ゴマスリ効果?
5月1日の「最新情報」で紹介した“戦火の勇気”は、その後、メグ・ライアンとデンゼル・ワシントンの迫真の演技が好評です。共演のルー・ダイアモンド・フィリップスも、真実以外のことを言ったと疑われる硬派GIをなかなかの熱演ぶりで、その大役を彼が射止めた時のエピソード・・・・・・エド・ズウィック監督("ビクトリー")のオーディションで、自分自身、最高の演技が見せられたと確信したルーは、念のため一通のファンレターを監督宛に出しました。1987年の大ヒット“ラ・バンバ”と“落ちこぼれの天使”以来、作品に恵まれず低迷していた彼も、努力のかいあって鋼のような性格の兵士モンフリーズ役に抜擢され、数ヶ月間の過酷なトレーニングの末、鋼鉄の肉体を兼ね備えた複雑な役柄を見事に演じています。抜擢が決まった際、ズウィック監督から入った電話のメッセージで、「この役は君のものだ、一緒に仕事するのを楽しみにしているよ。あ〜、ところで君が役を射止められたのは、例のゴマスリ手紙のお陰だからね!」と、ユーモアたっぷりの皮肉を言われたそうです。ヒット映画の反響で勢いに乗るルーは、4月から1年間のロングランでブロードウェイ・ミュージカル“王様と私”に主演中。どちらかといえばラテン系の役が多い彼ながら、実際はフィリピン人、スコットランド系アイルランド人、チェロキー族インディアンの混血俳優なのです。
ボイトのカムバック
“ミッション・インポッシブル”で、円熟したベテラン・エージェント役を演じた往年のアカデミー賞男優ジョン・ボイト("帰郷"、"真夜中のカウボーイ")は、ロケ地のアマゾン熱帯雨林で、コロンビア・スタジオ製作の野心的なスリラー“アナコンダ”の撮影に明け暮れています。共演(?)の数匹の蛇は2.5メートルを越す大物(?)ですが、「彼らとは波長が合ったな、しばらく共演女優にも恵まれていなかったから!」と、役に成りきってしまうことで有名なジョンの、自ら長いスランプを皮肉ったコメントでした。もう一人の共演者でラップ・スターのアイス・キューブ("ボーイズ'ン・ザ・フッド")とも意気投合し、映画の来年公開が待ちきれない様子です。ジョンは“ボーイズ・・・・・・・”の黒人監督ジョン・シングルトンの次回作で、1923年に黒人が白人女性をレイプした容疑から、繁栄するフロリダの黒人地域が壊滅されたという実話に基づく映画“ローズウッド”に出演予定。

ハスラー全盛時代
現在公開中のコメディー“キングピン”でボーリング・ハスラー(ボーリングの賞金稼ぎ)扮するビル・マレー("恋はデ・ジャブー")は、なかなかの熱演ぶりです。また、今回の「お先に失礼!」でも取り上げた、大物ケビン・コスナーがゴルフ・ハスラーのレッスン・プロを演じる“ティンカップ”など、どうも今年の映画界はハスラー・ブームの傾向があります。マリア・コンチータ・アロンゾ("バトルランナー")主演の“ヤンキー・ダラー“が、ラテン系のストリート・ハスラー(大道芸人や露天商を装うペテン師)の子供と逃亡中のアメリカ人ギャングを中心に展開するスリラーなら、“チェンジング・ハビッツ“もその題名どおり、盗癖のある女性が窃盗を働いたギャラリーの持ち主に恋をして変身するというコメディー。ほかにも、ニューヨークの街路で海賊版CDを売る若い闇商売のハスラーたちを描いた“リズム・シーフ(泥棒)”や、1961年に製作されたポール・ニューマン主演の名作“ハスラー"(トム・クルーズ主演の“ハスラー2”はその続編)を、女性の主人公でリメイクする企画が進んでいます。そもそもの意味合いは、日本語で俗に言う「ハッスルする」と、かなり違うイメージですが・・・・・・?
陰謀ブーム
この夏、大ヒットした“ミッション・インポッシブル”や“イレイザー”の悪役たちは陰謀の陰で暗躍する黒幕的な存在だったように、これから公開される映画でもヒーローが陰謀と闘うパターンの作品は目白押しです。現在公開中のアンドリュー・デービス("逃亡者")監督、キアヌ・リーブス主演の“チェイン・リアクション(連鎖反応)”は、同胞を殺害した罪に陥れられたキアヌ扮する科学者が、政府高官の陰謀とハデに対決する超大型アクション。そして10月公開予定の“ターゲット”は、暗殺を企てる内部の陰謀から大統領を救う補佐官をチャーリー・シーンが演じるスリラーで、来年春公開予定のクリント・イーストウッド監督主演作“目撃”は、ケネディー大統領とマリリン・モンローの関係を彷彿とさせる、大統領の愛人が無惨に殺害される現場を目撃してしまったクリント演じる泥棒の物語。また、ウェスリー・スナイプス("マネー・トレイン")主演の、大統領一家が容疑者となるホワイトハウス内での殺人事件捜査がテーマの“エグゼクティブ・プレビレッジ(行政特権)”と、陰謀中毒になりそうなほどの盛況です。
ジャッキー・チェン人気急上昇!
2月の大ヒット“ランブル・イン・ザ・ブロンクス”と7月末に公開された“スーパーコップ”でハリウッド・スターの仲間入りを果たしたジャッキー・チャンは、ユニバーサル製作の“コンフューシャス・ブラウン”でウェスリー・スナイプスと共演予定。また、ジェームス・キャメロン("ターミネーター")、クエンティン・タランティーノ("パルプ・フィクション")、シルベスター・スタローンといったハリウッド・パワーとの接触など、精力的に動いています。前出の2作とも、以前全米公開されたものですが、ヒップな新サウンド・トラックや斬新な宣伝キャンペーンが功を奏してヒットしました。持ち込まれる脚本の山に嬉しい悲鳴をあげているチェンながら、十数年前バート・レイノルズ主演の映画“キャノンボール・ラン”でコミカルな脇役を演じて失敗しているだけ、今回は自分のスタイルを生かした企画を厳選してゆく方針のようです。現在、オーストラリアで次回作“ナイス・ガイ”を例のごとくスタントマンなしで撮影中のジャッキーは、ビルの5階から飛び降りるシーンで首を捻挫し、「綺麗な女の子を振り返るのも苦痛」とジョークをとばしています。スタントマン無用の派手なアクションと、映画最後のクレジットで危険なスタントの裏側を見せてくれる斬新なスタイルが、全米で爆発的なヒット。せっかく巡ってきたチャンス、ブルース・リーとはひと味違う、リズミカルなカンフーの切れ味と、あのチャーミングな笑い顔で、ハリウッド最高のアクション・スターになって欲しいですね!
(1996年9月1日)
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