ラスベガス万歳


 私が初めてラスベガスという街の具体的なイメージを抱くようになったのは1964年のエルビス・プレスリー主演作“ラスベガス万歳”を見た時のことだ。それから35年を経て、この街もすっかり様子が変わってしまった。

 新しいところでは今年の3月「マンダレイベイ・ホテル」がオープン、翌月イベント会場の“こけら落とし”の時は3大テナーで日本にも行ったパパラティが素晴らしいショーを披露し、その客席には私もすわっていたのである。そして半月後の5月上旬、私が再びマンダレイベイで滞在中、
ミラージュ
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またまた「ベネチアン・ホテル」の華々しいオープンだ。

 ここ何年か、たとえ世間は不景気であろうとお構いなし、えらい勢いで新しいホテルが建ち続けるラスベガスのエネルギーは信じがたい。それぞれのホテルが趣向を凝らし、客を集めようと必死である。マンダレイベイなら「波の立つプール」、ベネチアンなら「運河をゴンドラに乗って買物」という具合で、ショーを含めたエンターテイメント合戦は今やたけなわといえよう!

 新旧数あるショーが登場しては消えゆく中、超ロングランを続け今もトップの座を守るのが「ミラージュ・ホテル」の“ジーグフリード&ロイ”で、そもそもホテルはこの大がかりなマジック・ショーを中心にデザインされた。“ホワイト・タイガー”と聞けば、ピンとくるかたもおられるのでは?

 “ロイ&ジーグフリード”と並びロングランを続けるもう1つのショーが「トレジャー・アイランド・ホテル」の“ミスティア”だ。こちらはカナダのプロダクション「サーク・デ・ソレイユ」が誇る、いわば音楽をフィーチャーした近代サーカスで、一見の価値はある。なお、サーク・デ・ソレイユといえば、ユーミンこと松任谷由美がツアーで起用し、
トレジャー・アイランド
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日本でも注目を浴びた。

 また、トレジャー・アイランドの場合も、ホテルはショーを中心として設計されているのだが、こちらは新しいだけ規模が大きい。ホテルの正面玄関は定期的に噴火する火山海賊船のショーで盛り上がり、それを目当ての客が押し寄せるというわけだ。

 あと、“ジーグフリード&ロイ”や“ミスティア”と互角に勝負できるスケールのショーは、いまのところ去年の10月オープンした「ベラージオ・ホテル」の“(オー)”ぐらいである。2千億円近い資本を投入したベラージオも、やはりショーを中心として設計されており、“O”の製作プロダクションがサーク・デ・ソレイユといえば、期待せずにいられようか!

 というわけで、先々月、先月と、早くも私は“O”を2回見てしまった。だいたいがエンターテイナーの哀しい性(さが)なのか、いいショーは知り合いへ見せたくなる。初めての友人を誘い、これまで同じショーを何度見たことだろう? “ジーグフリード&ロイ”など彼らが「ミラージュ」へ移る前から少なくとも20回、“ミスティア”でさえ10回以上は見た。先月など、
ベラージオ
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ご丁寧にも3つのショーを梯子したから、たまらない!

 しかし、これら3つのショーは何度見ても飽きさせず、もしラスベガスへ行く機会があるかたには、ぜひお薦めする。また、舞台仕掛けや興行サイクルで劣るが、MGM系列「ニューヨーク・ニューヨーク・ホテル」の“ロード・オブ・ザ・ダンス”は一見の価値があるだろう。タップダンスとフォークダンスを組み合わせたこのショーも、やはりルーツはヨーロッパだ。他のラスベガス・ショーと比べ、ダンサーの若さが目立つ。

 ちなみに、“ジーグフリード&ロイ"、"ミスティア"、"O”の3大ショーをやっているのは、すべて同系列のホテルだ。ショーを中心にしたパターンでミラージュ系列ホテルが、ほぼ独占体制といえる成功を収め“ラスベガスのペースセッター”となりかけた結果、それを危惧する「ヒルトン」や「MGM」など他のメジャー・プレイヤーと水面下では激しい戦いが繰り広げられている。

 最近、「シーザーズ・パレス」が売りに出た時も、最初は「ミラージュ」が買うのではと噂されながら、結局「ヒルトン」が買った。その「ヒルトン」はといえば、本家「ラスベガス・ヒルトン」の他、「シーザーズ・パレス」の真向かいに映画“バグジー”で知られるラスベガスのホテル・カジノ第1号「フラミンゴ・ヒルトン」を持っている他、彼らの新しいホテル「パリス」が9月オープンの予定なのだ。

 その上、株を上場してまで「シーザーズ・パレス」を買ったのは、彼らが将来「フラミンゴ・ヒルトン」と併せ、そこへ一大ホテルを建て直すための布石ではない。もし、ミラージュ系列が買うとヤバイという危機感から、「ヒルトン」と「MGM」はなんとしてでも阻止しようとしたわけだ。最終的に「ヒルトン」が買って、メジャー・パワーの勢力バランスは保たれた結果、サービス競争が続くのは、われわれ客側にはいいことである。

 ともあれ、ここ何年かのラスベガスはどんどん新しくなり、何ケ月かご無沙汰するとビルが増え、その勢いたるや恐ろしい。先々月は数ケ月ぶりで訪れたのだが、それ以前は「マンダリンベイ」や「ベラージオ」がなかったばかりか、「シーザーズ・パレス」や「ラクソー」にもタワーは増設されていなかった。こうした勢いが衰えそうな気配はなく、そこへ拍車をかけるように、最近では「ノースウェスト航空」その他の航空会社がラスベガスへ拠点を置こうとしているようだ。

 考えてみると、ラスベガスはアメリカ西海岸の空路の拠点としての条件が揃っている。世界中でこの街ほど“24時間都市”といえる場所はなかろう。また、砂漠なので土地が余っているから空港の拡張も簡単だ。電気と水は近くのフーバー・ダムが供給してくれるので問題はない。アパートや食べ物が他より安く、雇用者を住ます上でも有利だ・・・・・・もっとも、冷暖房設備(エアコン)はこの街の必需品であり、その電気代やガス代がかなりかさむ。

 今後、どこまで発展してゆくのかわからないが、いつまでたってもラスベガスはラスベガス、地球上のブラックホールのような街であり続けるのだろう。ギャンブルの街、快楽の街、簡単に結婚できる街、アメリカで一番教会が多い街、人間の欲望と金を呑み込むキャパシティーは底なしだ。気を引き締めないとブラックホールに呑み込まれてしまう一方、自分がコントロール出来ればエンターテイメントには事欠かない。なお、ギャンブルで以下の三原則が守れない場合、まず勝てる見込みはないことをお忘れなく。

一つ、負けに入っている時は賭け金を増やさない。
一つ、どれだけ長くても1日2〜3時間以上やらない。
一つ、長く滞在するなら週3〜4日以上やらない。

 私自身、ギャンブル好きだが、最近はやるとしても1日合計30分〜1時間ていどだ。勝ち始めて相手がディーラーを交代したら躊躇なくやめる。もちろん勝負の間は酒を断つ。すると不思議なもので、気合いを入れただけの成果がある。ここ数年来、ふだんやらないボクシングや競馬へ賭けて負けた分や、ラスベガスでは馬鹿にならないチップの分をブラックジャックで取り戻し、わずかばかりのお釣りが返ってくるぐらいの自信はついた(それ以前の投資分と相殺したら、まだまだ負けがこみそうだ)。

 ともあれ、久しぶりで立て続けにラスベガスを訪れ、改めてこの街のパワーが実感できた。住もうと思わないけれど、いつ行ってもここは面白い。あいにくゴルフをやらない私だが、郊外では乗馬スキーが楽しめる他、カリフォルニア州では違法の自動小銃が撃てるのも、ネバダ州ならではの楽しみだ。また、時によっては超現実離れした環境が物を書く上で役立つ。

 みなさんも、ラスベガスへ行く機会があれば、しっかりと気を引き締め、存分に楽しんでいただきたい!

横 井 康 和        


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