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(1998年3月1日)          




'97年度オスカー・レース先行馬

今月23日の第70回(1997年度)アカデミー授賞式を控え、2月中旬に発表された候補作品のリストを見ると、“タイタニック”は14部門ノミネートで“スターウォーズ”の不滅の記録とタイ、続いてそれぞれ9部門でノミネートを勝ち取ったのが、ロサンゼルス、ニューヨークをはじめ映画批評家サークルの賞を総なめにした玄人好みの“L・Aコンフィデンシャル”および本年度のシンデレラ的存在“グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち”の2本、秀作“恋愛小説家”は奮闘して7部門ノミネートといったあたりが目立ちました。昨年の“独立プロ旋風”とは対照的に、大手スタジオ作品やその出演者がアカデミー・メンバーの注目を浴びた本年度オスカー・ダービー、今年も僕なりに先行馬を予想してみると・・・・・・


作品賞



オスカー当夜までにはアメリカ国内収益が史上初の5億ドルを記録して“スターウォーズ”の4億6千百万ドルを塗り替え、10億ドルの世界新記録は確実と予測される本命“タイタニック”の勢いたるや、止(とど)まるところを知りません。外国記者投票によるゴールデン・グローブ受賞の余韻もあるフィルム・ノアール風“L・A・・・”や大人のコメディー“恋愛・・・"、また心を打つ名作“グッド・・・”やノミネート自体が勝利といえる“フル・モンティー”さえ、その勢いでノックアウト!

    本命馬:タイタニック(写真左)
    対抗馬:“グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち”(写真右)

監督賞

陽気なコメディー“フル・モンティー”のカタネオ、やたら暗い“スイート・ヒアーアフター”のエゴヤンは別として、“タイタニック”のジェームズ・キャメロン、“グッド・・・”のガス・バン・サント("マイ・プライベート・アイダホ")、“L・A・・・”のカーティス・ハンセン("ゆりかごを揺する手")が難しいテーマでその持ち味を出し切っているため、3人の中から1人に絞るのは不公平な気がするぐらいの接戦です。しかし、ハンセンのスリラー仕立ての素晴らしさやバン・サントの繊細な心理描写も、2億ドルという莫大な製作予算をスクリーンへ賭けたリスク・テイカー、キャメロンの叙事詩の前に討ち死に?

    本命馬:ジェームズ・キャメロン(写真)
    対抗馬:なし

主演男優賞

ベテラン4人と新人の争い。4人のうちの1人は自ら脚本主演から投資まで手がけて牧師が辿(たど)る自己発見の旅を描いたロバート・デュバル("アポストル")、2人目は寂しい蜂蜜製造業者を演じてゴールデン・グローブ受賞が記憶に新しいピーター・フォンダ、そしてクリントン大統領のインターン・ゲートを彷彿させるホワイトハウスの裏工作に暗躍するハリウッド・プロデューサー役を好演したダスティン・ホフマン他、残る1人は独特のチャーミングな演技で観客を魅了した“恋愛・・・”のジャック・ニコルソンです。彼ら4人のベテランと対抗する新人が、自作の脚本“グッド・・・”で「悩める天才」役を熱演した若きマット・デイモン・・・・・・アカデミー・メンバーの多数は高齢なことを考えると、個人的にデイモンを応援しつつも、ニコルソンの3度目の受賞で落ち着きそうな気配。なお、有力視されながら出演作のノミネート・ラッシュで犠牲になったのがレオナルド・ディキャプリオ("タイタニック")といえるかもしれません。

    本命馬:ジャック・ニコルソン(写真)
    対抗馬:マット・デイモン
    大穴馬:ピーター・フォンダ

主演女優賞

“タイタニック”で勝ち気なヒロインを演じたケート・ウインズレットと、子持ちのウェイトレス役が光った“恋愛小説家”のヘレン・ハントを除き、主演作はどれもマイナー映画。中世の儚い恋に生きた女性を演じたヘレナ・ボンハム・カーター("ウィングス・オブ・ザ・ドーブ")、シルバー世代のラブ・ストーリー“アフターグロウ”で文字通り「輝いた(グロウ)」33年前のオスカー女優ジュリー・クリスティー、そしてゴールデン・グローブ受賞の舞台女優ジュディー・デンチ(名前を知らないかたも、007シリーズの最新作2本でボンドの上司M役といえばおわかりかも?)など、5人のうちハント以外は全員イギリス人というのが投票の鍵を握りそう?

    本命馬:ヘレン・ハント(写真)
    対抗馬:ヘレナ・ボンハム・カーター
    大穴馬:ケート・ウィンズレット

番外編

第2次大戦の最中、大使としてリトアニアへ赴任中、外交官の将来を捨ててまで、数多くのユダヤ人に日本の旅券を発行し、ナチスの虐殺から救った日本人がいました。短編映画部門でノミネートされている“ビザ・アンド・バーチュー(旅券と美徳)”は、この「日本版シンドラー」杉原大使の勇姿を描いた、日系俳優クリス・タシマが脚本主演する見事な出来映えのショート・フィルムです。

残念賞

日本映画として史上最高の海外興業収益を上げた“シャル・ウィ・ダンス”は、海外作品でなくメインの作品候補に噂されながら、日本のTVで放映されていたため惜しくも失格。候補作がTV未公開と限定するアカデミー規定に引っかかったわけです。あとは、いま企画中のアメリカ版("フェノミノン"のジョン・タートルタブ監督)へ期待しましょう!




「黒い罠」Ver.2

このところ“スターウォーズ”に代表されるリバイバル公開が目立つのは、コンピュータの進歩と密接な係わりがあります。昔は考えられなかったような画像修正がデジタル処理で可能となり、デジタル・サウンドを駆使した音響効果は、それだけでも映画全体の印象がごろっと変わるほどです。単なるリバイバルでなく、そこへ新たな息吹を与えるテクノロジーの進歩は今後ますます加速度を増し、同時にリバイバル・ブームがいろいろな方向性を持って広がるに違いありません。この兆候は、ユニバーサル・スタジオがオリジナル版とはまったく違う編集で再上演の話を進める企画が隠れた話題となっているあたりへも窺(うかが)えます。そもそも、映画館で見る作品はプロデューサーとスタジオ側が合意した最終的なバージョンであり、それは「ディレクターズ・カット」と呼ばれる監督が編集したバージョンを更に洗練させたものです。とかく商業性より芸術性を重視しがちのディレクターズ・カットは、どうしても総体的な客観性を欠くため、監督がプロデューサーを兼ねる特殊な場合を除き、そのまま世に出るというケースはほとんどありません。日本の英会話テープでもお馴染みのイギリス人で往年の名優オーソン・ウェルズ主演監督作“黒い罠/タッチ・オブ・イービル(1958年)”は、彼がチャールトン・ヘストン("ベンハー")やジャネット・リー("サイコ")と共演したクラシック・スリラーというだけでなく、それ以降のヨーロッパ映画へ多大な影響を及ぼしています。しかし、当初フランスで1年以上のロングランを続け、「ヌーベルバーグ」の先駆者ともなった画期的な作品ながら、編集段階でユニバーサル側から解任されたウェルズのバージョンは、とうとう陽の目を見ぬまま今日へ至りました。ところが、松下電器に買収される前のユニバーサル会長ルー・ワッサマンは、1957年ウェルズが書いた監督ノートを見つけ、その音響効果挿入箇所から特定シーンの選択へ至る47項目の克明なリストに基づき大編集を敢行し、ユニバーサル傘下のオクトーバー・フィルムを通じて再上演する計画を持ち上げたのです。現在、ユニバーサルでは、オスカー受賞編集者ウォルター・マーチ("イングリッシュ・ペイシェント"、"ゴースト/ニューヨークの幻")と、これまたオスカー音楽賞受賞者ビル・バーニー("レイダース/失われたアーク《聖櫃》"、"バック・トゥー・ザ・フューチャー")を起用し、ウェルズの監督ノートに記された「幻のシーン」を取り入れた編集作業が進んでいます。タイミングが合えば、ウェルズ作品をこよなく愛した縁の地フランス、それもカンヌ映画祭という国際舞台で彼のディレクターズ・カットを披露してから、秋の公開へともっていく意向のようです。各編集項目を読んだ人の話では、ウェルズのノートがこの作品をより一層見応えのあるものとし、再上演で人気を呼んだリドリー・スコット監督バージョンの“ブレイド・ランナー”同様、劇場公開の後はビデオ、レーザーディスク、DVDなどがコレクターズ・アイテムの仲間入りをするに違いありません。





ワイルド・ハート

  −カウボーイの帰郷!−

エッセイ「ハリウッド裏話」の「カナダで光る星」を読まれたかたはご存じかもしれませんが、“サムライ・カウボーイ”はプロデューサーであるマックス桐島にとってひときわ思い出深い作品であり、そのビデオが先月(2月)25日、いよいよ日本でも発売されました。



邦題は“ワイルド・ハート〜遥かなる荒野へ"、郷ひろみ演じる日本のエリート・サラリーマンが、親友の過労死をきっかけとして長年あこがれたカウボーイになるべくモンタナ州へ移住し、地元民の人種偏見と戦いながら夢を実現してゆく姿をコメディー・タッチで描いています。海外の異色作を配給するタランティーノのプライベート・レーベル“ローリング・サンダー”に因んだと思(おぼ)しき、若手映画評論家、江戸木純氏のレーベル“レイジング・サンダー”から配給されるこの作品を、そしてハリウッド映画へ主演する郷ひろみの勇姿を1人でも多くの日本人に見ていただき、「夢を追うことの素晴らしさ」みたいなものを感じていただければ幸いです。ハリウッドでは、ポール・ホーガン演じるオーストラリアの西部荒野(アウトバック)出身の荒くれ男がニューヨークで巻き起こす冒険談“クロコダイル・ダンディー”や、ブレンダン・フレーザー演じる原始人が現代社会へ出現するコメディー“原始のマン”など、俗に「フィッシュ・オウト・オブ・ウォーター(水から出た魚)」と呼ばれる映画は1つのジャンルとして定着しており、ビジネス・スーツを着た生真面目な日本人企業マンが一転して未知の世界でカウボーイになるストーリーも、郷ひろみのチャーミングな演技と相まって話題を呼びました。製作時のエピソードを書いた先のエッセイ同様、この「ハリウッド最前線」推薦版ビデオをぜひご覧ください・・・・・・なお、自作へ必ず顔を出すヒッチコックならぬ、桐島も過労死する親友役を熱演(?)しているのでお見逃しなく!





二番煎じ?

いろいろな角度から市場性を考え出すハリウッドが、過去のヒット作へ目をつけないはずはありません。そして、その「夢よもう一度」的トレンドにも大きく分けて(A)ヒットしたオリジナル作の現代版リメイク、(B)ヒットした素材で新たな製作、(C)ヒットした外国映画のアメリカ版と、3つのパターンがあります。そこで、各パターンの典型といえる最近の話題作へスポットを当ててみましょう。


“インクレディブル・ミスター・リンペット”(パターンA)


人気コメディアン、ドン・ナッツ("7年目の浮気")演じる主人公が魚に変身し、Uボートを探すアメリカ海軍へ力を貸すというストーリーでヒットしたオリジナル版、1964年の製作当時は最先端をいくアニメーション技術が話題になりました。“ジム・キャリーのエースにおまかせ”の黄金コンビ、スティーブ・オイデカーク監督とジム・キャリーが組む、そのリメイク版では、大規模なCG(コンピュータ・グラフィック)が導入されるのは言うまでもなく、ゴム人間のようなキャリーの魅力とCG効果を活かした“人面魚”冒険物語といった線がオイデカークの狙いなようです。

“エントロピー”(パターンB)

「斬新な無秩序」という意味合いで、アイルランドのスーパーバンド、U2を題材にしたドキュメンタリー“U2/魂の叫び(1988年)”で称賛を浴びたフィル・ジョアノ("愛という名の疑惑")監督が、再びU2と取り組んだ作品。今回はU2のコンサート・ツアーが軸となって展開する映画の撮影中に起こるラブ・ロマンスを、ジョアノ監督自らの人生経験に基づきコミカルなタッチで描かれています。U2自身、この映画を撮るため特別コンサートを開いて応援するなど、製作予算700万ドルと小規模ながら中身は濃くなりそうです。

“もののけ姫”(パターンC)

いま話題のジャパニメーションの奇才、宮崎駿監督アニメを英語に吹き替えたこの映画は、邦画史上最高である1億5千万ドル以上の売り上げを引っ下げたアメリカ市場への参入だけに、日本製アニメの世界的な反響を計る意味でも興味を引かれます。インディペンデンスの旗手でありながらディズニー傘下のスタジオとして絶えず斬新な企画を提供してきたミラマックスの特別レーベル、ディメンション・フィルムが配給し、“プリンセス・モノノケ”と題してこの夏全米公開。また、ミラマックスではオリジナルを基盤としたアメリカ版のアニメ製作も検討しており、人気スターを“声の出演”に起用して当たったディズニー・アニメのパターン同様、これまでミラマックスが製作したヒット映画へ主演したスターたちをリクルートする作戦のようです。



ハリウッドが選ぶバレンタイン・カップル

いま日本でも精力的にマルチプレックス(複数の劇場からなる映画館)事業を展開しているアメリカ最大の映画館チェーンAMCとジェネラル・シネマが、2月14日のバレンタイン・デーに因んで発表した“最もロマンチックな映画カップル”リストを、遅ればせながら紹介したいと思います。このリストは、幅広い年代層から映画ファン1,000人を選び、100カップルの中で最もロマンチックだと感じるペアを5組選択させるというアンケート方式で作成されました。上映中の強みもあってか、30パーセントの支持率を得た“タイタニック”のカップル以下、トップ10を見てみると・・・・・・

1位:レオナルド・ディキャプリオケート・ウィンズレット("タイタニック")
2位:トム・ハンクスメグ・ライアン("めぐり逢えたら")
3位:パトリック・スウェイジデミー・ムーア("ゴースト/ニューヨークの幻")
4位:ビリー・クリスタルメグ・ライアン("恋人たちの予感")
5位:トム・クルーズレニー・ゼルウィガー("エージェント")
6位:ハンフリー・ボガードイングリッド・バーグマン("カサブランカ")
リチャード・ギアジュリア・ロバーツ("プリティー・ウーマン")
7位:リチャード・ギアデボラ・ウィンガー("愛と青春の旅立ち")
8位:レオナルド・ディキャプリオクレアー・デインズ("ロミオとジュリエット")
9位:ライアン・オニールアリー・マグロー("ある愛の詩")
10位:パトリック・スウェイジジェニファー・グレイ("ダーテイー・ダンシング")


どれも印象深いカップルですが、僕個人のチョイスは、いま全米で最も住みやすい街として人気のシアトルを舞台に「運命の出会い」を描いた“めぐり逢えたら/スリープレス・イン・シアトル"(左上の写真)です。さて、皆さんの心に残るバレンタイン映画はどれでしょうね?




(1998年3月1日)

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