映画と外国人スター


 ハリウッド映画スターといえば、アメリカ人が多いのは確かだが、そうではない外国人スターも少なくない。たとえば「バイオハザード・シリーズ」のミラ・ジョヴォヴィッチが旧ソ連(ウクライナ)のキエフ出身なのはよく知られているし、日本の渡辺謙や菊地凛子、そして中国のジャッキー・チェンやツィイー・チャンなどアジア系のスターは、その外観と訛った英語だけで外国人であるのがわかる。
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クリスチャン・ベール

 そういった外観だけでわかる外国人スターはともかく、ジョヴォヴィッチなど同じ白人系のスターの場合、一見しただけでアメリカ人かどうかがわからない場合も少なくない。たとえば、アメリカン・コミックを代表する「バットマン」、現在までに公開されている中では一番新しいバットマンを演じているのがクリスチャン・ベール(写真)だ。アメリカ人のファンへは残念ながら、そのベールもイギリス人、もっと正確にいえばウェールズ人なのである。インタビューなどで英国訛がある彼の英語を格好のつけ過ぎと思っているアメリカ人は、深く反省していただかないといけない。

 そんなベールが銀幕デビューを果たしたのは、13歳でスティーヴン・スピルバーグ監督作「太陽の帝国(1987年)」へ、オーディション参加者4000人の中から主人公役に選ばれた時であった。以来、紆余曲折を経てハリウッド・スターの座を確固たるものとしたのは、映画ファンならご存知のとおりだろう。
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ミラ・クニス

 続いて、やはり典型的なアメリカ人を演じるミラ・クニス(写真)、彼女もジョヴォヴィッチ同様、ウクライナ出身なのである。1991年、ウクライナからロサンゼルスへ引っ越した彼女が英語を学んだのは、「プライス・イズ・ライト」というアメリカ人なら誰でも知っているTV番組だ。もともとNBCの番組として始まったオリジナル版が1965年でいったん放送を終え、1972年からCBSへ移籍して新しく放送を再開した大ヒット番組である。

 この番組で英語を勉強したクニスは、その後フォックスTVの人気シリーズ「ザット'70ショー(1998〜2006年)」へ出演して広く知られるようになり、映画スターとして成功したのが「恋人にしてはいけない男の愛し方(2001年)」や「アメリカン・サイコ2(2002年)」あたりだ。英語で苦労した点では、メキシコ出身のサルマ・ハエックなども彼女と変わらない。
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キーファー・サザーランド

 TVシリーズ「24 TWENTY FOUR」へ主演、主人公ジャック・バウアー役でゴールデングローブ賞TVシリーズ部門の主演男優賞を獲得したキーファー・サザーランド(写真)も、またアメリカ人ではない。祖父のトミー・ダグラルがカナダでもっともリベラルといわれる新民主党の創設者ということもあって、父親のドナルド・サザーランドともどもカナダ国籍(ただし息子はロンドン生まれ)だ。

 4歳の時、父親ドナルドと離婚した母親シャーリー・ダグラスも女優であり、幼い頃から舞台、TVへ出演してきたキーファーが、本格的に映画デビューを果たしたのは1983年、父の出演した「ニール・サイモンの キャッシュマン」である。1986年の「スタンド・バイ・ミー」で注目されて以来、しっかりとした演技力を持つ若手として多くの作品へ出演、ハリウッドでの地位を確固としたものにした。また、「要塞監獄/プリズナー107」などで監督業も手掛けている。
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ニール・ヤング

 同じスターでも映画畑でなく音楽畑のニール・ヤング(写真)、彼もまたアメリカを代表するプロテスト・シンガーでありながら、じつはサザーランド親子と同じカナダ国籍なのである。しかしながら、ヒット曲「サザン・マン」のイメージから彼がアメリカ南部出身だと思っているアメリカ人は多い。

 イメージとしては、バーモント州の片田舎でコーヒーを飲みながら古びた家のポーチに座る姿が似合いそうなヤングだ。じっさいのところ、トロントで育った彼は、現在もマニトベで暮らしている。ひょっとしたら、マニトベの古びた家のポーチでコーヒーを飲んでいるかもしれないが・・・
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ナタリー・ポートマン

 「ブラック・スワン(2010年)」で先のクニスと共演したナタリー・ポートマン(写真)が、別の映画の中で犬と息子を連れニューヨーク市内を歩くシーンを憶えておられるだろうか? その姿はどうみてもニューヨーカーだ。ところが、彼女は生粋のユダヤ人で、第2次大戦後、家族がイスラエルのエルサレルへ移り、ポートマンもそこで生まれている。ただ、両親はアメリカで教育を受け、当人も3歳でワシントンDC、後にニューヨークへ引っ越す。ニューヨークのシーンが自然なわけだ。

 現在、イスラエルとアメリカの二重国籍を持つポートマンがまだ幼い頃、ニューヨークのパブリック・スクールでダンス・レッスンを受けた帰り、エージェントにスカウトされたのをきっかけとして俳優の道を進み、「レオン(1994年)」のマチルダ役を射止めて華々しいデビューを飾ったは有名な話である。

 ちなみに、イスラエル国籍を持つハリウッド女優も珍しいが、シャーリーズ・セロンの南アフリカ出身というのも珍しい。南アフリカ郊外で農場を経営するフランス人の父とドイツ人の母の間で生まれたセロンは、早くからバレエのレッスンを受けて育ち、ニューヨークのバレエ学校で学ぶため移住。やがてモデルの仕事も始めるいっぽうで膝を痛めてバレエを断念する。その結果、ロサンゼルスへ渡り、女優を目指すようになった。
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アンドリュー・ガーフィールド

 「バットマン」と並ぶアメリカン・コミックのヒーローといえば「スパイダーマン」だが、シリーズ・リブート後の「アメイジング・スパイダーマン」でトビー・マグワイアからスパイダーマン役を引き継いだアンドリュー・ガーフィールド(写真)は、アメリカ生まれながらイギリスのサリー州で育ち、イギリスとアメリカの二重国籍を持つ(アメリカやイギリス、そしてイスラエルでは、日本と違って二重国籍が認められている)。

 高校卒業後はイギリスの名門演劇学校セントラル・スクール・オブ・スピーチ・アンド・ドラマで学び、舞台俳優としてそのキャリアをスタートさせ、新人賞に輝くなど早くからその才能を開花させたガーフィールドが、アメリカへ戻ってきたのは俳優を目指したからであった。ガールフレンドで共演者のエマ・ストーンが初めて彼のイギリス訛を聞いた時は逆に驚いたというぐらい、彼のアメリカ英語は流暢だ。
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ヘンリー・カヴィル

 もう1人のアメリカン・コミック・ヒーローであるスーパーマンは、1月のこのコラムでもご紹介したとおり、これまで10人の俳優が演じてきた。その10番目の俳優であるヘンリー・カヴィル(写真)は、ガーフィールド同様アメリカ人からすれば「フェロー・ブリッツ(仲間のイギリス人)」なのだ。

 イギリスはジャージー島出身のカヴィルが銀幕デビューを飾ったのは「モンテ・クリスト伯(2002年)」で、それから2006年の「トリスタンとイゾルデ」まで出演作がない。その前年の2005年にはダニエル・クレイグやサム・ワーシントンと共に「007シリーズ」のジェームズ・ボンド役のオーディションの最終テストまで残っていたが、若すぎることがネックとなり、ボンド役はダニエル・クレイグで決定した。また、「トワイライト・シリーズ」の作者であるステファニー・メイヤーからエドワード・カレン役を演じてほしいと言われていたが、今度は年齢が高すぎることがネックとなり、この役はロバート・パティンソンへと渡った。

 そんなカヴィルがようやくつかんだ「マン・オブ・スティール(2013年)」でのスーパーマン役だけに、彼をイギリス人だと思っていないアメリカ人は案外多い。また予断であるが、スーパーマンの相手役ロイス・レインを演じるエイミー・アダムスは、アメリカ人ながら、軍人であった父親が駐屯するイタリーで生まれたという、ちょっと変わった経歴の持ち主である。
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ニーナ・ドブレフ

 人気TVシリーズ「ヴァンパイア・ダイアリーズ(2009年〜現在)」でエレナ・ギルバート/キャサリン・ピアース役を演じているニーナ・ドブレフ(写真)も外国人スター組の一人で、ブルガリア人民共和国の首都であるソフィア生まれだ。「ヴァンパイア・ダイアリーズ」でのアメリカン英語が上手いのは、2歳の時、家族と共にカナダへ移住し、おもにオンタリオ州トロントで育ったと聞けば納得できる。カナダのTVシリーズ「デグラシー(2006年〜2008年)」のミア・ジョーンズ役を獲得したのが芸能界へ入るきっかけとなったドブレフは、以来、多くのTVシリーズや映画へ出演してきた。

 もちろん、以上の俳優ばかりがハリウッドで成功した外国人スターではない。たとえば、イギリス勢だとショーン・コネリーやダニエル・クレイグなど一連のジェームズ・ボンド俳優からダニエル・デイ=ルイス、リアム・ニーサン、クライヴ・オーウェン、ケイト・ウィンスレット、キーラ・ナイトレイをはじめとしてまだまだいる。もっとも、彼らの多くがアメリカでもイギリス人俳優として認識されていることはいるが・・・

 その他、カナダ勢だとバンクーバー生まれのライアン・レイノルズやオンタリオ州ロンドン生まれのレイチェル・マクアダムス、オーストラリア勢だとシドニー生まれのヒュー・ジャックマンなどがいる。これらイギリス、カナダ、オーストラリア勢で共通しているのは、外国人でも英語が母国語であり、アメリカ英語を憶えるのはさほど難しくない。いっぽう、冒頭で挙げたアジア系のスターにとって英語が大きなハンディとなるのは事実だし、同じ白人系でもマドリード生まれのアントニオ・バンデラスやペネロペ・クルスといったスペイン勢は、アジア系ほどでないにしても、やはり英語で苦労したようだ。

横 井 康 和      


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