アニメ・ブーム!
V-シネマとしてお馴染みの「ディレクト・トゥー・ビデオ(劇場公開をしないビデオ販売専用)」映画で、任侠ものや暴走族ものが人気を博す日本のビデオ業界です。いっぽう、アメリカではディズニーを筆頭とする人気アニメの続編がV-シネマ市場の花形として台頭しています。'90年代半ばから大ヒット作“アラジン"、"ミクロキッズ"、"美女と野獣”の続編を立て続けにビデオ販売し、成功を納めたディズニーへ続けとばかり、20世紀フォックスは“キャスパー"、ユニバーサルは“リトルフットの大冒険/謎の恐竜大陸”の続編を次々に販売、業績を伸ばしてきました。今や活気溢れる映画市場の感があるV-アニメ戦線です。理由はいろいろありますが、まず劇場公開されるアニメ映画のような莫大な宣伝広告費を必要とせず、オリジナルのネームバリュー、そしてディズニーの場合などは親の信用度の高さだけで販売網が確立されています。経費はマスター・テープの複写(デュープ)が1本当たり約4ドル、業者へ約12ドルで卸され、消費者は約20ドルの販売価格を支払うシステムが、少ないコストで多大な利益を生む“美味しい事業”をスタジオにもたらすわけです。“ライオン・キング”の3,000万ドル、“白雪姫”の2,550万ドル、“アラジン”の2,400万ドル、“美女と野獣”の2,200万ドル、“トイ・ストーリー”の2,000万ドルという爆発的な売上は大きな原動力となり、6年前35億ドルのビデオ販売市場が今や100億ドルという巨大市場へ急成長しました。飛ぶように売れる続編アニメは当然、小売業者も店内の目につきやすい場所へディスプレイし、その好循環がますます売れ行きを伸ばし、ディズニーの昨年度ビデオ販売収益26億ドルたるやハリウッド全体の31.2パーセントに相当するという好調ぶりです。このようなトレンドへ、横綱格ディズニーは遂に“ライオン・キング”の続編“ライオン・キングU/シンバのプライド”を10月下旬からビデオ販売すると決定。先月、ステージ・バージョンがブロードウェイ版オスカー、トニー賞を6部門で受賞し、1年先まで予約完売と凄まじい人気も手伝い、ビデオの爆発的売れ行きは間違いないでしょう。シンバの娘キアラと悪役スカーの息子コヴが中心となって展開する物語は1年半前から製作が始まり、オリジナルに勝るとも劣らない内容だそうです。家庭の主婦は子供たちがビデオへ釘付けとなった2時間の間に家事をこなそうという思惑もあり、その他“ポカホンタスU/ジャーニー・トゥー・ザ・ニュー・ワールド"(8月25日発売)、“ノートルダムの鐘"(1999年秋)、2000年には“グーフィー・ムービー"、"ワンワン物語/続編”などが計画され、止まるところを知らない勢いのV-アニメ・ブーム!!
感覚の相違?
“クリエイティブ・ディファレンス"、「感覚の相違」といえば、ハリウッドで最もよく使われる言葉の一つです。袂を分かち合うプロデューサーと監督、またスタジオと監督が、これを理由に決別した前例は数知れません。僕自身、雇った監督と殴り合い寸前の口論をしながら創作面の意見調整をした経験もあります。いろいろなタイプの監督を見てきた中で、ディレクター・タイプのほとんどは予算やスケジュールより自分のビジョンへ拘り、反面、それだけの自己主張がなければ芯の通った作品は撮れないでしょう。これこそ、ハリウッドで「どちらもいい作品を作ろうとするプロデューサーとディレクターの違いは、前者が製作費を押さえようとして、後者は増やそうとすること」と言われる所以(ゆえん)です。また、そこを上手く調整するのがプロデューサーの器量・・・・・・というわけで、今回は創作意識やワンマンな行動が原因となった監督交代劇で回り道を余儀なくされている20世紀フォックスの企画を2つ拾ってみました。
“ラベナス”
“フル・モンティー”のロバート・カーライルと“L・Aコンフィデンシャル”のガイ・ピアースの共演で注目されているホラー・スリラーですが、“ビフォー・ザ・レイン”で1994年オスカー外国映画賞にノミネートされたチェコ人監督ミルチョ・マンチェフスキーを抜擢した時点から下り坂へ。L・A(ロサンゼルス)を訪れた際、いきなりロールスロイスのオープンカーをレントしろと要求してスタジオの度肝を抜いたミルチョは、拒否したスタジオ側の手配する普通のレンタカーで再三交通事故を引き起こした挙げ句、数十枚の駐車違反切符をスタジオ回しに去り行きました。ロケ地のプラハでも、昼食時のみ会話を交わすという妙なルールを強いてクルーの反感をかい、プロデューサーとの脚本会議や予算打ち合わせまで拒否する偏屈ぶりです。その上、撮影が始まる1週間前にスタジオへ提出した新たなストーリー・ボード(絵コンテ)は、2週間の撮影延長を余儀なくさせるものでした。いざ撮影が始まれば、カメラを回している最中、脚本の書き直しを繰り返すなど、とうとうフォックス側は堪忍袋の緒が切れ、彼を解雇します。マンチェフスキーの撮った場面に不満なフォックス側は撮影を2週間中断し、その間、以前カーライルと組んで“プリースト”を撮った経験のあるアントニア・バード監督を代役に起用して撮影を再開したわけですが、20世紀も終わろうとする現在、いるんですね、時代の遺物みたいな監督が・・・・・・
“エントラップメント”
香港スター、チョウ・ユンファのハリウッド・デビュー作“リプレイスメント・キラーズ”を手がけたCM畑出身のアントワン・フクワ監督を中心として、既に10ケ月間企画されたショーン・コネリー主演のスリラーながら、スタジオと脚本で対立したフクワ監督が降りてしまいました。そもそもはコネリー自身のプロデューサー、ロンダ・トレフソンとスタジオ重役が、“リプレイスメント・・・”を20分見ただけで惚れ込み、是非ということでフクア監督は参加し、当初からロン・バス("ベストトフレンズ・ウェディング"、"デンジャラス・マインド/卒業の日まで")の脚本を007風大型スパイ・スリラーとして撮りたい意向があります。そして10ケ月後、黒人監督作品としては史上最高の製作予算1,200万ドルまで膨れ上がったストーリー・ラインへ「待った」をかけるのは、なんとコネリー当人なのです。あまりにもボンド・タッチが強い内容へ難色を示す彼に、スタジオ側は“アポロ13”の脚本家ウィリアム・ブロイルズを雇って書き直します。結果、カーチェイスや他の大がかりなアクション・シーンは全て姿を消し、ラブ・ストーリーっぽいソフトなスリラーへ衣替えしました。ばかりか、4千万ドルという大幅な予算カットを強いられ、コネリー始めプロデューサー、監督、キャストなどに割り当てられた3,500万ドルを考えると、残る予算枠がわずか4,500万ドルしかありません。これでフクワ監督は完全に創作意欲をなくしたわけです。当初と比べ、すっかり内容が変わったこの作品、現在は後がまのジョン・アミエル監督("コピーキャット")がサミュエル・L・ジャクソン("ジャッキー・ブラウン")共演で製作を再開しています。劇場で見る限り想像もつかない、こうした水面下の“クリエイティブ・ディファレンス攻防戦”を経て、ようやくハリウッド映画は生まれるのです。
クールな悪役!?
往年の名スター、カーク・ダグラス("スパルタカス")の息子というだけでなく、“ロマンシング・ストーン/秘宝の谷”やその続編“ナイルの宝石”でのマッチョなヒーロー役から、オスカー受賞作“ウォール街”や最近の“ゲーム”に代表される冷酷な大富豪役まで、ハリウッドのAリスト・スターの中でも幅広いキャラクターをこなすスーパースターとしては珍しい存在なのがマイケル・ダグラスです。ハリソン・フォード、メル・ギブソンといった他の同世代Aスターは、糊のきいたシーツのごとき“真っ白い”イメージの“正義の味方”タイプしか演じないのと比べ、彼の場合インクのごとき“真っ黒い”悪役とまで行かずとも、“灰色がかった”神秘的な悪人を独特の役作りで演じ、自分だけの世界を築いてきました。上映中のヒッチコック映画を焼き直した“パーフェクト・マーダー”でも、妻の浮気を知り、その浮気相手へ彼女の殺害を依頼する大富豪役をクールに演じてサスペンスを盛り上げています。自分の利益のためなら誰でも犠牲にすることを辞さない“ウォール街"(1987年)の株屋ゴードン・ゲッコー役を皮切りに、“フォーリング・ダウン"(1993年)では現代社会への不満が爆発して機関銃でロサンゼルスを席巻する中産階級の男、“ゲーム”では事業を成功させながらも心寂しい孤独な大富豪と、役柄こそ違え、なぜか観客が惹きつけられる不思議な“ワルの魅力”を醸し出せるスターといえるでしょう。男女を問わず多くのスーパースターは観客の受けを意識して毛嫌いする悪役(ヒール)ですが、マイケルの場合、むしろそのような役柄へ意識的にチャレンジしているような感じです。僕の企画する“イージーライダー2”で一緒に仕事をしているプロデューサーはマイケルの親友という関係上、サンタバーバラの豪邸へ何度か遊びに行きましたが、彼自身「観客は自分が絶対できないほどの冷酷さと傲慢さを持ったキャラクターへどこか憧れるものであり、たとえ悪役であろうと、ついつい惹かれてしまう」と語っていました。父カーク譲りの有名な顎で印象的なマイケルは今年53歳、'70年代始めに人気TVシリーズ“ストリート・オブ・サンフランシスコ”の青年刑事役でデビューした彼が、スターとして売れるより早くプロデューサーの地位を確立したのは1975年度の“カッコーの巣の上で"(1975年)、これが翌1976年に作品賞ほか5部門でオスカーを受賞しました。俳優としては1975年の“コーマ"(監督が後に“ジュラシック・パーク"、"スフィアー"、"ライジング・サン"、"ディスクロージャー”などの超ベストセラーを書いたマイケル・クライトン)や1979年の“ランニング”他で大役を演じながら花咲かず、プロデュースを兼ねた秀作“チャイナ・シンドローム"(1979年)でようやく注目されるものの、依然として主演俳優としてスタジオの信頼は得られない状態が続きます。そして“スターマン/愛・宇宙はるかに"(1984年)”で希望する主演を果たせず、プロデューサーとして起用したジェフ・ブリッジズはオスカー候補へノミネートされるという皮肉さ。彼がバンカブルな(客を呼べる)主演俳優の座を確固たるものにするのは、1984年の“ロマンシング・・・”と翌年の続編“ナイル・・・”でした。以来、“嵐の中で輝いて"(1992年)や“アメリカン・プレジデント"(1995年)、また“ゴースト&ダークネス"(1996年)”などで代表される正当派の役柄、そして“危険な情事"(1987年)や“氷の微笑"(1992年)、“ディスクロージャー"(1994年)などで観客の同情や憧れ(?)の的となる犠牲者っぽい役柄を上手く演じ分けられる渋いスーパースターへと成長したのです。戦争、アメリカ大統領、アフリカの冒険、一夜の情事、猟奇殺人、セクハラといった様々なテーマを堂々と演じる一風変わったAスター、マイケル。その売れっ子ぶりは、今や「男性運動のインデイー・ジョンーズ」とさえ呼ばれています。クールな悪役(ヒール)ぶりが光る最新作“パーフェクト・・・”はサスペンス度がいまいちで残念ながら、8月からマルタ島でクランクインする次作“U-571”は、第二次大戦中ナチスが誇る暗号解読器“エニグマ”を探し求める男の冒険談で、監督のジョナサン・モストウは“ブレーキ・ダウン”で観客を怖がらせた実績を誇るだけ、大いに期待できそうです。
小説の映画化
オリジナル案の滅亡が叫ばれて久しいハリウッドでは、いまジョン・グリシャム("法律事務所"、"レインメーカー")の法廷スリラー小説、ジェームズ・パターソン("キス・ザ・ガールズ")の猟奇殺人小説、そして、エルモア・レナード("ゲット・ショーティ"、"ジャッキー・ブラウン")の軽いタッチの犯罪小説やトム・クランシー("レッドオクトーバーを追え!")の複雑な政治陰謀スリラーまで、ベストセラーの映画化(アダプテーション)が大流行りです。中でも映画向きのモチーフを含む犯罪小説はプロデューサーやスタジオからの争奪合戦の的となり、映画化の過程で原型を留めなくなるものや、銀幕へ映し出されるまでに苦難の道を歩む企画も少なくありません。麻薬を密輸中の飛行機が墜落し、そこから莫大な現金を発見する兄弟の軌跡を描いた傑作“シンプル・プラン”は数年前のベストセラー小説で、当時勢いの良かったサボイ・ピクチャーズが名プロデューサー監督マイク・ニコルズ("バードケイジ"、"プライマリー・カラーズ")用の企画として破格の1,100万ドルで映画化権を取得します。原作に惚れ込んだニコルズは、そのうちの25万ドルを自ら投資するほどの気の入れようながら、他の企画が先行してスタートできません。そこで、苦肉の策としてニコルズは若手監督ベン・スティラー("ケーブル・ガイ")を雇うのですが、主演候補のニコラス・ケイジ(オスカー受賞以前)へ支払うギャラ4千万ドルを巡ってスタジオと対立し、降板するのが4年前のことでした。その上、映画事業からサボイの撤退という事態まで起こり、あれほどハリウッドの熱い視線を受けた“シンプル・・・”は暗い影が差し始めるのです。しかし翌1995年、権利を手に入れたパラマウント・スタジオは大物プロデューサー、スコット・ルーディン("イン・アンド・アウト"、"トルーマン・ショウ")の下、ジョン・ブアマン監督("戦場の小さな天使たち")を起用して再出発を図ります。脚本で揉めた結果、サム・ライミ監督("ダークマン")へ変更するなど前途多難の出だしも、主演の兄弟役がビル・パクソン("ツイスター"、"タイタニック")とビリー・ボブ・ソーントン("スリング・ブレイド")に落ち着き、昨年ようやくクランクインまで漕ぎ着けました。完成までの経緯は題名とほど遠く複雑なこの映画、僕をはじめ原作へ魅了されたファンには今秋の公開が待ち遠しい限りです。小説の映画化(アダプテーション)といえば、最近もう1つの話題は女性作家オリビア・ゴールドスミス。1億ドルを超える予想外の収益を上げた“ファースト・ワイフ・クラブ”で世の離婚女性から喝采を浴びたばかりでなく、映画界に“女性観客層”の厚さを再認識させた彼女が、ハリウッドでも珍しい“営業”を行っています。というのは、自分が書こうとする小説のアイデアをスタジオへ提案(ピッチ)し、それを気に入ったスタジオへ映画化権を売ってから自ら原作小説と脚本の両方を執筆する合理的なシステムです。最近では、不良っぽい奴ばかりが女性にもてる風潮へ業を煮やし、同年代の女友達よりワルになり方を教わる生真面目な優等生の物語“バッドボーイ・スクール”を提案(ピッチ)したところ、パラマウントが百万ドルで買いました。あるいは、子供が大学生となり、これから夫婦で人生を謳歌しようと思った矢先、亭主は自分より10歳年下の女性と浮気、復讐を思い立った中年妻が結婚願望の強い若い浮気相手と画策し、美容整形の末、彼女と立場を入れ替わるコメディー“スイッチェルー”も、ニューライン・シネマへ映画化権を売った後、書かれた小説のほうが今月出版されます。映画化を前提に書かれる小説といえば何となく奇妙なようで、伝統的な作家クランシーやレナードは別としても、グリシャムやパターソンの最新作を読むかぎり、彼等がその辺を意識して書いていると思われるのは僕の気のせいだけでもないでしょう。元法廷弁護士のグリシャム、法医学博士のパターソンが自分の体験や扱った事件を基に小説を書き上げるごとく、自ら離婚経験、浮気の犠牲者として苦しみを味わったオリビアでなければ描けない“中年女性の賛歌”は、小説と映画のあり方を根本から変える画期的存在なのです。
007の近況
“トゥモロー・ネバー・ダイ”でまたまた冴えたボンドぶりを魅せてくれたピアース・ブロズナン、今は次作“グレイ・オウル”のカナダ・ロケから戻り、一息ついています。1930年代の開拓時代を描いた“グレイ・・・”は、以前お伝えしたとおり“ガンジー”の監督として、また“ジュラシック・パーク”の老人考古学者役として有名なリチャード・アテンボロ監督が描き出す壮大な歴史ドラマです。自分の死と同時に本当はイギリス人だったことを悟るインディアンの猟師(ハンター)が彼の役柄で、エキステンションと呼ばれる長髪を結っての熱演でした。家族と夏休みを楽しんだ後、9月からは故スティーブ・マックイーン主演作“華麗なる賭”のリメイク版への製作主演が待ち受けており、共演の女優はいろいろな候補が挙がっていた中からレネ・ルッソ("リーサル・ウェポン4")に決定しています。このペースでは、いま11月のクランクインを予定してプリ・プロダクションが進行中の次期007映画も、どうやら来年まで持ち越されそうな気配となってきました。ちなみに、これまで“ボンド2000"、"ファイアー・アンド・アイス"、"ワールド・イズ・ナット・イナフ”と、様々な題名変更を経てきた次回作、悪役候補の筆頭はロバート・カーライル("フル・モンティー")という噂もあり、現在、単純に“ボンド19”という仮題(ワーキング・タイトル)で製作中です。そして、来年の感謝祭休暇が始まる11月19日の公開予定!!
(1998年7月16日)
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