オスカー・パロディー!?
毎年アカデミー賞と時期を同じくして発表されるゴールデン・ラズベリー賞は、ハリウッドの「本年度最低映画」に与えられるパロディー的な賞として“ラジー”の愛称で親しまれています。ラズベリーには直訳の「キイチゴ」という意味のほか、スラングで「冷笑のしぐさ、軽蔑」といったニュアンスもあり、賞のトロフィーも映画フィルム缶へ金メッキを施したゴルフボール大のゴム性キイチゴを乗せると、洒落っけたっぷりです。さて、今年の候補にあがっている映画ですが、筆頭は最低作品賞、監督賞、続編賞など11部門でノミネートされた“バットマンとロビン"、続いて“スピード2”が最低作品、監督、女優など8部門で候補、また6部門の“アナコンダ"”や5部門の“ポストマン”と“沈黙の断崖”など、強者(?)が名を連ねる中でも面白いのは“最低カップル賞”のノミネート。“ダブル・チーム”のジャン・クロード・バン・ダムとデニス・ロッドマン、“スピード2”のサンドラ・ブロックとジェイソン・パトリックといったコンビへ、ジョン・ボイトとメカニック大蛇の“アナコンダ”カップルや“沈黙の断崖”のスティーブン・セガールと彼のギターといった風変わりなコンビが混ざっています。また、パロディー精神旺盛なのは今年から新設された“最悪人命無視及び環境、公共施設破壊賞”なるカテゴリーで、やたら人が殺される“バットマンとロビン"、"コン・エアー"、"タービュランス/乱気流"、そして環境を破壊しまくる“ロストワールド"、"ボルケーノ”がノミネートの名誉(?)に輝いています。そこで、オスカーならぬラジーの行方を占ってみると・・・・・・

最低作品賞
他の作品がそれなりに楽しませてくれた反面、まったくいいとこなしの“ポストマン"(写真左)。
最低監督賞
これまた“ダンス・ウィズ・ウルブス”はまぐれであることを実証してしまったケビン・コスナーと、オリジナルの冴えをすっかり失くした“スピード2"(写真右)のヤン・デ・ボンが、“バットマンとロビン”のジョエル・シューマーカー、“Uターン”のオリバー・ストーンを押さえて同点受賞。
最低男優賞
“沈黙の断崖”のスティーブン・セガール、“スティール”のシャキール・オニールは「アクション・スター(演技は二の次)」、“セイント”のバル・キルマーと“アナコンダ”のジョン・ボイトは「オーバー・アクティング(演技過剰)」と、苦しい言い訳がある反面、“ポストマン”のケビン・コスナーは“ワイアット・アープ”と“ウォーターワールド”を凌ぐ酷さで堂々(?)受賞。
最低女優賞
地の「突っ張り中年」演技が鼻についた“ビューティシャン・アンド・ビースト”のフラン・ドレッシャー、太りすぎが祟った“エクセス・バッゲージ”のアリシア・シルバーストーンに加え、“G・Iジェーン”のデミー・ムーアと“タービュランス/乱気流”のローレン・ホリーがノミネートされているのは意外でした。やはり、Aリスト・スターの座を転げ落ちてしまった“スピード2”のサンドラ・ブロックが本命でしょう。
当然ながら候補者は誰も出席しないパロディー感覚たっぷりの第18回ラジー授賞式が開催されるのは、皮肉にもオスカー前夜の3月22日です。
アジア旋風3>
1970年代、ブルース・リーが全世界にカンフー・ブームを巻き起こして以来、ハリウッドではアジア旋風が吹き荒れてきました。'80年代を席巻したスタローン、シュワルツェネッガー、バン・ダムの3大アクション・スターは年老いたせいもあり、ここしばらく注目を集めているのが“リプレイスメント・キラーズ”で待望のハリウッド・デビューを果たしたチョウ・ユンファ(写真)や、独特のアクション・コメディーで人気上々のジャッキー・チェンなど香港アクション・パワーの活躍ぶりです。香港では40本以上の主演作がありトム・クルーズ並のスーパスターといわれながら、アメリカではまったく無名の42歳のユンファへ2,500万ドルの製作費を投じたソニー・スタジオとしても、なんとか彼を新時代のヒーローに仕立て上げたいところでしょう。その彼が“リプレイスメント・・・”の製作総指揮ジョン・ウー("フェイス/オフ")と組んだ一連の香港ギャング映画といえば、最近のハリウッド・ヤング・パワーへ与えた影響は計り知れず、タランティーノ監督の“レザボアドッグス”をはじめ、“グロス・ポイント・ブランク"、"コンエアー”などはウー監督のトレードマークであるスローモーション仕立ての派手なアクション・シーンを多く取り入れています。1993年にバン・ダム主演作“ハード・ターゲット”でハリウッド・デビュー以来、“ブロークン・アロー"(興業収益7,000万ドル)、“フェイス/オフ"(同1億2千万ドル)と着実な歩みを示すウー監督が、かつて“狼/男たちの挽歌"、"ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌”といった名作を生み出したユンファとのコンビは、いわば香港シネマ版「スコセッシ監督&デ・ニーロ("グッド・フェローズ"、"カジノ")」です。親しい友人同士の彼らが、この夏、いよいよ舞台をハリウッドへ移してコンビを組む“キングス・ランサム"、そして3月には、苦手の英語を克服してクールなヒーロー役を披露したユンファが、マーク・ウォールバーグ("ブギーナイツ")と共演するハリウッド第2作目“コラプター/汚れた奴ら”で、賄賂にまみれたチャイナタウンの刑事役を演じます。また、“キングス・・・”の後は“パルプ・フィクション"、"ジャッキー・ブラウン”のプロデューサー、ローレンス・ベンダー製作“アナ・アンド・ザ・キング”へ主演予定と、ユンファのハリウッド侵略作戦は深く静かに進行しているようです。一方、1996年に旧作“レッド・ブロンクス”を“ランブル・イン・ザ・ブロンクス”と改題してヒット(興業収益3,200万ドル)させたジャッキー・チェンは、以来、“スーパー・コップ(旧題:ポリス・ストーリー3)"、"オペレーション・コンドル(旧題:プロジェクト・イーグル)”や“ジャッキー・チェンのファースト・ストライク(旧題:ファイナル・プロジェクト)”といった旧作の吹き替え版で人気者となりました。現在、クリス・タッカー("フィフス・エレメント")と共演で撮影中の“ラッシュ・アワー”ほか、ブルース・ウィリス降板後のあとがまとして出演するジョー・エスタハス("氷の微笑")脚本作“バーン・ハリウッド・バーン”で、自らをパロディッたかのごとき命知らずのアクション・スター役を演じる予定です。彼ら2人以外の若手陣でも、現在撮影中の“リーサル・ウェポン4”でメル・ギブソンと共演する、香港カンフー映画の新星ジェット・リーの悪役ぶりが見もの。007シリーズ最高の興業収益を上げている“トゥマロー・ネバー・ダイズ”で華麗なアクションが光ったミッシェル・ヨウは、“ポリス・ストーリー”シリーズなどのジャッキー作品で磨き上げたカンフー・アクションと東洋的な美貌でハリウッドに定着しそうな勢いで、以前ジャッキーとウェスリー・スナイプスのコンビで企画されて没となった“コンフューシャス・ブラウン/孔子のブラウン”へ、人気黒人コメディアン、マーチン・ローレンス("ナッシング・トゥー・ルーズ")と共演する話が進んでいます。画期的な創造性と独自の存在感を旨くミックスした香港インポート、ますます目を離せない彼らのハリウッド侵攻(インベージョン)ですね。
デジタル時代の新勢力?
従来のビデオよりはるかに優れた映像や音響効果で、プレーヤーの平均価格が1,000ドル前後という高価なハードをものともせず、着実な伸びを見せるDVD(デジタル・ビデオ・ディスク)は現在全米で30万台以上を売り上げています。そのDVD市場へDIVX(デジタル・ビデオ・エクスプレス)という強力なライバルが出現しました。映像や音楽面ではDVDと同等の鮮明さで、配給側とユーザー側の両方へメリットのある特徴を備えているところがこの新製品の大きな目玉。さて、来月(4月)600ドル前後で発売される(ゼニス社製)DIVXプレーヤーのユニークな特徴とは?・・・・・・一度DIVXディスクをレンタルすれば、プレーヤー自体がレンタルであることを確認して自動的に48時間は鑑賞が自由となり、それ以後はディスクを捨ててもよし、保持して将来約3ドルの試写料を払って再度鑑賞することも可能です(期限が切れた後の鑑賞はプレーヤーが自動的にショップへ電話してクレジット・カードにチャージ)。つまり、レンタル・ショップへ返さなくてもいい点が画期的な「内蔵モデム搭載」商品、もちろんレンタル専用ではありません。レンタル/PPV(ペイ・バイ・ビュー)方式がイヤな人は、小売価格が約20ドルのDIVXゴールド・ディスクを購入すれば、無限に鑑賞できます。ただ、レンタル・ショップへ返す時のテープ巻き戻し、延滞超過料金加算、返しに行く手間がなくなる反面、廃棄されたディスクの処理法などの問題もあるわけです。僕たち映画プロデューサーとしては、自作の配給段階で、劇場公開、PPV、ビデオ、ケーブルTV、ネットワークTVといった従来のディストリビューション・ルートから派生する、機上放映権、レーザー・ディスク権、DVD権へ、さらにDIVX権が加わり、市場性および事業性が広がる嬉しい話題ではありますが、DIVXプレーヤーは従来のDVDディスクが再生可能なのに対し、その逆は互換性がないことは残念な気がします。また、プレーヤーの発売と同時、100本ぐらいのDIVX映画タイトルがデビューするのを、レーザー・ディスク、DVDと「時代を先取り」したはずだったユーザーは、はたしてどう受けとめるでしょう? この移行の激しい新世代ハード競争へ“ウェイト・アンド・シー/傍観姿勢”的な反響を示す懸念がなきにしもあらず・・・・・・興味のあるかたはDIVXサイトをチェックされれば?
パワー・ランキング
ハリウッドの映画業界を牛耳るスタジオ重役100人を対象に、ヒット作品でどのスーパースターのキャスティングが不可欠かというアンケート調査の結果“スター・パワー'98”が発表されました。400人のスターから厳選されたスター中のスターとは・・・・・・
1位:トム・クルーズ(100点)
全世界の興行収益が2億7千万ドルのメガヒット作“エージェント”をはじめ、その前の“ミッション・インポッシブル"、"インタビュー・ウィズ・バンパイアー"、"ファーム/法律事務所"、"フュー・グッド・メン”といった4作も着実にヒットさせた実績は大きく、主演映画の公開週末収益が平均3,200万ドルと、ハリウッド全体の平均900万ドルを上回るダントツの数字です。また、フランス、イギリス、イタリア、日本、香港などでの絶対的な海外人気も満点の原因でしょう。先月、3億ドルで購入したばかりの最新型ガルフ・ストリーム・ジェットは“トイ・ストーリー”がテーマの子供部屋や10人乗り豪華キャビン付、この愛用機で彼はビバリーヒルズ、オーストラリア、ヨーロッパの邸宅を飛び回る計画だとか。愛妻ニコール・キッドマンとの共演作で1年以上撮影の続いたスリラー“アイズ・ワイド・シャット”が、もうすぐ封切られます。
2位:ハリソン・フォード(99点)
“デビル”の世界収益が期待はずれの1億4千万ドルに終わったものの、続く“エアーフォース・ワン”は3億ドルを稼ぎだして再び存在感がアピールされたハリソン、世代を越えた幅広い人気は衰えていません。ロマンチック・コメディー“6日7晩”の封切りが間もなくです。
3位:メル・ギブソン(98点)
1億4千万ドルとまずまずの世界収益を上げた“陰謀のセオリー”ながら、やはり彼の強みは世界中でファン層の多いコメディー・タッチのアクション物でしょう。大ヒット間違いなしの次作“リーサル・ウェポン4”が期待されます。
4位:トム・ハンクス(97点)
5位:アーノルド・シュワルツェネッガー、ブラッド・ピット(96点)
7位:ジム・キャリー(95点)
8位:ジョディー・フォスター、ジョン・トラボルタ、
ブルース・ウィルス(94点)
以上のベスト10順位を見ればハリウッドのスター勢力図は一目瞭然です。ちなみに、11位が92点のジュリア・ロバーツとクリント・イーストウッド、以下13位が91点のロビン・ウィリアムス、14位が90点のジャック・ニコルソンと続き、意外なのは“ポストマン”で大転けしたケビン・コスナーがシルバスター・スタローン、ニコラス・ケイジと同点の89点で15位にランクされています。
(1998年3月16日)
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