映画とエンディング


 ハリウッド映画の中には、撮影中あるいは編集(ポスト・プロダクション)の段階で、元の脚本とストーリーやエンディングが変わってしまう場合も少なくない。とくにエンディングは、映画を観終わった後の印象が大きく左右される。そこで今回はエンディングが変わった例を12作ばかりご紹介してみよう。オリジナルのエンディングかお馴染みの(つまり変更された)エンディングか、どちらがお好きかは人ぞれぞれだと思うが、両者を比較してみるとなかなか興味深い。

 まずは、シンデレラ・ストーリーの王道「マイ・フェア・レディ(1964年)」の現代版として、女性たちへ絶大な人気を誇り、見事1990年度全米興行第一位となった「プリティ・ウーマン」だ。ウォール街きっての実業家エドワード・ルイス(リチャード・ギア)が、気まぐれでコールガールのビビアン・ウォード(ジュリア・ロバーツ)と1週間のアシスタント契約を結ぶ。しかし、彼女は瞬く間にエレガントな女性へ変身し、その美しさと勝気な性格にルイスは心魅かれてゆくのだが・・・・・・じつは、オリジナルのエンディングだとウォードがクラック中毒となり、ルイスは彼女を通りへ放り出し、3,000ドルを(彼女に)投げつけるところで終わる予定であった。
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「プリティ・ウーマン」
 
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「アイ・アム・レジェンド」

 ウィル・スミス主演作「アイ・アム・レジェンド(2007年)」も、オリジナルのエンディングだと映画全体の意味合いがすっかり変わってしまう。ご存知の内容は、2012年、人類が死滅してしまった地球でたった1人、有能な科学者のロバート・ネビル(スミス)だけ生き残る。彼は究極の孤独と闘いながら愛犬サムとともに3年間もの間、ほかの生存者の存在を信じて無線で交信を続け、人類再生の道を探ってきた。そこへ謎の敵が迫ってくるというところまでは同じだが、第1稿の脚本ではミュータントが善人として描かれ、仲間を助けるため人間とのコンタクトを避けるのだ。つまり、ネビルは映画の中で悪人ということになる。

 ヒット作「羊たちの沈黙(1990年)」の続編である「ハンニバル(2001年)」で、主人公の殺人鬼ハンニバル・レクター(アンソニー・ホプキンス)が再会するFBIエージェント、クラリス・スターリング役は、ジョディ・フォスターが降板したためジュリアン・ムーアへとバトンタッチされた。オリジナルの脚本は、そのスターリングにレクターが愛情を抱いていることをはっきりと描写するため、彼は彼女へキスをしてから脱走する筋書だったのだ。
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「ハンニバル」
 
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「ハニーvs.ダーリン 2年目の駆け引き」

 「ハニーvs.ダーリン 2年目の駆け引き(2006年)」は、野球場で知り合ったゲリー・グロボウスキ(ヴィンス・ヴォーン)とブルック・マイヤーズ(ジェニファー・アニストン)が間もなく共同でマンションを購入し、同棲生活を始めて2年、少しずつ相手の細かいところが気になり始めて、ある日ついに些細なことで大喧嘩となる。そのまま同棲を解消するはずの2人は、お互いマンションが売れるまで行くところもなく、結局別れた後も同じマンションをシェアしながら別々の生活を続け・・・・・・というロマンチック・コメディーだ。映画では2人がよりを戻しそうなところで終わるものの、脚本ではタイトル通り2人が別れるエンディングだった。なぜ変更されたかといえば、当時アニストンはプラッド・ピットと離婚したばかりで、観客が映画でも失恋する彼女の姿を見たくないだろうというプロデューサーの配慮からである。

 第78回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した感動作「ツォツィ(2005年)」は、主人公のツォツィ(プレスリー・チュウェンヤガエー)が両手を上げ、警官に取り囲まれたシーンでエンディングを迎えた。その後、ツォツィはどうなるのか、さらに2つのバージョンが発表されている。1つは取り囲んだ警官が彼を射殺してしまう。そして、もう1つは生き延びて南アフリカ、ヨハネスブルクのスラム街へ帰ってゆく。どれでもお好きなバージョンをご覧ください。
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「ツォツィ」
 
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「1408号室」

 試写会で「1408号室(2008年)」のエンディングが冥(くら)すぎるという観客からの指摘があり、劇場版では内容が変更された。オリジナルのエンディングは、ジョン・キューザック演じる主人公のマイク・エンズリンが呪われた部屋を破壊する火事で焼死し、幽霊となって焼け落ちた1408号室の窓から外を眺めている。結局、死でさえもエンズリンを部屋から逃がしてくれないのであった。

 1988年のある晩、マサチューセッツ州ミドルセックスで高校生ドニー・ダーコ(ジェイク・ギレンホール)の前へ銀色の兎が現われる。ダーコは兎に導かれ、フラフラと家を出てゆく。そして、兎から世界の終わりを告げられた。あと28日6時間42分12秒・・・・・・翌朝、ダーコがゴルフ場で目を覚ますと、腕には「28.06.42.12」の文字。帰宅してみるとそこへジェット機のエンジンが落下し、彼の部屋を直撃する。何がなんだかわからないながら九死に一生を得たダーコ、その日から彼の周囲では不可解な出来事が次々と起こり始めるというカルト・クラシック「ドニー・ダーコ(2001年)」は、当初、彼がベッドで死んでゆくシーンで終わっていた。しかし、映画全体を考えると直接的な(死の)描写は逆効果ということでエンディングがカットされ、カメラの影で死んでゆくパターンへ差し替えられたのである。
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「ドニー・ダーコ」
 
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「エイリアン」

 SFの名作「エイリアン(1979年)」は、監督のリドリー・スコットが当初、もっと冥(くら)いエンディングを考えていた。そのエンディングではエイリアンがリプリー(シガーニー・ウィーヴァー)を殺し、地球へメッセージを送るため彼女の頭を使うのだ。しかし、製作スタジオの20世紀フォックスはスコットの案を拒否したためリプリーは生き残り、もし当初の予定どおりのエンディングだったら、まったく違う続編になっていただろう。

 やはりスコットの監督作「テルマ&ルィーズ(1991年)」の場合、先の「ツォツィ」同様、後から別のエンディングが発表された。グランド・キャニオンの崖っぷちを目指すところまではオリジナル・バージョンと変わらないが、別バージョンでは落ちるところしか映らない。大きな岩がクラッシュ・シーンを隠している。そして、遠くのハイウェイを走る車のシーンでエンディングとなり、観客へは死んだと思った主人公の2人テルマ(ジーナ・デイヴィス)とルィーズ(スーザン・サランドン)が生きていたんだと想像の余地を残す。
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「テルマ&ルィーズ」
 
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「ブレードランナー」

 もう1本、スコットの監督作で「ブレードランナー(1982年)」、この作品などは諸々の事情から5つの異なるバージョンが作られている。オリジナル・バージョンは試写会でエンディングが冥(くら)すぎるという観客からの指摘があり、劇場版ではハッピーエンドへと変更された。また、エンディングと無関係だが、その後の3バージョンの中でも最後のディレクターズ・カットでは、作品の解釈を変えるような意味深長なシーンが追加されている。地球へ侵入したレプリカントは「男3人、女3人の計6人」であり、うち1人が死亡して残りは5人のはずが、映画では4人しか登場しない。主人公デッカード(ハリソン・フォード)こそが謎の6人目のレプリカントではないかと思わせる変更なのだ。

 「ターミネータ2(1991年)」の最終的なエンディングが、機械文明に脅かされる人類の未来を示唆しているいっぽうで、オリジナルの脚本はまったく違っていた。2029年、サラ・コナーが幸福で健康なお婆さんとなり、息子のジョンは上院議員と、すべてが上手くいったところで迎えるはずのエンディングを、監督のジェームズ・カメロンは撮ろうともしていない。その代わりお馴染みのエンディングへ変更するのである。もちろん、続編を考えていたからであろう。
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「ターミネーター2」
 
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「シャイニング」

 スタンリー・キューブリック監督の名作「シャイニング(1980年)」は最初、病院内でのエピローグ・シーンがあった。キューブリックはウェンディ(シェリー・デュヴァル)とダニー(ダニー・ロイド)のキャラクターを気に入っており、このエンディング・シーンで2人が無事なことを観客へ伝えたかったのだ。しかし、最終的にはカットされるという経緯があった。余談ながら、先の「ブレードランナー」の劇場版で追加された最終シーンの空中撮影は、この「シャイニング」からオープニングの別テイクを持ってきたものである。

 以上12作の異なるエンディングを比べ、どう思われただろうか? なお、これらが元のエンディングを変更したものであるのに対し、ハリウッドでは昔からエンディングの変更どころか、脚本が未完成のままクランクインしている作品さえ数多い。たとえば、「サンセット大通り(1950年)」、「麗しのサブリナ(1954年)」、「アラビアのローレンス(1962年)」、「トパーズ(1969年)」、「エイリアン3(1992年)」、「ジュラシック・¥パークV(2001年)」、「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト(2006年)」、「アイアンマン(2008年)」などが好例だ。

横 井 康 和      


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