映画とスタント


 俳優たるもの、アクション映画に出演する場合、多かれ少なかれ自らスタントをこなす必然性が生じる。スタントマン(やスタントウーマン)へ任せっきりというわけにはいかないのだ。その中でも、もともとスタントを好きな主演俳優がいるいっぽうで、監督からスタントを半ば強要される場合もある。ただし、ハリウッド業界では保険会社が煩いので、危険なレベルのアクションは主演俳優のスタント・ダブルしか出来ない。ということで、かなりのスタントまで自らこなしたアクション・スターを以下8人ご紹介しよう。

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シャーリーズ・セロン
 シャーリーズ・セロン(写真)は「超攻撃的(トータル・バッドアス)」なキャラクターとして有名だが、彼女の主演作「アトミック・ブロンド(2017年)」を観れば、その理由は想像がつく。同作のスタント・コーディネーター、サム・ハーグレイヴ曰(いわ)く、「シャーリーズはファイティング、ランニング、その他、彼女のアクション・シーンの98パーセントまで自らこなしているよ。階段を転げ落ちたり高所からスイングするような・・・・・・保険会社から彼女が禁じられているアクションを除いてね」ということである。

 ちなみに、「アトミック・ブロンド」の後セロンが主演した映画はアクション作「ワイルド・スピード ICE BREAK(2017年)」、コメディー「タリーと私の秘密の時間(2018年)」、犯罪ドラマ「グリンゴ(2018年)」に続いてコメディー「ロングショット」が今年の5月3日の全米公開を予定しており、しばらく過激なスタントはなさそうだ。

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クリステン・スチュワート
 次にクリステン・スチュワート(写真)、「スノーホワイト(2012年)」での彼女の役柄が乗馬や乗馬をしながらのスタントを学ばなくてはならず、正直なところ怖かったと告白している。彼女が言うには、「監督が私を断崖から放り投げ、冷たい氷のような海の中を泳がされたの。でも、とてもクールだった(かっこよかった)わ。もっとも、私の顔へは痛みと不快感と恐怖が感じられたけれど。ともかく、それは素敵だった」らしい。

 スチュワートはまた、一連の「トワイライト・シリーズ」でも最終章の後半でバンパイアとなった彼女の演じるベラが、人間離れをしたスピードで走ったり跳躍したりするスタント・シーンを演じており、それらのシーンも快適だったと話している。

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クリスチャン・ベール
 「ダークナイト・シリーズ」の主演クリスチャン・ベールは、たとえそれがシアーズ・タワー(現在はウィリス・タワー)の屋上の端に立つことを意味しても、役割へ完全に没頭するので知られている俳優だ。彼自身が言っている、「僕は他の誰かへそれをやらせるつもりなどなかった。僕が自分自身で立って、それを経験したかったんだ。それは110階下を見下ろす素晴らしいスリルだったよ」と。

 スタント以外で以上3人の共通点は、役のためなら過激な体重のコントロールをするので知られていること。そもそもセロンが「モンスター(2003年)」で初めてオスカーの主演女優賞を獲得したのは、4週間で14キロ増量したのが功を奏している。スチュワートは逆に「トワイライト・シリーズ」で激痩せしているし、ベールたるや役ごとで激痩せしたり激太りしたり忙しいったらない。つい先日、「もう役柄で体重を極端に変化させるのはやめる」と宣言したぐらいだ。ともあれ、彼ら3人が役柄へ取り組むうえで体重を調整するのと、自らスタントに挑戦する原点は同じだと思う。

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アンジェリーナ・ジョリー
 「ソルト(2010年)」の主演でアンジェリーナ・ジョリー(写真)はスタント・ダブルを断った。彼女が演じた諜報員イヴリン・ソルトの役は、素手の格闘技や多くの武器を扱ったり、また高速道路からその下を走るトレーラーへ飛び移ったりする必要があり、彼女はそれらのスタントを自らこなしたのである。

 ニューヨーク州ロングアイランドでの撮影中、彼女は頭を打ち、眉間に切り傷ができて出血したため病院へ運ばれた。大事を取って検査を受けた後、ジョリーはセットに戻り、その日の午後、撮影が再開されている。これ以外、細かい擦り傷などはきりがない。

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スカーレット・ヨハンソン
 スカーレット・ヨハンソン(写真)は、マーベル映画の中でブラック・ウィドウとして演じたスタントを誇りに思っている。しかし、自分の限界も知っている。「私の役ナターシャが空中6メートルで跳ねたり、4回の側転をしなくてはならない時、私のスタント・ダブルであるヘイディ・マネーメーカーがやるわ。だけど空中18メートルでぶら下がり、パンチを受けたり浴びせたりする女性・・・・・・それは私よ」ということだ。

 また、「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン(2015年)」の撮影ではヨハンソンが妊娠中だったので、ジョス・ウェドン監督はスタント女優3人を雇った。本人も入れると4人のヨハンソンが撮影現場をうろついているようなものなので、キャプテン・アメリカ役のクリス・エヴァンスなどは、「紛らわしくてしかたがない。彼女のそばを通る時、『やあ、スカーレット』と言ってから、『あっ、違った。君はスカーレットじゃなかった。ごめんね』みたいな感じなんだ。スカーレットの偽物がいっぱいいるんだよ」と語っている。

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ヴィゴ・モーテンセン
 「ロード・オブ・ザ・リング3部作」は、前例のない5年間をかけて撮影された。その間、アラゴルン役を演じるヴィゴ・モーテンセン(写真)のスタント・ワークが、彼に多くの犠牲を強いている。目の周りにクマを作ったり、オークと戦っている途中で歯が欠けたり、つま先さえ折っているのだ。

 余談ではあるが、モーテンセンは同作で乗った馬を、その後、買い取っている。そんな彼が俳優として成功する転機となったのは、いうまでもなくこの3部作だが、それ以降の活躍は目覚ましいものがあり、今年は主演作「グリーンブック(2018年)」がオスカーの作品賞を取った(主演男優賞はノミネートされたものの逃している)。

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ジェニファー・ローレンス
 「ハンガー・ゲーム・シリーズ」で主人公カットニス・エヴァディーンを演じるため、ジェニファー・ローレンス(写真)はただ弓矢の使い方を学ぶだけでなく、それ以上のことをしなければならなかった。彼女のスタントの中でも大変だったのが、木から飛び出し、そして6メートルの火の壁に囲まれた森の中を走るというものだ。

 ローレンスは(何度も世話になった結果)医者を寂しがらせ、水中のスタントの後しばらく耳が聴こえなくなった自らを「天才」だと冗談を言っている。シリーズ2作目の撮影中、6日間左耳へ聴覚障害者を残す怪我を笑い飛ばしながら、そういった出来事に驚き続けていた。

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クロエ・グレース・モレッツ
 「キック・アス・シリーズ」の主演クロエ・グレース・モレッツ(写真)は、この映画で「ヒット・ガール」ことミンディ・マクレイディを演じるため、12歳の時にジャッキー・チェンのスタント・チームと3ケ月間トレーニングを行っている。

 その甲斐あって1作目がヒットし、2作目「キック・アス/ジャスティス・フォーエヴァー(2013)」は製作されるも、興行成績が振るわなかった。2作目の失敗から、モレッツ自身は「キック・アス3」が製作されても出る気はない。それと、22歳の誕生日を迎えたばかりのモレッツへ、もはやヒットガールは似合わないだろう。

 その他、ジョニー・デップは「ローン・レンジャー(2013年)」の撮影中、彼を乗せた馬が障害物をよけるためジャンプし、着地の衝撃で鞍がずれてデップはバランスを崩す。とっさに馬のたてがみをつかみ、そこで振り落とされなかったが、そのまま25メートルほど引きずられて手を放し、落馬したそうだ。また、トム・クルーズもスタントマンを使わないため何度も死にかけている。「ミッション:インポッシブル2(2000年)」では高さ30メートル以上の断崖絶壁でのロッククライミング・シーンを自分でやりたいと提案し、1ケ月の訓練の後、撮影へ挑む。「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション(2015年)」でのバイク・スタントや「ミッション:インポッシブル/フォールアウト(2018年)」でのヘリコプタの操縦しかりだ。なぜ、そこまでやるかといえば?

 「No business like show business!」・・・・・・そう、ショーほど過酷な商売はないってわけだ!

横 井 康 和      


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