映画とコメディー


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「リノ911」
 アメリカと日本のヒット映画を比べて、いつも疑問に思うのは、なぜ日本だとアメリカで成功したコメディーが受けないか? 他のジャンルであれば、それほど落差はないのが、ことコメディーの場合は事情が違う。たとえば3月1日現在、全米トップ10の第4位「リノ911」は、日本で上映される気配すらない。第1位の「ゴーストライダー」がほぼ日米同時上映なのと比べ、えらい差別だ。

 もともとアメリカではTVの人気シリーズであった「リノ911」が受けるのに対し、日本ではそのような下地がない。しかし、考えてみるとコメディー以外のジャンルではアメリカの人気TVシリーズのほとんどが日本で馴染まれている。つまり、真面目な日本人はアメリカン・スタイルのコメディーが本質的に好きではないのかもしれない。

 じっさい、「リノ911」のようなメジャー作で官憲のパロディーがテーマの邦画は皆無だし、ハリウッドお得意のドタバタパロディーの類で邦画の名作といえば、せいぜい「スネークマン・ショウ」ぐらいが思い浮かぶ程度だ・・・・・・かつては邦画でもトニー谷主演作「家庭の事情(1954年)」のようなぶっとんだ作品があるものの、今回そこへ触れるのはやめておく。

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「鉄板英雄伝説」
 いっぽうアメリカの場合、つい1ケ月前のトップ10でも「鉄板英雄伝説」が第1位だった。この映画たるや、パロディーで最近のハリウッドのヒット作はひととおり登場する。まず「チャーリーとチョコレート工場(2005年)」のパターンで4人が選ばれる段階からして、それぞれ「スネーク・フライト(2006年)」などのパロディーなのだ。

 そして、選ばれた4人はチョコレート工場の見学を経て「ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女(2005年)}の世界へと移り、その中でも「パイレッツ・オブ・ザ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト(2006年)」や「スーパーマン・リターンズ(2006年)」などのパロディーが次から次へと登場し、最後は「ボラット:カルチュアル・ラーニングス・オブ・アメリカ・フォー・メイク・ベネフィット・グロリアス・ネイション・オブ・カザフスタン(2006年)」の主人公もどきまで現われる。

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「フライングハイ」
 全米トップ10第1位のこの映画でさえ、やはり日本で封切られる予定がない。それでは、もう少し古いコメディーならどうだろう? たとえば、アメリカで数々のコメディーをヒットさせているデヴィッド・ザッカージェリー・ザッカー兄弟の原点である「フライングハイ(1980年)」、この映画のヒットがなかったら彼らの後の作品は生まれていないだろう。

 私がたまたま帰国中、日本でも上演されており、京都の某映画館で見た。その時、未だ印象に残っているのは、抱腹絶倒の私と比べ、周囲がシーンと静まり返っていたことだ。ただ、笑い転げているのは私だけでなく、もう1人女性の観客もおり、映画の後でそれがアメリカ人だとわかる。話してみると、彼女は私の母校で英会話の教師をしているのがわかり、お近づきになるというエピソードを残す。

 そのエピソードはさておき、日本で「フライングハイ」を見て感じることが2つあった。1つは冗談(ジョーク)好きのアメリカ人と真面目な日本人という国民性の違いで、もう1つが感情の表わし方の違いである。平均的な日本人は「フライングハイ」を見て面白いと思っていようが、まず感情をストレートに表へ出さない。

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「スパイナル・タップ」
 これらは文化の違いに起因する日米間の大きなギャップだ。そのギャップをもっと感じるのが「スパイナル・タップ(1984年)」で、「スタンド・バイ・ミー(1986年)」のロブ・ライナーが劇場映画監督へ進出を果したこの作品は、架空のバンド「スパイナル・タップ」の全米ツアーの模様をメンバーなどのインタビューを交えて綴った架空のドキュメント作品である。

 全編、実在のロック・バンドのパロディーであり、アメリカの場合、架空のバンド「スパイナル・タップ」の曲が最後はMTVでヒットする異常事態へとエスカレートするいっぽう、日本だと未公開のまま終わった。この映画がすごいのは、ある程度年配のアメリカ人ならロック・ファンと限らず、たいがいが見ているのだ。

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「裸の銃(ガン)を持つ男」
 ロック・バンドのパロディーといえば、先のザッカー兄弟の「トップ・シークレット(1984年)」もそこそこはヒットしたが、「スパイナル・タップ」の比ではない。しかし、デヴィッド・ザッカーが続いて人気TVシリーズ「ポリス・スクワッド」をパロディった「裸の銃(ガン)を持つ男(1988年)」はシリーズ3作目までが製作されるほどのヒットとなった。

 ちなみに、アメリカでは「リノ911」や一連の「裸の銃(ガン)を持つ男」を見るまでもなく、昔から官憲のパロディーがコメディーの一分野として定着している。これは映画の中でコケにされたバカな警官像へ、一般の市民が日ごろの鬱憤(うっぷん)を晴らすという図式によって成り立つ。これも日本では難しい。

 日本の場合、そこまで官憲をコキ下ろすことへ、まず抵抗があるようだ。「フライングハイ」でさえ声を出して笑うのをためらう日本人は、言い換えれば映画館という公共の場での自己主張を拒んでいるわけで、まして可笑しさの対象が官憲となれば、ある種の道徳心によって拒絶反応を示すのだと思う。かろうじてビデオは購入可能な「裸の銃(ガン)を持つ男」シリーズも、日本のヤフー・ムービーで検索してみれば、データベースへ含まれていながら、なかなか見つからないのが現状なのだ。

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「最終絶叫計画」
 やはりデヴィッド・ザッカーがシリーズ3作目の「最'狂'絶叫計画(2003年)」から監督を引き継いだ「最終絶叫計画(2000年)」に始まる一連のパロディー映画も、日本での反響はアメリカのそれと根本的な開きがある。そこで思うのは、日本の観客が映画館へ行く時、上記のパロディー映画の類へ入場料を払うだけの価値観を見出していないのではないだろうか?

 一連の「大空港(1970年〜)」シリーズをパロディった「フライングハイ」へ、オリジナル映画と同じ入場料を払うのがもったいない。それなら他のオリジナル作品を・・・・・・どうも、そんな印象を受けるのである。いっぽうハリウッドは日本人から見るとバカバカしいほど冗談(ジョーク)好きだ。そして、可笑しい映画を見ると思い切り笑う。

 邦画のハリウッドへの進出振りが目立ち始めた今日この頃、よけい感じるのは、そういった日米のギャップだ。と同時に、「バベル(2006年)」が今年のオスカーで作品賞へノミネートされたのをきっかけに、アメリカのヤフー・ムービーでは主演の1人である役所広司が「ウェブでもっとも注目されているキャスト/クルー」のトップへ選ばれ、その出演作リストにはパロディー精神たっぷりの「赤い橋の下のぬるい水(2001年)」なども、しっかりと含まれている。今後の邦画へ、そういった作品を、ますます期待したいものだ。

横 井 康 和      


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