映画と性転換


 性転換といっても、手術で男が女になったり女が男になったりする話ではない。本来、脚本の中で男の役だったのを女の役へ変更された映画が意外と多いので、今回はそれらを何本かまとめてみた。
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「エイリアン」

 リドリー・スコット監督作「エイリアン(1979年)」でシガニー・ウィーバー演じる主人公は、当初の脚本だと男であった。しかし、男より女のほうがよりインパクトと意外性を映画へもたらすだろうという理由から、スコット監督は女性に変更する決断を下したのである。その決断が功を奏し、ウィーバーは女性アクション・スターとしての確固たる地位を築くのだ。

 また、男の予定だったリプレーが女に変わったばかりでなく、もともとは生存者がいないはずだったのをスコット監督はシリーズ化を考えて彼女1人だけ生き残らせた。これも大正解であったことが、今では誰もが納得するだろう。さすがの名監督である。

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「ヒズ・ガール・フライデー」
 続いて70数年遡(さかのぼ)り、ケイリー・グラント主演作「ヒズ・ガール・フライデー(1940年)」は、「犯罪都市(1931年)」をリメイクした傑作コメディだ。この作品でグラントと共演しているのがロザリンド・ラッセル、彼女の役柄も脚本上は男だった。しかし、まずキャストが顔を合わせて脚本を読む「スクリプト・リーディング」の際、監督のハワード・ホークスは主役の台詞を読む男性が1人しかいないとわかり、もう1人の台詞は女性へ読ませた結果、そのほうが面白い。

 こうして脚本家は(女性に合わせて)内容の書き直しを命じられ、シカゴ・エグザミナー紙の編集長ウォルター・バーンズ(グラント)と離婚したばかりの女性敏腕記者ヒルディ・ジョンソン(ラッセル)の物語となり、ラッセルが素晴らしい演技を披露する。そして、彼女の演技はグラントを含む他の男優陣を圧倒した。
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「フライトプラン」

 その60数年後、ジョディ・フォスター主演作「フライトプラン(2005年)」の企画が始まった時点で、主演は彼女でなくショーン・ペンの予定だったが、監督のロベルト・シュヴェンケは男より女のほうが感情的なインパクトは強くなると考えた。そこで主人公を演じる女優を物色し始めて間もなく、フォスターが浮かび上がったのだ。

 それからシュヴェンケとフォスターは、どこをどう変えるかいろいろやり取りをしたようだが、フォスターの演じた主人公の名前「カイル・プラット」は当初から変わっていない。

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「ソルト」
 「フライトプラン」がショーン・ペンを想定した企画であったのと同様、「ソルト(2010年)」も、もともとはアンジェリーナ・ジョリーでなくトム・クルーズが主人公を演じるはずだった。しかし、当のクルーズは出演を断り、それがきっかけとなり脚本は書き直され、男性の主人公エドウィンが女性の主人公イヴリンへと生まれ変わるのである。

 その背景には「ジェームズ・ボンド・シリーズ」や「ジェイソン・ボーン・シリーズ」をはじめとする男性スパイ映画が氾濫している現状もあり、製作スタジオとしては女性スパイ映画の可能性を試そうという気持ちがあったようだ。その試みは当たり、映画の続編こそ噂ばかりで実現していないが、TVシリーズ化の話は着々と進行中だ。
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「キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2」

 アーノルド・シュワルツェネッガーの初期のヒット作「コナン・ザ・グレート(1982年)」の続編「キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2(1984年)」で、独特の存在感を発揮していたのがズーラ役のグレイス・ジョーンズである。オリジナルのコミック・ブックでは男だったズーラが、どういう経緯で女のキャスティングに変更されたか定かではない。

 はっきりしているのが、ジョーンズは本作の話題性へかなり貢献しており、翌年の「007/美しき獲物たち(1985年)」での彼女の起用も、この延長線上にあるといえるだろう。以来、現在へ至るまで彼女は音楽活動と平行して女優業も継続している。私自身、四半世紀ほど前に彼女と仕事で係わったが、夜道で顔を合わせたくないと思わせる迫力は相当なものだった。

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「アワー・ブランド・イズ・クライシス」
 去年(2015年)の10月全米公開されたばかりのサンドラ・ブロック主演作「アワー・ブランド・イズ・クライシス」も、ブロックが演じる主人公カラミティ・ジェーンは本来ジョージ・クルーニーが演じる前提でスタートしている(降板後もクルーニーはプロデューサーの1人として参加)。

 クルーニーからブロックへ主演が変わってから、脚本は彼女に合わせて書き直された。2005年の同名のドキュメントが原案のストーリーは、2002年に行われたボリビアの大統領選挙候補がアメリカの政治コンサルティング会社を雇い、派遣された2人の社員はアメリカの選挙と同じく選挙活動を展開、その甲斐があって候補者は見事当選するというものである。そして、2人うち中心となるのがジェーンだ。

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「バリスティック」
 「バリスティック(2002年)」は、DIA(麻薬取締局)長官ガントの息子マイケルが彼の部下たちに誘拐されるも、突然謎の女シーバーが彼らの前へ立ちはだかり、男たちを瞬時になぎ倒すとマイケルをどこかへ連れ去る。いっぽう元FBI(連邦捜査局)の敏腕捜査官エクスは7年前に妻を爆発事故で亡くして以来、精神的に立ち直れず酒びたりの日々を送っているところへ、かつての同僚からマイケル奪還の依頼が入利、物語は展開してゆく。

 このエクス役とシーバー役が最初はどちらも男性として脚本が書かれていた。しかし、まずエクス役へキャスティングされたアントニオ・バンデラスは、シーバー役を女性にしたほうが面白いのではないかと提案したばかりかルーシー・リューを推薦し、彼の意見が採用されたのである。

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「40歳の童貞男」
 コメディー作「40歳の童貞男(2005年)」でスティーヴ・カレル演じるアンディのボス、ポーラはジェーン・リンチのはまり役だ。しかし、監督のジャド・アパトーがこの企画を考えた時点では男の役だった。カレルの妻が「ずいぶん男臭い映画ね」と言ったのをきっかけにアパドーはストーリーを練り直し、リンチの起用へと結びつく。

 リンチ自身、告白しているが、彼女のこれまでの役柄の多くはボス的な存在で、もともと男性の役だったものも少なくない。「40歳の童貞男」がその代表といえよう。

 ざっと8作をご紹介してきたが、「バトルスター・ギャラクティカ」のケイティー・サッコフ演じる「スターバック」ことカーラ・スレイス役など、他にもまだまだある。また、当然ながら女の役だったのが男へ変更されるケースもあり、「スタートレック」のレナード・ニモイ演じるスポック役はパイロット・フィルムでナンバーワンと呼ばれる女性だった。もっと意外なのがオリジナルの「スター・ウォーズ」で、初期の脚本ではルーク・スカイウォーカーが女性でスターキラーという名前なのだ。

 小説と違って視覚が大きなウェイトを占める映画では、キャラクターの性を変更した場合、かなりニュアンスが違ってくる。たとえば、男性版の「エイリアン」や「ソルト」を想像してほしい。果たして、あそこまで成功しただろうか?

横 井 康 和      


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