今年で69回を数えるアカデミー賞、主立ったデータは「情報図書館」の「アカデミー賞データ」でご覧いただけますが、半世紀を超える歴史の中ではさまざまなハプニングがありました。その張本人たちは、騒がれるより騒ぐのが好きな人種かもしれません。彼ら(そして彼女たち)の巻き起こしたハプニングから印象深いシーンを、いくつか紹介してみましょう。 ![]()
(1997年4月16日)
オスカーは大騒ぎ!
1931年度: 禁酒法時代の真っ只中、とあるプレゼンターが禁酒法を痛烈に非難しました。すると、観客の1人は隠し持った酒の小瓶をかざし、大声で乾杯! 出席していた当時の副大統領チャールズ・カーティスは、苦虫を噛み潰したような表情で自分のコーヒーカップを見つめていたとか・・・・・・
1961年度: ポール・ニューマン主演作“ハスラー”で助演男優賞にノミネートされたジョージ・C・スコットは、「オスカーなんて、気違いじみた人気投票みたいなものさ。俳優同士が宣伝合戦や人気を競うところへ巻き込まれるのは絶対ごめんだね」と、ノミネート取り消しを要求した結果、その希望は取り入れられませんでした。しかし、名前がリストに残っただけで、助演オスカーそのものは“ウェスト・サイド物語”のジョージ・チャキリスが獲得しています。
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1970年度: “パットン大戦車軍団”で主演男優賞にノミネートされた“お騒がせ男”ジョージ・C・スコット、この年は「選ばれても賞を拒否する」と言い放った上、TVのアカデミー授賞式放送を「2時間に渡る、哀れな人体パレード」と酷評する始末。頑固な将軍を演じた重厚な演技が認められ、本人は欠席しながら受賞したものの、約束通りオスカーを受け取りませんでした。
1971年度: 現在は、タイム・ワーナー社と合併したばかりのCNNやメジャー・リーグ・チーム“アトランタ・ブレーブス”のボスであるテッド・ターナー夫人として、またワークアウト・ビデオの女神として体制派へドップリのジェーン・フォンダですが、当時はバリバリのベトナム反戦派戦士でした。売春婦を熱演した“コールガール”(話題作“デビル”のアラン・J・パクラ監督)で主演女優賞を射止め、ブーイングと拍手が渦巻く中でステージに上がり、かたずを呑む観客を見下ろした彼女は、「言いたいことが沢山あるんですけれど、今晩は控えておきます。ありがとうとだけ言わせて下さい」と、拍子抜けのコメント。父親である名優、故ヘンリー・フォンダが必死で懇願した結果という、もっぱらの噂でした。
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1973年度: 1932年に“愛の嗚咽”でデビュー以来、ノミネートされること11回、4個のオスカーを獲得したうち、“冬のライオン"、"黄昏(たそがれ)"、"招かれざる客”で3度も主演女優賞に輝き、自由奔放な性格で知られるキャサリン・ヘップバーンがプレゼンターとして登場。高価なイブニング・ドレスで着飾った女優陣をあざ笑うかのごとく、当時としては考えられないパンツ・スーツにサンダルという出で立ちが中傷の的でしたが、シャロン・ストーンのギャップ・Tシャツをはじめとする最近のトレンドを考えると、いわば時代を先取りした元祖的存在といえるかもしれません。
1977年度: パレスチナ民族解放を訴えるバネッサ・レッドグレーブ("シャイン”でデビッド・ヘルフガットの妻を演じるリン・レッドグレーブの姉)は、“ジュリア”で助演女優賞を受賞した際、「少数のバカなユダヤ人が、世界中のユダヤ人の恥さらしとなるような態度をとっています」とまくし立て、顰蹙(ひんしゅく)をかいました。政治的な発言の理由をプレス・ルームで聞かれ、「あんなの政治的でも何でもなく、たんなる私の意見よ」と、顔を真っ赤にして反論したバネッサの姿が、やけに場違いな印象だったのを憶えています。
1981年度: 受賞式の数週間前にドラッグ死したコメディー俳優ジョン・ベルーシ("アニマルハウス")の親友ダン・アクロイド("ゴーストバスターズ")は、式のプロデューサー、ハワード・コッチ("真夜中の向こう側")から「ドラッグのやり過ぎで死亡した人物への感傷的なコメントを避けるように」と忠告されていました。しかし、ビジュアル効果賞を受賞した“レイダース/失われたアーク”のプレゼンターとして登場した時、「僕のパートナーがここにいたら、この賞を授与することへ非常に名誉を感じたと思います。彼自身、特撮効果のような人間でした」と上手くごまかし、満場の喝采を浴びています。
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1993年度: スーザン・サランドン("デッドマン・ウォーキング”で1995年度の主演女優賞を獲得)とティム・ロビンス("ショーシャンクの空に")のカップルは、なぜか赤いリボンをつけて登場。賞を授与される直前、「HIVウィルスに感染したハイチ難民を、アメリカ政府が受け入れないのは不当である」と一席ぶって、赤いリボンが抗議の象徴だと訴えました。あまりのインパクトに、以来、彼らはアカデミー授賞式のブラックリストへ載ってしまったそうです。
1993年度: サランドンたちがブラックリストへ加えられた年、プレゼンターで颯爽(さっそう)と登場したリチャード・ギアも、いきなり「中国政府のチベットに対する虐待は許し難い」と一席ぶちました。しかし、自分が仏教徒である立場から訴えた彼の場合は、それ以後、この1件へ世間の関心が高まったところを見ると、一番効果的だったのかも・・・・・・
1996年度: 黒人その他の少数民族俳優がアカデミー賞候補から故意に外されているとして、黒人運動家のジェシー・ジャクソンは式場前でのデモ行進やTVの中継局ボイコット等を呼びかけた結果、大騒動となりました。しかし、クインシー・ジョーンズやウーピー・ゴールドバーグ等の黒人スターから、それが場違いだと顰蹙(ひんしゅく)をかっています。
せっかくの晴れ舞台であるアカデミー賞授賞式、個人的な主張や思惑は入り口へ置いて、場内では映画に捧げた才能をお互いが認め合う祭典という意識を持ち、これからも華やかなムードを白けさせるようなことはして欲しくないものですね!?
つい最近まで世界一のボックス・オフィス・スターとして君臨していたアーノルド・シュワルツェネッガーも今年で50歳、このところ低迷ぎみです。これまた不作続きでズッコケぎみの国際的アクション・スターがスライ(シルベスターの略称)・スタローンなら、“エビータ”でオスカー・ノミネート間違いなしと噂されていたマドンナは候補へすら上がらずじまい。この3人に代表されるような思惑が外れた大スターは多く、ここしばらく、方向転換を期してキャリア・ムーブ(転職)がブーム?・・・・・・なんでも悪いことは人のせいとばかり、冴えない責任を自分のエージェントへ擦(なす)りつけ、自主トレード宣言をするという「仁義無き戦い」が、最近、目立ちます。シュワルツェネッガーは不遇のボディービルダー時代から15年間世話になったICM(International Creative Management)を解雇し、ウィリアム・モリスへの移籍交渉中。2年前、CAA(Creative Artist Agency)を去ってICMに移籍したスライたるや、そこからウィリアム・モリスへ再移籍したにもかかわらず(同じくウィリアム・モリス経由でICMへ移ったマドンナも)、再びCAAに出戻りという始末です。マドンナの場合、ウィリアム・モリスのアカデミー女優候補キャンペーンへの不満が爆発したほか、“エビータ”以後、目立つ脚本に恵まれていないことも自主トレードの原因だと言われています。それ以外の自主トレード組といえば、“天使の贈りもの”が今一だったペニー・マーシャル監督("ビッグ")は長年のつき合いだったCAAからICMへ移籍、“バードケイジ”でゲイ役が傑作だったネイサン・レインは17年来の盟友ウィリアム・モリスを去ってCAAに乗り換え、ヒット作“エージェント”でトム・クルーズ演じる代理人へ忠誠なフットボール選手役ながら、実際は小規模なエージェンシーからCAAへさっさと移籍したのがキューバ・グッディング・ジュニアといったところです。さらに、サンドラ・ブロック("スピード")やジム・キャリー("マスク")を擁するUTA(United Talent Agency)、そして第5勢力として注目されているエンデバーなど、上記「ビッグ3」以外のエージェンシーも新興勢力として台頭し始めたのが、スターのトレード大混戦へ拍車をかけている理由でしょう。そんな不安定な状況下とはいえ、“ローハイド”以来25年間ウィリアム・モリス、それもレナード・ハーシャンという1人のエージェントへ任しっきりなのがクリント・イーストウッド、やはり25年間CAAのパトリシア・マクイーニ1本のハリソン・フォードなど、昔気質のスターはいます。結局、スター自身の選択や存在感が最終的に映画のヒットを左右するのであって、自分の不人気や出演作の失敗をエージェントのせいにしていたのでは、いくら移籍しようが同じことではないでしょうか?
仁義無きトレード旋風!
最近のハリウッド映画界はネタ不足のせいか、“ダンテズ・ピーク”と“ボルケーノ”のような同類で興行成績を競い合う傾向が目立ちます。その結果、みんなストーリーの秘密厳守に躍起となり、主演スターさえ契約書でそれを強要される始末です。インタビューやセット訪問もままならぬシークレット作戦はCIA顔負け。というわけで、現在、もっとも秘密のベールに閉ざされた話題作の舞台裏、そして僕独自の情報網でスクープしたストーリー・ラインを、いくつか拾ってみました。
ハリウッドは秘密がお好き?
アイズ・ワイド・シャット
トム・クルーズ、ニコール・キッドマン夫妻主演、スタンリー・キューブリック監督("フルメタル・ジャケット")のパワー・チームがロンドン・ロケ敢行中のスリラー映画で、1927年初版の小説“ラプソディー/夢物語”を基にキューブリック自ら脚本を書いています。内容は精神分析医の夫婦(トムとニコール)が患者夫婦("ルームメート”のジェニファー・ジェイソン・リーと“ピアノ・レッスン”のハービー・カイテル)と性的関係を持ち、そこへジェラシーや性的欲望が複雑に交差してゆくという異色作です。もしかすると、トムは女装を披露するかも・・・・・・(公開日未定)
ロストワールド
待望の“ジュラシック・パーク”続編。原作は1作目と同じマイケル・クライトン("ディスクロージャー")の小説ですが、映画の舞台は“ジュラシック・・・”から6年後のカリフォルニアと、かなりアレンジされています。金儲けを企むコングロマリットが科学者を誘惑し、T-レックスや他の獰猛(どうもう)な恐竜をクローン化してスポーツ狩猟パークを開いたところ、またまた機械の故障でサンディエゴの街は恐竜たちの餌食と・・・・・・スピルバーグ監督によってセット全体が機密基地化され、入口の鍵はもとよりスタッフ全員へ身分証明書を持たせ、訪問者禁止、24時間体制の警備など、その細かい神経の配り方は映画を地で行くような徹底ぶりです。(5月23日公開)
エイリアン/復活
前作で死亡した主人公リップリー(シゴニー・ウィーバー)を、いかにして生き返らせるのか? 話題の焦点はそこですが、どうやら答は流行り(?)のクローニング(複製)のようです。宇宙を舞台に暗躍する密輸軍団の首領(ウィノーナ・ライダー)と組んだリップリーのクローンが、例のヨダレ・タラタラ怪獣と廃墟化した宇宙船内で攻防合戦を繰り広げるという展開。「この映画を終わるためなら、実際にエンディングどおり身を投げてもいい気持ちだったわ」と言うシゴニーが、それほどシリーズと訣別を願望しながら、前作は自ら製作へ参加しています。そして興行成績が思わしくなかった反動はかなり堪えたらしく、新作の企画が出た時は拒否し続けた彼女も、とうとう説得に負けて脚本だけ読むと妥協し、読んだ後、出演を承諾したという曰くつき。さあ、前作の汚名が挽回できるかどうか!?(公開日未定)
スターウォーズ/第4部
現在ロンドンで製作準備中の次期3部作の第1弾。最初の3部作より更に遡(さかのぼ)って、いわば戦士スカイ・ウォーカーのルーツを探る壮大な宇宙叙事詩といえます。ルーカス・フィルムが運営する業界随一の特撮スタジオ、ILM(Indutrial Light and Magic)では今、この作品のため画期的なビジュアル効果を開発中。おかげで、サンフランシスコ郊外マリン郡にある壮大な施設を訪れる者は、全員が入口で秘密厳守の誓約書へ署名をさせられるという厳重さです。なお、内部情報では“シンドラーのリスト”で主役を演じたリアム・ニーソンが、新しく登場するヒーローとなるもよう。(公開日未定)
最近になって機密保持が目立つだけで、アイデアで勝負するハリウッドは昔から秘密が好きなことは確かです。アイデアを盗んだ盗まないの裁判も、よくあります。そこで、「やるな!」と唸らされたのが“スターウォーズ”のエピソード・・・・・・次の作品は「新天地へ向かって宇宙を漂う船団」がテーマとして企画されている時、そのアイデアを盗まれたのか、偶然の一致なのか、新しく始まったTVシリーズ“バトルスター・ギャラクティカ”の内容は、まさにそれでした。また裁判沙汰かと思っていると、あっさり移動部分を飛ばし、大船団が目指す惑星へ着いたところから新作は始まっているのです。さすがルーカス一派、無駄な労力を費やすぐらいなら、同じエネルギーを創造へ向けろという、いい教訓を与えてくれました。
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なんだかだとハプニングはありながらも、最新作“ダンテズ・ピーク”が好調のピアース・ブロズナン。最愛の妻を癌で亡くしたショックは、すっかり癒えたようですが、それはTV女優としても活躍する今の恋人、キーリー・シェインの存在があったからこそでしょう。最近、そんな2人に男児が誕生したばかりか、共同でマリブの豪邸を購入するなど、どうやら結婚間近と窺(うかが)えます。ディランと名づけられた男児の洗礼式は、わざわざブロズナンの母親が住むアイルランドのダブリンまで出かけ、親戚総出という気の入れようでした。もうすぐディランは、キーリーの連れ子で(近い将来の)異母兄弟のクリストファーと異母姉弟のシャロッテにロンドンで初対面だとか。先月、ハンブルグでクランクインした007シリーズの新作“トゥモロー・ネバー・ダイ”が間もなくロンドン・ロケを始めれば、13歳になるブロズナンの連れ子ショーンも渡英します。6ケ月間、ロンドンの学校に編入してパパのボンドぶりを観察するのだそうです。前作“ゴールデン・アイ”ではトレードマークのアストン・マーチンに加え、(BMW社が支払った莫大なスポンサー料と比べ、ほとんど活躍していない)BMWロードスターでファンをアッといわせた第7のボンド、次回は何が飛び出すやら、今から楽しみですね!
007はウェディング間近?
注: 3本契約を交わしたブロズナンの第2弾“トゥモロー・ネバー・ダイ”は、プロデューサーのブロッコリーが“死ぬのは奴らだ”以来、親子2代にわたり製作してきた007シリーズ18作目であり、“サンダーボール作戦”のリメイク版“ネバー・セイ・ネバー・アゲイン"(どちらもショーン・コネリー主演)や“カジロ・ロワイヤル"(デビッド・ニーブン主演)を含めると20作目のボンド映画。
(1997年4月16日)
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