シリコン・エイジ

修 正 前 |

修 正 後 |
現代は“ストーン・エイジ(石器時代)”ならぬ“シリコン・エイジ"、映画の世界でもコンピュータがなくてはならない存在となっています。上の写真はヒット作“エージェント”の1場面で、トム・クルーズ扮する熱血エージェントが「正直で理性のある代理業」を促す“自己宣言書(ミッション・ステートメント)”を書き上げ、他のエージェントから喝采を浴びるシーンです。左のオリジナルは、レニー・ゼルウィガー扮する秘書の横に、彼女の子役が拍手をしており、じつはこの少年、愛くるしい演技で人気を博すジョナサン・リプニッキ坊やを代役に据える前の子役でした。編集の最終チェックをしている途中、これがわかったキャメロン・クロウ監督は、昔だったら観客が気づかないよう祈るか、問題のシーンはカットするか、主演の2人を含む50人以上のキャストを集めて撮り直すしか、選択がありません。しかしながら今や“シリコン・エイジ"、デジタル・トリートメント(処理)という手があります。ロサンゼルスだけで100以上あるといわれるSFXハウス(特殊効果スタジオ)は、毎月10社の割合で増え続ける激戦地区であり、クロウ監督が白羽の矢を立てた会社は「デジタル・レゾルーション(D*Rez)」。1台100万ドルもする最新鋭デジタル・ワーク・ステーション、“クアンテル・ドミノ”を所有し、映画からTV番組やコマーシャルまで幅広いデジタル・トリートメントをこなすSFXハウスです。そこのデザイナーが考えついたのは、右の写真を見ていただければおわかりのとおり、子役の上からプラントをインサートしてしまうという簡単な方法でした。シーンをカットして妥協することなく、莫大な費用をかけて撮り直す必要もない、まさに“天の助け”となった最新技術のおかげで無事公開という次第。この「D*Rez」はスタジオ映画ばかりでなく、低予算の独立プロ作品も手がけており、12月19日公開のエマ・トンプソン("いつか晴れた日に")主演作品“ウィンター・ゲスト”で、舞台となったスコットランド地方に雪を降らせ、海を凍らせるという離れ業を、6ケ月かかって仕上げています。当初、極寒のグリーンランド・ロケを計画していたプロデューサーが大喜びだったのは言うまでもありません。CG(コンピュータ・グラフィック)の草分け的存在であり“ジュラシック・パーク”や“ロスト・ワールド”の恐竜イメージを創作したシリコン・グラフィックス社も、こうして次々と現れるニュー・パワーの前に押され気味ですが、最近「スーパー・コンピューター」で有名なクレイ・リサーチ社を併合して製作発売した低価格(6千ドル)グラフィック・ワーク・ステーション02で巻き返しを図っているところです。20年前の1977年、ジョージ・ルーカス率いるILM(Indutrial Light and Magic)は、画期的なモーション・コントロール・カメラを駆使した“スターウォーズ”で我々を驚かせ、以来“スタートレックU(1982年)”のCGが創作した場面、“ヤング・シャーロッック・ホームズ(1985年)”で初めて描かれたCGデザインの登場人物、“ウィロー”のモーフィング(変身)と進化し、最近では“ターミネーター2”のデジタル・キャラクター、“フォレスト・ガンプ/一期一会”の歴史的人物と会話を交すシーンなど、数々の名場面を生み出してきました。躍進し続けるデジタル化の波が、“スターウォーズ特別版”に至っては新しい場面を挿入したり、妖怪ジャバ・ザハットを動かしたり、内容そのものの向上へ大幅な貢献をするまでになりました。これから20年後、デジタル技術が映画作りをどこまで広げているのか、考えただけでもワクワクしてきますね!
現代版フィルム・ノアール

深夜の告白 |

L・Aコンフィデンシャル |
最近、ハリウッド・シネマのヒップなトレンドとなりつつある'90年代風ネオ・フィルム・ノアールの代表作として、いま公開中のオリバー・ストーン監督作“Uターン”が話題を集めています。そもそもフィルム・ノアールは、第二次世界大戦最中の1940年代、暗い街角や怪しげな美女、そして煙草の煙が漂う殺人絡(から)みの寂しげなストーリーと、独特の背景を持つ一連の映画から発展したジャンルです。“Uターン”のオープニングは、アリゾナの砂漠の田舎町でショーン・ペン扮するギャンブラー、ボビー・クーパーが壊れたラジエターを抱え途方に暮れる、いかにもそれらしいシーンです。そこへ現れたグレース("アナコンダ"のジェニファー・ロペス)は真っ赤なミニ・ドレスに身を包む怪しげでセクシーな美女、初対面のボビーに「あなた、今まで何かを見たとたん、絶対手に入れたいと思ったことがある?」と、挑発的な台詞を吐き、よせばいいのにボビーはまんまと血なまぐさい暗い罠へとはまってゆきます。往年のヒット作“深夜の告白(1944年)”や“飾窓の女(1944年)”に代表されるフィルム・ノアールの典型的パターンです。クラシック・フィルム・ノアールが、小雨混じりでどんよりした雰囲気の街角やフェドーラ帽子の男たちと相場は決まっていたのに対し、ネオ・ノアールの場合、太陽が燦々と降りそそぐ街並や、どことなく現代社会からはみ出した男たちを浮き彫りにしている点で新しさを感じます。「殺人事件」、「裏切り」などのプロットが売り物のフィルム・ノアールは、ウェスタンやミュージカル同様、ハリウッドが発明した映画ジャンルでも、西部劇はファッショナブルでなくなり、ミュージカルは廃れてしまった現在、その独特なノスタルジックな魅力で未だ健在といったところでしょう。また、白黒ならではの郷愁感がある往年の名ノアール作品と比べ、ネオ・ノアール作品はカラーでありながら、その寂しげな雰囲気を出そうとしている努力が窺(うかが)えます。現在公開中の“L・Aコンフィデンシャル”は、背景が1950年代のロサンゼルスで、腐れきった市警の姿と、そこへ絡(から)む殺人事件たるや、これぞフィルム・ノアールの印象。キム・ベーシンガー演じるミステリアスな女や、社会の底辺で蠢(うごめ)く人間の生々しい感情描写などを、アカデミー男優ケビン・スペイシー、ダニー・デ・ビートたちの素晴らしい配役でまとめたネオ・ノアールの代表選手ともいえる秀作です。その他、コーエン兄弟("ファーゴ")の名作“ブラッド・シンプル”を皮切りに、レズビアン女性2人がギャングのボーイフレンドを殺して大金を奪う最近のスリラー“バウンド”など、ネオ・ノアール映画はますます過激な色彩を帯びています。今後、名監督ロバート・ベントン("クレーマー、クレーマー")によるポール・ニューマン、ジーン・ハックマン、スーザン・サランドン主演の“マジック・アワー(日暮れ時)”が来年冬の公開で、デンゼル・ワシントン("戦火の勇気")主演の連続殺人事件スリラー“フォーリン・エンジェル”は企画が進んでおり、とうとう有名なノアール風コミックブック“シン・シティー”の映画化まで検討されているとか! “永遠のアメリカ映画”とさえ言えるフィルム・ノアール、ちなみに僕のお薦め作品は、クラシック・ノアールならレイモンド・チャンドラー原作の私立探偵フィリップ・マーロー・シリーズをハンフリー・ボガード、ローレン・バコールが演じた“三つ数えろ(1946年)"、そしてネオ・ノアールならキャサリン・ターナー("ロマンシング・ストーン")を一躍スターダムに乗せた“白いドレスの女(1981年)”です。
異色のブロードウェイ・デビュー
故オードリー・ヘップバーンが、ヘロインを探す殺人犯から追われる盲目のヒロインを熱演した“暗くなるまで待って”は、1967年フレデリック・ノット原作のサスペンス小説を基に映画化され、世界中で大ヒットしました。この密室スリラーがリバイバル版としてブロードウェイの舞台へ蘇ります。主演のスージー役はジェニファー・ジェイソン・リー("バックドラフト")、彼女を執拗に追いかける精神異常のギャング役は、何とクエンティン・タランティーノが抜擢されました。自作“フロム・ダスク・ティル・ドーン”で冷酷なキャラクターを演じたクエンティンは、もともと監督より俳優業へ興味を示していただけに、かなりの熱の入れようです。来年早々リハーサルが始まり、2月に地方でオープニング後、3月中旬いよいよブロードウェイで開幕し、僕も友人であるクエンティンのパートナー、ローレンス・ベンダーの招きで見に行きます。映画での演技は悪評ばかり目立ちましたが、それを覆すような迫真のライブを期待しようではありませんか!
役者魂2話

モーガン・フリーマン |

ブラッド・ピット |
昨年のヒット・スリラー“セブン”で共演し、それぞれの持ち味を生かした素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた若手の旗手“ブラピ様”ことブラッド・ピットと渋いベテラン、モーガン・フリーマン、時期を同じくして公開された彼らの最新作に関する話題です。1940年代、幼いダライ・ラマの家庭教師となったオーストリア人山岳家ハインリッヒ・ハーラーの冒険をドラマ化した、ソニー傘下のトライスター作品“セブン・イヤーズ・イン・チベット”といえば、先日、主人公ハーラーは元ナチス・ドイツのメンバーであったことが発覚して物議をかもしています。しかし、映画そのものはハーラーを演じるブラッドの勇敢さが、撮影中最大の話題となりました。フランス人監督ジャン・ジャック・アナウド指揮のもと、南米とカナディアン・ロッキーで敢行されたロケの間、山岳でのシーンはスタント・マンを使わずすべて自分でこなしたブラッドの迫真の演技が、数々の危険なシーンを違和感なく撮り上げさせ、セカンド・ユニット(景色や背景などを撮る第2撮影班)のチベット・ロケ・フィルムとも巧みな編集で見事な仕上がりです。脚本を読むやアナウド監督へ直接交渉し、その情熱的なアプローチで役を射止めたブラッドだけに、氷点下2度の極寒ロケ中、崖っぷちでぶら下がる危険なシーンへ勇敢に挑み、顔と身体がすっかり硬直した彼は、監督の「もうワン・テイク行けるか?」という声に応えられず、スタッフが引き上げてようやく元気を取り戻したというエピソードまで生んでいます。この映画への出演は自分の生き方についての疑問や、西洋と東洋の人生哲学の違いをつくづく実感させられたと語るブラッド、先月上旬“・・・チベット”のL・Aプレミアが行われた時は、次作“ミート・ジョー・ブラック”を撮影中のアメリカ東部から駆けつけました。その時、どっしりと落ち着いているように見えたのが、気のせいばかりではないのかもしれません。一方、いま人気のサスペンス作家ジェームス・パターソンのベスト・セラー小説を映画化した“コレクター”は、刑事でありながら法医学精神科医であるアレックス・クロス博士を熱演しているモーガン・フリーマンが、やはりロケ中のエピソードを残しています。1994年の落馬事故で骨折した右足を引きずるようにアクション・シーンをこなす彼は、同情するスタッフや共演のアシュリー・ジャッド("評決のとき")から賞賛を浴びたそうですが、今年60歳という年齢を考えれば、頭が下がる役者魂です。“ショーシャンクの空に”で印象的な名演技を残した彼も、レンジ・ローバーを全速力で追いかけるシーンだけは、度重なるテイクに音をあげ、珍しく年を感じたと弱音を吐いています。“コレクター”が好評で気をよくした製作スタジオのパラマウントは、早々とパターソン作ベストセラー“ジャック・アンド・ジル”の映画化を企画し、そこへ登場するクロス博士をハマリ役モーガンでシリーズ化しようと目論んでいるようです。
(1997年11月1日)
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