映画とストーリーボード


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「ブレードランナー」
画像による目次はここをクリックして下さい  映画製作で脚本ともう1つ欠かせないのがストーリーボードだ。ドキュメンタリー映画の場合、やや事情は異なるが、一般の娯楽映画だと撮り始める前に構図はほぼ決まっている。その構図を図解したのがストーリーボードで、ちょうど日本の得意技であるコミック(劇画)と近い。たとえば、リドリー・スコット監督の名作「ブレードランナー(1982年)」の冒頭シーンなら、まずは右図のようなストーリーボードがあり、そこから実際の映像は起こされた。

 このストーリーボードを基に、2019年のロサンゼルスの街を映像化すべくミニチュアのビルやスピナー(小型飛行艇)が作られ、そのミニチュア・スピナーの全長は10センチ、スピナーが向かう警察本署ビル(8駒目の円形の建物)は高さが1メートル50センチ、直径が45センチと、後者はかなり大きい。そして面白いのが、左上の写真でも写っている円形の本署ビル屋上は、「未知との遭遇・特別編(1980年)」のマザーシップ内を上昇していった円盤が流用されている。
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「UDON」

 ところで、ハリウッドではかなり大きなミニチュアが主流なのはそれなりの事情があって、ミニチュア・セットの大御所アーノルド・A・ギレスピーの言葉を借りると、「ミニチュアの創作は時間を意味し、細部まで精密なセットを作ろうと思えば、それだけ時間がかかる、世界中のどこの国でも同じように、映画の世界でも時は金なのだ。だから可能な限り、大きなミニチュアを作ったほうがいい。大きいほど細部へ凝ったりミニチュア化は簡単になるからだ」

 話がテーマから逸(そ)れついで、こうして完成した「ブレードランナー」の邦画パロディーへ少しだけ触れておこう。「早くも全米メディアが注目!」というポスターのコメントは嘘だらけの「UDON(2006年)」をご覧になったかたなら、途中の空想シーン(写真)を憶えておられるだろう。あれが、もろ「ブレードランナー」の冒頭シーンのパクリであるばかりでなく、ハリソン・フォード演じる主人公リック・デッカードがダウンタウンの屋台で寿司を注文する場面(シーン)まで、「UDON」はしっかりとパロディッている。
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「ブレードランナー」

画像による目次はここをクリックして下さい  これ以上脱線する前に話を戻し、ストーリーボードが役立つのは何も特撮(SFX)の時ばかりと限らない。同じ「ブレードランナー」の後半で、デッカードがルトガー・ハウアー演じるレプリカント(人造人間)ロイ・バッティーを追い詰め、逆に右腕を折られるところは、左図のストーリーボードが原型だ。右の写真の場面(シーン)は、フォードがそのストーリーボードと脚本を検討した結果の演技から誕生した。

 ストーリーボードは、映画を作る時点で俳優そして大道具や特撮(SFX)スタッフへどれだけ重要かおわかりいただけたと思うが、それ以前にもう一つ大きな役目もある。作り始める時点で必要なのは資金であり、これが集まらないと映画製作はスタートしない。その資金集めのため投資家たちへ配るパッケージに必ず含まれているのが財務資料と脚本とストーリーボードなのだ。
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 これはメジャー・スタジオの作品であれ、そこまで資金の余裕がない独立プロ(インディー)の作品であれ、事情はさほど変わらない。メジャー・スタジオの重役へゴー・サインを出させるにせよ、一般の投資家へお金を出させるにせよ、出す相手が「この映画は儲かりそうだ」と思わない限り、その先はない。そして、商品として映画の価値があるかどうかは、財務資料でなく脚本とストーリーボードが判断の決め手となる。
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「スターウォーズ
エピソード2
クローンの攻撃」

 そこで、ストーリーボードの例として、もう1本の映画を取り上げてみよう。興行面では米国内で31,066万ドル(約348億円)を稼ぎ、247万ドル(約2.8億円)の「ブレードランナー」より遥かに成功した「スターウォーズ/エピソード2・クローンの攻撃(2002年)」、その中ほどの場面(シーン)でユアン・マクレガー演じるオビ=ワン・ケノービがテムエラ・モリソン演じるジャンゴ・フェット(写真)と戦う。右図はそのストーリーボードで、1.フェットがケノービを見る、2.構えるフェット、3、発砲するフェット、4.光線をかわすケノービ、と展開してゆく。

 「ブレードランナー」の最初の例の場合、結果として特撮(SFX)の指標となっており、2番目の例は演技の指標だとしたら、この3番目のストーリーボードの場合、演技と特撮(SFX)の両方の指標となっている。たとえば、俳優がブルースクリーンの前で演技をするとしたら、ストーリーボードを見ないと背景のイメージは湧かない。いっぽう、そのブルースクリーンへ被さったイメージを作るSFX(特撮)スタッフも、ストーリーボードを見てどのような方法がいいか決める。実物大のセットはこの部分だけ作り、あとはミニチュアでいこうなどと、ストーリーボードをどう映像化すればいいか考えるわけだ。

 もちろん、今ならミニチュアの変わりCG(コンピュータ・グラフィック)という手もあるだろう。むしろ、そのほうが一般的となってきた。ただ、コンピュータの急激な進歩で方法論はどう変わろうと、SFX(特撮)映画を生身の俳優が演じる限り、ストーリーボードの重要性は昔も今も、そしてこれからも変わらない。しかし、重要だからと、それに縛られる必要もないのである。

画像による目次はここをクリックして下さい  以上3つの例では、どれもストーリーボードを忠実に映像化しているが、当然ながら製作段階で変更される場合は多々あるわけだ。ただ、インパクトの強いシーンほど最初からイメージが固まっているせいか、途中で変更されるのはあまり重要でない部分が多い。たとえば左図のストーリーボードは、やはり「スターウォーズ/エピソード2」の後半でクリストファー・リー演じるドゥークー伯爵がコロシアムへ入場したところである。それを映像化した右下の写真を見てもわかるように、人物そのものはまだしも、全体のイメージがかなり違う。
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「スターウォーズ
エピソード2
クローンの攻撃」

 たぶんストーリーボードを作った時点では、コロシアムのデザインがあまり煮詰まっていなかったのではないだろうか。中でもVIP用の観覧席が、ストーリーボードではごくありきたりのデザインだったのが、映画だとけっこう凝ている。脚本だって、たとえ何度も書き直したところで、いざ撮影現場へ入ると更に変更されたりするのは、ストーリーボードも同じということだ。

 ハリウッドで暮らしていると、こちらのストーリーボードが身近な存在である反面、邦画の世界は遠くなる。いま日本でヒットしている「ALWAYS 続・三丁目の夕日」など、どのようなストーリーボードなのか興味が湧く。しかし、舞台裏を紹介した日本のTV番組などで不思議とストーリーボードは登場しない。せっかく日本のお家芸なのに、なぜだろう?

 また、その日本のコミック(劇画)を見ていつも思うのが、映画のストーリーボードとしてのポテンシャルを秘めている反面、それゆえ未完成の印象は拭えない。いくら完成度が高かろうと、しょせんストーリーボードは脚本と並ぶ製作過程の道具にすぎないからだ。その結果、宮崎のアニメだって実写版へ興味が先走る私なのである・・・・・・そんなものは存在しないが!?

横 井 康 和      


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