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(2019年7月)          


The Reckoning
ザ・レコニング

by John Grisham


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 ジョン・グリシャムの新作「ザ・レコニング(計算)」は、戦後間もない1946年10月の寒い朝で幕を開けます。まだ薄暗い寝室のベッドに横たわり、天井を見つめるピート・バニング、彼が決断するのは「殺す」しかない・・・・・・ここから展開する物語は、はっきりいって駄作です。

 私自身、1989年にグリシャムのデビュー作「評決のとき」が出て以来、彼のファンでほとんどの著書を読んでいます。デビュー当時の勢いと比べ、最近は面白味が今一でした。それでも読み始めると、けっこう入り込むところは、さすがグリシャムです。ところが、本著はエンディングが良くありません。たとえて言うなら、出版社との契約で決まった締切日へ無理やり間に合わせたエンディングという印象を受けました。

 また、一部の描写は物語とあまり関係がなく、中盤でかなりの頁を割いている母親の精神状態や息子のロースクールの描写などは、かえって邪魔です。つい、出版社が頁数や文字数で原稿料を払っているのではないかと勘繰ってしまいます。その代わり、寝る前に読む本としては最適でしょう。

 本著の少なくとも3分の1を占めるマッカーサー元帥およびの日本軍のフィリピ侵攻の歴史的な解説もまた、物語の展開へ必要と思われません。第2次世界大戦の歴史が知りたければ、読者はそっち方面の専門書を読んだほうが早いし、グリシャム・ファンは本著のような退屈なフィクションでなく、昔ながらの手に汗握るスリラーを望んでいるはずです。本著が長年のファンのグリシャム離れへとつながらないよう祈ります。

 最後に出版社の宣伝文句をご紹介しておくと、「この愛と戦争の悲劇の中で、ジョン・グリシャムは私たちへ南部の家族、地球規模の紛争、そして人間を形作る秘密についての壮大で魅惑的な物語を創作してくれました。ミシシッピ州の田園地帯の刑務所や刑務所から戦争で荒廃した太平洋地域まで、グリシャムの物語が広がってゆきます」・・・・・・ものは言いようですね。


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(2019年7月)

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