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(1997年9月1日)
コミック天国
海外から東京を訪れた者にとって異様な光景といえば、満員電車で漫画本に読みふける若者の姿ですが、ここアメリカでも最近はコミック・ブームが目立ちます。もっとも、スーパー・ヒーローあり、サイボーグあり、あるいは他の惑星出身者や薬で変身する者と、コミックの多彩なキャラクターへハリウッドが注目してきたのは最近ばかりと限りません。TVアニメをライブ・アクション化する企画は後を絶たず、玩具や文房具ばかりか、そのキャラクター・グッズがあらゆる商品にタイアップ可能なコミック映画は、今や一大ジャンルとしての地位を確立しました。中でも大御所が“バットマン"(写真上)と“スーパーマン"、TVシリーズからハリウッドのドル箱シリーズへ成長した2大変身型ヒーローのうち、バットマンは3代目(TVシリーズをそのまま映画化したものを含めると4代目)で今夏ヒット、そして来年の夏、スーパーマンもティム・バートン監督("バットマン")のもと、ニコラス・ケイジ("フェイス・オフ")がクリストファー・リーブスを引き継ぎ再登場です。デジタル技術をふんだんに使えるコミック映画だけに、いま公開中の“スポーン"(写真下=アメリカで人気ナンバーワンのコミック・ブックの映画化)など製作費4千万ドルという大作で、その他“メン・イン・ブラック”のエド・ソロモンが脚本を書き、傑作サスペンス“ユージュアル・サスペクツ”のブライアン・シンガーが監督する期待の大型作品“Xマン”は順調に製作が進んでいます。近日公開の中世コミック“カル/征服者”は人気TVシリーズ“ヘラクレス”のケビン・ソーボを起用し、サイボーグ・コミック“スティール”の主演がNBAのスーパースター、シャッキール・オニール、また来年早々封切られる“ブレイド/吸血鬼ハンター”はウェスリー・スナイプス("ファン")主演と、人気スターのキャスティングでも話題が尽きません。一昔前“忍者タートル”映画でハリウッドのパワー・プレイヤー入りしたニューライン・シネマは、“マスク”の成功を足がかりに“スポーン”や現在企画中の“スパイダーマン”でコミック映画の旗手を目指しているのか、コミック・ブック大手のマーベル社と組んで“ブラック・パンサー"、"キャプテン・アメリカ”などの人気シリーズを映画化する意向です。ポスト・プロダクションと呼ばれる編集、構成、音響効果など撮影後のプロセスへ莫大な経費と時間がかかるのはコミック映画の難点ですが、これからは“スポーン”を一大ビジュアル・アートに仕上げたマーク・ディップ監督のようなCGの天才タイプが監督業で手腕を発揮してゆく時代かもしれません。このディップ監督、“ターミネーター2”や“ジュラシック・パーク”のビジュアル効果を担当し、ジョージ・ルーカス主宰のデジタル・デザイン会社ILM(Indutrial Light and Magic)のエース的存在で知られていました。今夏最大のヒット“MIB”も原案はコミック・ブックであったり、大手コミック・ブック社マリブ・コミックスがヨーロッパ・コミックの全米販売権を入手済みなことを考えれば、将来、日本製漫画ヒーローがハリウッド映画の発想基盤となる日も来るかも・・・・・・?
昨夏の“インディペンデンス・デイ"、今夏の“メン・イン・ブラック”と、メガ・ヒット作でチャーミングな「おとぼけぶり」を披露するウィル・スミスも、映画スターとしての地位を築く以前は、人気TV番組“フレッシュ・プリンス・オブ・ベルエア”のコメディアン、またそれ以前は“DJジェジー・ジェフとフレッシュ・プリンス”という名のラップ・デュオで活躍してきました。彼を筆頭に、このところ目立つのがラップ界から映画界への転身組です。数年前、人気ラップ・グループ“NWA(Niggers With Attitude=態度の悪い黒んぼたち)”の1員だったアイス・キューブ(本名オシェア・ジャクソン)は、その恐ろしげな表情を売り物に“ボーイズ・イン・ザ・フッド"の衝撃的演技でデビュー、最近の“アナコンダ”へ至る特異な売れっ子ぶりが注目されています。自分のラップ・バンド“ウエストサイド・コネクション”とコンサート・ツアーを続けながら、脚本、監督、製作そして出演まで手がけた自作映画“プレイヤーズ・クラブ”も好評なアイス・キューブ、ラップと映画の世界で名をなしたパイオニア的存在といえるでしょう。アイスはアイスでも本名のトレーシー・マロウから芸名を取ったラップ・ミュージシャンがアイス・T、やはり演技は未経験ながら、いきなり黒人ギャング映画“ニュージャック・シティー”に抜擢されて以来、その強いインパクトで数々の映画やTVへ出演しています。彼自ら製作総指揮のTVシリーズ“プレイヤー”は、FBIによって仮出獄された彼扮する囚人が凶悪犯を追いつめてゆくストリート・アクションで、ラッパーと俳優として両方の持ち味を活かした力作です。一昔前のフランク・シナトラはもとより、エルビスからドリー・パートンやバーバラ・ストライサンド、はたまたマドンナから最近のコートニー・ラブ("ラリー・フリント")まで、映画スターへ変身(?)した歌手なら数多くいますが、ラップの場合、ポップス界のようにファン層は広くありません。受け入れられるのが難しいラップの世界で成功して舞台を銀幕へ移したせいか、彼らはみんなどことなくエネルギッシュな雰囲気を持っています。“MIB”のサウンドトラックでテーマ・ソング他2曲を歌うウィル・スミスが好例であるように、ラップから映画界へ進出したアーチストの強みは、なんといってもレコード時代のファンを映画館まで引っ張り込めることでしょう。黒人として自分たちの生い立ちや育った環境をテーマに、比較的若いファン層が相手のラップなだけ、そうしたアーチストのほとんどは30歳以前です。先の3人以外、東部と西部のラップ・パワー戦争の犠牲といわれる故タパック・シャクール("ポエティック・ジャスティス/愛するということ")、クーリオ("バットマン&ロビン")、“セット・イット・オフ”で豪快な演技を見せた女性ラッパー、クイーン・ラティフと、ラップで培ったイメージを銀幕へ反映させている個性豊かな星がまだまだいます。これからも、どこか「突っ張った」ラッパーたちの、俳優らしからぬ生々しい演技を見るのは楽しみですね!
ラップの星
サマー・ギャンブル大成功!
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今夏の目玉といわれた“タイタニック”が2億ドルを越える製作費の暴走ぶりに端を発し、「"ロストワールド”以外の夏休み映画は総倒れ」などと囁(ささや)かれながら始まったサマー・シーズンも、いざ蓋を開けてみると嬉しい予想外れで一段落つきました。ソニー製作のメガ・ヒット“MIB(メン・イン・ブラック)”や“ベストフレンズ・ウェディング"(写真左)、そして“エアー・フォース・ワン”といった稼ぎ頭が、あっさり前評判を覆したわけです。シーズン幕開けの“ロストワールド”は史上空前の3,281館5千スクリーンで公開され、劇場収益最終総額の3分の2に当たる9,200万ドルを最初の5日間で売り上げたモンスター・ヒットとなり、破格の製作費8千万ドルばかりか宣伝費へ3,500万ドルという巨額をつぎ込んだユニバーサルは、「勝った!」と叫びたいところでしょう。いっぽう今夏最悪の「貧乏くじ」を引いたのが20世紀フォックスで、昨年のサマー・ブロックバスター“ID4”の夢よもう一度と製作費1億4千万ドルを投資した“スピード2”は大コケ、その上イベント・ムービーとして話題を集めた“ボルケーノ”が期待はずれのダブル・パンチという悲惨さでした。マードック氏(フォックス社や日本のJスカイBを所有するニューズ社のメディア王)を除くハリウッド陣営は期待以上の結果で気を良くし、“ゴジラ"(ソニー)、“プライベート・ライアン"(ドリームワークス)、“007/トゥモロー・ネバー・ダイ"(MGM/UA)など向こう1年間のヒット予想作へ、いっそう力を注いで宣伝する方針のようです。ともあれ、今夏の主だった公開作を振り返り、以下の表にまとめてみました。
“タイトル”
製作スタジオ
封切日米国内劇場収益予想
海外劇場収益予想
米国内ビデオ収益予想
海外ビデオ、TV、関連商品か
らの収入を除く総収益予想額製作費
宣伝広告費
合計額コメント 成績 “ロストワールド”
ユニバーサル
5月22日$228,000,000
$300,000,000
$150,000,000
$678,000,000$75,000,000
$35,000,000
$110,000,000予想通り
スピルバーグ
パワーの爆発!
推定黒字2億ドルA “コンエアー”
ディズニー
6月6日$100,000,000
$150,000,000
$75,000,000
$325,000,000$75,000,000
$25,000,000
$100,000,000“ロック”に及ばず
ガッカリ
しかし迫力十分!B “スピード2”
20世紀フォックス
6月13日$49,000,000
$85,000,000
$40,000,000
$174,000,000$140,000,000
$30,000,000
$170,000,000夏の大作中
唯一の赤字映画!
ブロックは
これで罰イチF “ヘラクレス”
ディズニー
6月16日$96,000,000
$250,000,000
$200,000,000
$546,000,000$80,000,000
$25,000,000
$105,000,000アニメ・キングの強み
で2億ドルの黒字!
グッズの売り上げ
は今イチB “バットマン&ロビン”
ワーナーブラザーズ
6月20日$110,000,000
$200,000,000
$75,000,000
$385,000,000$130,000,000
$35,000,000
$165,000,000シリーズ中最悪!
シュワルツェネッガー
の海外人気が頼りC “ベストフレンズ・
ウェディング”
ソニー
6月20日$130,000,000
$80,000,000
$100,000,000
$310,000,000$60,000,000
$20,000,000
$80,000,000黒字1億ドル
のヒット!
ロバーツの人気も
これで挽回A “フェイス・オフ”
パラマウント
(海外配給はディズニー)
6月27日$120,000,000
$150,000,000
$200,000,000
$470,000,000$80,000,000
$20,000,000
$100,000,000“MBI”に食われ
ながらも大ヒット!
トラボルタが渋いB “メン・イン・ブラック”
ソニー
7月1日$275,000,000
$225,000,000
$200,000,000
$700,000,000$90,000,000
$35,000,000
$125,000,000今夏最高の宣伝効果
で黒字3億ドル!
シリーズ化間違いなしA “コンタクト”
ワーナーブラザーズ
7月11日$95,000,000
$105,000,000
$60,000,000
$260,000,000$90,000,000
$30,000,000
$120,000,000予算超過は痛いが
理知的な内容で好評
海外反響は今ひとつB “エアー・フォース・ワン”
ソニー
(海外配給はディズニー)
7月25日$185,000,000
$200,000,000
$100,000,000
$485,000,000$90,000,000
$30,000,000
$120,000,000雑なストーリーも
フォードの魅力で
大ヒット!
海外人気は請け合いA “陰謀のセオリー”
ワーナーブラザーズ
8月8日$100,000,000
$150,000,000
$80,000,000
$330,000,000$80,000,000
$25,000,000
$105,000,000封切日も幸いし
夏最後の大ヒットに!
ギブソンとロバーツの
スター・パワーB
生まれ変わったスウェイジ
8月18日、45歳の誕生日に自分の「星」がハリウッド大通りのウォーク・オブ・フェイム(映画の貢献者名を刻んだ星が並ぶ歩道)へ仲間入りしたパトリック・スウェイジ("ゴースト/ニューヨークの幻")といえば、今年の5月“レターズ・フロム・ア・キラー”のロケ中、落馬事故でかなりの重傷を負ったばかりです。一時は復帰を危ぶまれていた彼も、ウォーク・オブ・フェイム参加の式典で見かけた限り、ほとんど後遺症がなさそうで、9月3日には事故以来撮影が中止されていたセットへ復帰することも決まっています。瀕死の事故以来、人生観は変わったと語るスウェイジ、つい先日(8月下旬)彼のスターダムを決定した作品“ダーティー・ダンシング”の10周年記念デジタル版が公開され、公私とも新たなスタートに向かって燃えている様子です。疾走する馬上から、もろ樫の木めがけて放り出された挙げ句、両足骨折および肩筋肉脱臼4ケ所という重傷で、再起不能説やあの華麗なダンスぶりが見られなくなるのではと危惧されたのが4ケ月前。回復の速さばかりか、そもそも事故の時、彼の命を救ったのは長年のダンスと徒手体操の経験でした。落馬したのが裸馬で、つかまるものはありません。落ちる瞬間、長年鍛えた反射神経が馬の鬣(たてがみ)をつかませ、その勢いでスウェイジは逆立ち状態となって樫の木へ叩きつけられます。骨折した足の代わり、もし頭が当たっていたら、助かったかどうかわかりません。幸い両足は単純骨折だったおかげで完全に回復し、肩の筋肉もリハビリで元通りの状態へ戻るそうです。本人が事故の体験を活かす以外、さすが転んでもタダでは起きないハリウッド、彼の怪我をさっそく映画のストーリーに取り入れたとか! ただ、スウェイジがいくら杖なしで歩行したり超人的なペースで回復しようと、主演俳優へ莫大な保険をかけるハリウッド映画の構造上、この作品でのスタントはいっさい禁止されてしまいました。ロサンゼルス郊外の自宅で2頭の愛馬がいるホース・ラバー(愛馬家?)の彼は、事故直後、落馬で事故死する悪夢に悩まされた結果、事故シーンのビデオを何度も見て恐怖を克服した勇気の人でもあります。瀕死の縁から立ち直った彼曰く、「もう、やりたいことを延期するのはやめた」と宣言し、愛妻でダンサーのリサ・ニエミと共演する感動的なダンス映画の製作に取りかかる決意です。スウェイジからの教訓・・・・・・“Live this day as if it were your last.”・・・・・・そう、今日という日を人生最後の日であるごとく生きようではありませんか!
(1997年9月1日)
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