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(1998年2月16日)          




裸の真実

2億ドルを超す製作費やジェームズ・キャメロン監督の飽くなき創作欲など何かと話題の多い“タイタニック”が公開されて以来、全米だけで興行収益は既に3億ドル突破という驚異的な快進撃を続けています。ボックスオフィス・キングとしてだけでなく、オスカー前哨戦といわれるゴールデン・グローブ賞作品および監督賞を受賞、DGA(映画監督組合協会)監督賞でもノミネートされ、“L・Aコンフィデンシャル”と共にアカデミー・レースの本命と目されています。しかしながら、外国人記者が投票したゴールデン・グローブ授賞式では、「やはり、サイズが決め手という結論に達しましたね」と皮肉っぽい発言をして顰蹙(ひんしゅく)をかい、映画予算の超大型化を懸念するアカデミー・メンバーからの投票数に影響するのではという意見も飛び交っている現状です。




ともあれ、感動的な名場面が数ある“タイタニック”の中でも一際印象深いシーンといえば、ディキャプリオ扮する画家志望の若者が豪華客室内でウィンズレット演じる女性の全裸スケッチを描く場面でしょう。このスケッチ画(写真左)を軸に展開するストーリーが80年の歳月を超えたロマンを観客へ与えるばかりでなく、当時の華麗なハイ・ソサエティーの陰に潜む性的欲望という観点からも、あのプラトニックなシーンのインパクトは大きな意味合いがあります。アート・ディレクター出身のキャメロン監督自身がスケッチ画を描いたことは意外と知られていませんが、服を着たウィンズレットの写真を見て、あの裸像を描いたキャメロン監督の「想像力?」も、なかなかなものですね! ヌード・スケッチのトレンドといえば、これ以外、コメディー部門でゴールデン・グローブ作品、主演男優、女優賞を受賞し、オスカーのダークホースといわれている“アズ・グッド・アズ・イット・ゲッツ”が思い浮かびます。孤独なウェイトレス役のヘレン・ハント("ツイスター")の入浴現場を見たゲイの画家は、強盗事件の犠牲者となって無くしていた創造性と自己意識を取り戻し、その重要なシーンで登場するスケッチによってウェイトレスが自分の美しさを再認識するのです。“エージェント”のプロデューサーとして知られるジェームス・ブルックス監督("愛と追憶の日々")と画家のビリー・サリバンは、天才画家デガの裸体スケッチを見て研究したとか! 他にも1月末に公開された往年の名作の現代版リメイク“大いなる遺産"(写真右)でも、イーサン・ホーク("ガタカ")演じる画家志望の青年が恋人役グウィネス・パルトロー("エマ")をヌード・デッサンする場面で、現代絵画の巨匠フランセスコ・クレメントを起用してます。映画鑑賞の際は、登場人物の意図を表わす小道具としてばかりでなく、1枚のヌード・ポートレートが無言で語りかける奥深い物語へ、ぜひ耳を澄ましてみて下さい。





新企画情報

“ラッシュアワー”

以前このコラムでも紹介したジャッキー・チェン主演のアクション作“コンフーシャス・ブラウン"(ウェスリー・スナイプス共演)が中止になった時はガッカリしましたが、このジャッキー初の主演ハリウッド映画は“フィフス・エレメント”の派手なゲイDJ役がウケたクリス・タッカーや“フル・モンティー”の渋い演技が光ったベテラン俳優トム・ウィルキンソン共演で目下撮影中、こうご期待!

“ワイルド・ワイルド・ウェスト”

“MIB(メン・イン・ブラック)”の名コンビ、ウィル・スミス主演、バリー・ソネンフィールド監督で、次期ブロックバスター確実のウェスタン“ワイルド・ワイルド・ウェスト"は、いよいよ4月からクランクインします。最近、キャスティング・コール(映画業界の求人広告)が流れて話題の女性タイプは、ラテン系美女の科学者、背の高いドイツ系美人、従順な黒人カクテル・ウェイトレス、そして年増ながら明るい性格のバーのマダム“ファット・キャン・キャンディー”と多彩な役柄ですが、ロバート・コンラッド("サムライ・カウボーイ")主演で人気を博したTVシリーズの映画化であるこの画期的な西部劇、アクションや笑いのほかに、お色気も一杯なようです。

“カウボーイ・アンド・エイリアン”

ジム・キャリー主演“エース・ベンチューラ”やエディー・マーフィー主演“ナッティ・プロフェッサー”の脚本監督をはじめ、今年公開されるロビン・ウィリアムス主演“パッチ・アダムス”を担当したスティーブ・オイデカークの最新企画。西部開拓時代に不時着したUFOと、その最新機器を奪い合うカウボーイとインディアンがテーマのSFコメディーは、来月(3月)クランクインします。

“フランダースの犬”

過去数回映画化された名作の現代版。オスカー候補作“アズ・グッド・アズ・イット・ゲッツ”ではヘレン・ハントの、そして“ジンジャーブレッド・マン”ではケネス・ブラナの息子役を演じ、いま最も売れている子役ジェシー・ジェームズが、リチャード・ハリス("許されざる者")やジョン・ボイト("Uターン")等のベテラン俳優と共演する、迷い犬と人間の絆を描いた感動作です。現在ヨーロッパ各地で撮影中。




グッド・ロール・ハンティング

“レインメーカー”主演だけでなく、自作の脚本“グッド・ウィル・ハンティング”がゴールデン・グローブを受賞したマット・デイモン、現在乗りに乗っています。また、彼の親友で“グッド・ウィル・・・・・”の共作者ベン・アフレック("ファントムス")や、ディズニー製作のヒット・コメディー“ジョージ・オブ・ザ・ジャングル”の主演ブレンダン・フレーザー、そしてバットマンの相棒ロビン役をはじめ“ラブ・アンド・ウォー”などで好演したクリス・オダネルといった今人気の若手俳優たちが一同に介す映画といえば、実現不可能な企画のようでありながら、じつはそれが過去にありました。1992年に製作されたパラマウント映画“青春の輝き(写真)”がそれで、'50年代ニューイングランド地方の私立高校が舞台となり、ユダヤ人生徒弾圧がらみで生徒たちの青春の葛藤を描いた感動作。当時15歳から22歳の俳優の卵たちは誰もが嘱望した役(ロール)といわれるほどの名作で、後に意欲作“野獣教師(1996年)”を監督するリチャード・マンデルの指揮のもと、当時無名だった彼等は「文化祭」のような雰囲気の中で和気藹々と撮影したそうです。迫害されるユダヤ人生徒を演じたフレーザーは、この直後“原始のマン”に主演してスター街道を歩み始めましたが、オダネルやアフレックと共に高慢なエリート生徒を演じたマット・デイモンは、この役を射止めるまで、なんと10回以上も監督の前で脚本を読まされた苦い思い出があるとのことです。余談ながら、当時共演中のフレーザー、デイモン、オダネルのもとへ同時に宅急便で届けられた脚本が1冊あります。彼らは秘密裏にニューヨークで行われていたオーディションへ挑み、結局クリス・オダネルがアル・パチーノの相手役という大役を射止めた、その作品は、パチーノがオスカーを受賞し、無名のオダネルをスターにした傑作“セント・オブ・ウーマン/夢の香り”なのです。デイモンとフレーザーは歯ぎしりして悔しがったそうですが、以来それぞれ違ったルートでスターの座へ着いた彼等、これからの活躍はまさに注目ものですね。改めて“青春の輝き”を見て感じるのは、この映画へ、かつてハリソン・フォード、リチャード・ドレイファス("陽のあたる教室")、そして今や一線クラスの監督であるロン・ハワードを売り出したジョージ・ルーカス監督の青春映画“アメリカン・グラフィティ(1973年)”と同様の、不思議な「運命的」エネルギーが秘められていました。ぜひビデオのレンタルをお勧めします。





シャル・ウィ・サルザダンス?

“愛は静けさの中に"、"ドクター”などの繊細なドラマで知られるランダ・ヘインズ監督が、これまでの作風とはひと味違うダンス映画を撮り上げ、編集の追い込みに入っています。バネッサ・ウィリアムス("ソウル・フード")とラテン・ポップ界のアイドル歌手シャイアンが主役となって、いま世界中を席捲しているセクシーなダンス“サルザ”の裏舞台を描く“シャラップ・アンド・ダンス”がその作品です。体を寄せ合って激しく踊る若者の熱気でムンムンするサルザダンス・クラブに週数回通い、自らその魅力の虜となったランダは、最近演技派として開眼した元ミス・ユニバースのバネッサ、そして世界中のスペイン語圏で絶大な人気を誇るヤング・センセーション、シャイアンの魅力を生かした“サルザ版ダーティー・ダンシング”風なロマンチック・ドラマに仕上げたいとか。過去の作品では、観賞後胸に残る「静かな」メッセージを提供してくれたロンダが、今度は「動き」がテーマの作品を通してどんなインパクトを与えてくれるのか非常に期待できます。そんな彼女は現在、“幽霊と未亡人”というロマンス作品へ熱を入れており、レックス・ハリソン("マイフェア・レディー")が往年の名女優ジーン・ティアニー演じる孤独な未亡人を恋する幽霊に扮してヒットした1947年製作映画のこのリメイク版では、早くもショーン・コネリーが主役に決定しているそうです。1995年からこの企画へ取り組み続けているランダ以前は、ジョナサン・リン監督("いとこのビニー")やシドニー・ポラック監督("ファーム/法律事務所"、"サブリナ")が試みて失敗した難企画だけ、彼女は早くも3人目の脚本家を雇って現代風アレンジに余念がありません。何かと「死後の世界」が話題の今日この頃、ショーンのダンディーな熟年幽霊役は興味津々(しんしん)といえます。





ティーンは神様!?

東京へ行くたび目につくのが「小ギャル軍団」とダボダボ・ルックの少年たち、そのティーン・パワーは流行のトレンド・セッターであり、自分自身が十代の頃、長髪、煙草と粋がっていたことを思えば、彼らの熱いエネルギーから何かを得ようという心がけは忘れたくないものです。もちろんアメリカの状況も変わらず、いまや中高校生を中心としたティーンがエンターテイメントの世界から経済界まで影響を及ぼす時代へと変わりつつあります。他の世代の2倍以上の加速度で増え続ける「ジェネレーション・ネクスト」層は現在3、000万人、ベビーブーマー世代の子供たちで占められるティーン・エージャーが、2010年までには3、200万人を越すと推測されています。彼等は既に年間1千億ドルという途方もない金額を洋服、CD、映画などで消費する世代、当然ながら彼等が支持するアーティストや映画はヒットするわけですから、エンターテイメントの世界もティーンのトレンド志向に合いそうな製品をプロデュースする傾向があるのは当然の成り行きです。人気週刊誌「ピープル」でさえ、今年からティーン・ピープルなる別冊誌を創刊するほどの気の入れようで、一昔前のティーン・パワーがエルビス、ビートルズ、ローリング・ストーンズなどをスターダムへ乗せたごとく、いま人気絶頂のフィオナ・アップル、ノー・ダウト、パフ・ダディー、デイズ・オブ・ザ・ニューといったバンドも、ティーンの絶大なる支援なしでは売れたはずがありません。同じく映画界では、'60年代のティーンがデート・コースの定番だったドライブイン劇場で“ゴジラ”などの怪獣映画を手に汗握って見入ったごとく、今では大ヒットした“スクリーム”や公開週末だけで3、300万ドルという驚異的収益をあげた続編“スクリーム2”に代表される現代風ホラーの虜となっています。「怖がった直後に笑える」、そして「今までのホラー映画をパロディった」という点がティーンにバカ受けした“スクリーム1&2”の脚本を書いたケビン・ウィリアムソンなどは、ティーン市場の神様的存在として独自のティーン向けTVシリーズ“ドウソンズ・クリーク”を製作するばかりか、これもティーンが犠牲者のホラー“ラストサマー”もヒットさせています。“ブレックファースト・クラブ”他で'80年代のティーンを魅了した、デミー・ムーア、エミリオ・エステベス、トム・クルーズ、ロブ・ロウなどの「ブラット・パック(悪たれ群団)」俳優たちが実際のティーン世代より年上だった反面、現在のティーン映画主演者たちは本物のティーン・エージャーであるという事実も、“スクリーム”などの爆発的人気へ関係しているようです。1982年に公開された“初体験/リッジモント・ハイ”は、当時ローリングストーン誌の記者だった“エージェント”の脚本監督キャメロン・クロウの原作に基づくティーン・バイブル的な映画でしたが、ショーン・ペン扮するマリファナで一日中とんでいるサーファーの主人公が履いていたVANSブランドのスニーカーがティーンの間で大流行したことや、また数多く台頭するティーン俳優の確かな演技力などを考えると、ティーン市場を睨(にら)んだ商業ベースの映画は、これからも益々増えてゆきそうな気配ですね!




(1998年2月16日)

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