映画と季節


画像による目次はここをクリックして下さい
ロード・オブ・ザ・リング
王の帰還
■ドライブウェイに春がくりゃ・・・・・・

 四季のないロサンゼルスでも、ハリウッド映画にはきちんと季節がある。まず、春シーズンの季節の折り目となるのは「オスカー」ことアカデミー授賞式であり、その前の年の作品が対象となるいっぽう、審査員へ与える印象は、なるべく封切日が新しいに越したことはない。したがって、オスカーを狙った映画のほとんどが封切られるのは前年の暮だ。こうしてハリウッドの四季が始まる。

 そして年も明け、アカデミー授賞式へ近づくと共にノミネート作は再び客が入り出す。たとえば、今年の作品賞でノミネートされた「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」が12月中旬、「ロスト・イン・トランスレーション」が9月上旬、「マスター・アンド・コマンダー」が11月中旬、「ミスティック・リバー」が10月上旬、「シービスケット」だけが一足早い夏シーズンで7月下旬の全米公開という具合だ。

 その他、12月の上旬から下旬にかけては渡辺謙の助演男優賞ノミネート作「ラスト・サムライ」、ダイアン・キートンの主演女優賞ノミネート作「恋愛適齢期」、レニー・ゼルウィガーの助演女優賞ノミネート作「コールド・マウンテン」が全米公開され、11月でいったんトップ10から消えた「ミスティック・・・」などノミネートされるや返り咲き、授賞式間際までトップ10内に留まり続けた。

 1年遡(さかのぼ)って去年の作品賞ノミネート作は「シカゴ」が12月下旬、「ギャング・オブ・ニューヨーク」が12月中旬、「めぐりあう時間たち」が12月下旬、「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」が12月下旬、「戦場のピアニスト」が12月下旬の全米公開と、もっと偏っている。さらにもう1年遡(さかのぼ)った一昨年は「ビューティフル・マインド」が12月中旬、「ゴスフォード・パーク」が12月下旬、「イン・ザ・ベッドルーム」が11月下旬、「ロード・オブ・ザ・リング」が12月中旬、「ムーラン・ルージュ」が5月中旬の全米公開で、夏シーズンの先陣をきった「ムーラン・・・」以外のパターンは、ほとんど変わらない。

画像による目次はここをクリックして下さい
スパイダーマン2
■プールサイドに夏がくりゃ・・・・・・

 こうして春シーズンが終わると、少し間を置いた後、いよいよ夏シーズンの到来だ。このシーズンは1年間でもっとも客が入るだけに、製作スタジオは過激な競争を展開する。5月から8月へ至るブロックバスター・シーズン中、どの公開時期を選ぶかが戦略上の重要なポイントとなるため、各スタジオは競争相手のスケジュールを意識しながら自らの戦略を練ってゆく。

 公開時期が途中で変更されるのは、競争相手との調整ばかりではなく、製作が予定より遅れた場合も公開時期は変更せざるをえない。オリジナルの「スパイダーマン(2002年)」が成功した理由の1つは、5月3日の全米公開が正解だったことだ。そこでソニーは「スパイダーマン2」を今年の同時期に公開を予定していたが、結局は製作が間に合わず、今月(6月)4日の独立記念日へターゲットを絞る戦略に変えた。

 代わって今年は5月のシーズン幕開けを「ヴァン・ヘルシング」が飾り、2週目は「トロイ」、3週目は「シュレック2」、最後の週は「デイアフター・トゥモロー」と続いた後、独立記念日を控えてやや中だるみとなる6月を狙ったのが「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」や2週間遅れの「ターミナル」だ。そして、先の「スパイダーマン2」の全米公開と共に明けた今月は、「キング・アーサー」が翌週、「アイ、ロボット」が中旬、「ヴィレッジ」が下旬の公開を予定している。

 ブロックバスターの多くはシーズン幕開けの5月独立記念日の7月へ集中する傾向があるいっぽうでは、競合を避けるためそれらがほぼ出揃った後の8月を狙うのも1つの手だ。今年は「コラテラル」や「エイリアンvsプレデター」がそのパターンで勝負している。以上の主だったブロックバスターの公開予定日を比較検討するだけでも、製作スタジオの苦労はなんとなくわかりそうな気がしないだろうか?!

画像による目次はここをクリックして下さい
シャーク・テール
■テニスコートに秋がくりゃ・・・・・・

 夏シーズンの次に製作スタジオが力を入れるのは冬シーズンだが、その間の秋シーズンも結構充実している。昔からこのシーズンは「芸術の秋」、「読書の秋」、「スポーツの秋」、「実りの秋」、「味覚の秋」などといわれるとおり、暑い夏が終わった後の過ごしやすい気候は、寒い冬へ向かう緊張感と相まって我々をやる気にさせる。そんな時期だから、ヒットより質を重視した映画が集まるのかもしれない。

 また、このシーズンは同じ理由で製作スタジオが新しい企画を試すちょうどいい時期でもある。「シュレック(2001年)」の企画は「シュレック2」の成功でドリームワークスの狙いが正しかったことを証明した。次なるチャレンジはアニメ企画「シャーク・テール」で、彼らが選んだ全米公開の時期は10月1日というわけだ。また、ドリーム・ワークスの対抗馬であるピクサーが「ファイティング・ニモ(2003年)」に続いて放つ「インクレダブル」も、翌11月上旬の全米公開というのは同じような事情からだろう。

 アニメと限らず様々なジャンルの映画が登場するのも、このシーズンの特徴だ。春シーズンだと芸術作、夏シーズンだとSF大作スペクタクル巨編、あるいはヒット・シリーズ物大物監督の話題作と相場が決まっている。秋シーズンの場合、そういう偏った傾向はない上、ずれこんだ夏シーズン組や気の早い冬シーズン組が混ざっていたりもするから楽しい。あとはオスカーを狙う春シーズン組が、ここらあたりでそろそろ動き出す。

画像による目次はここをクリックして下さい
ポーラー・エクスプレス
■ロープウェイに冬がくりゃ・・・・・・

 クリスマスでピークを迎える冬シーズンも、幕開けは夏シーズンのような派手さがなく、秋シーズンの延長でいつの間にやら始まっていたという感じだ。このシーズンは夏のブロックバスター同様、製作スタジオがヒットを狙う娯楽大作で賑わう。そして、年末はオスカーを狙う芸術作がもっとも集中する時期でもある。翌年のアカデミー賞は12月31日までの封切作が審査の対象となり、早く封切るとそれだけ印象は薄れてしまうため、期限間際まで待ったほうが確立は高い。

 つまり、冬シーズンの場合、はっきりと2つのタイプに分かれる。同じ娯楽大作でも、春シーズンで挙げたオスカーを狙うタイプが1つと、そうでないタイプの2つだ。たとえば、「マトリックス レボルーション(2003年)」の11月全米公開はオスカーが影響したわけではない。また、「トゥモロー・ネバー・ダイ(1997年)」、「ワールド・イズ・ノット・イナフ(1999年)」、「ダイ・アナザー・デイ(2003年)」他、ここ何年か冬シーズンの公開が恒例となっている007シリーズも、オスカーは無縁のパターンである。

 ただ、すべての映画がどちらかのタイプへ分けられるとは限らない。11月に全米公開を控えた「ポーラー・エクスプレス」は、1994年度のアカデミー作品賞受賞作「フォレスト・ガンプ/一期一会」で主演男優賞と監督賞にも輝いたトム・ハンクスロバート・ゼメキスのオスカー・コンビが再び組んだ話題作だ。そう聞いてこの映画はオスカーへ挑戦するつもりなのかと思えば、予告編を見るとアニメであり、かといってシュレックのようなユニークな主人公も登場せず・・・・・・たとえ内容が感動的にせよ、オスカーは難しいタイプだろう。

 こうして2つのタイプが入り混じって展開する冬シーズンはまた、夏シーズンの終わりが曖昧なのと比べ、大晦日できり良くエンディングを迎える。そして、年は明け、再びハリウッドの四季が巡ってゆく。

横 井 康 和      


Copyright (C) 2004 by Yasukazu Yokoi. All Rights Reserved.

映画と女流スナイパー 目次に戻ります 映画とダウンロード