また映画ファンの1人として、業界の人間が自分自身や囲りの経験を活かしながら、より素晴らしい作品を生み出すことを祈ります。そして、素晴らしさの基準はみなさん1人1人の心・・・・・・映画を楽しんでちょっぴりでも人生が豊かになれば、それこそ素晴らしいじゃありませんか!!




(1997年2月16日)

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