駅弁


 今回はこれまでとやや趣向を変えて、日本の駅弁をいくつかご紹介したいと思います。全国で数ある駅弁の中でも、まず筆者の脳裏へ浮かんだのが以下の6つの駅弁です。他にもまだまだ美味しい駅弁はあるでしょうが、とりあえずこれらは外れがありません。

■えび千両ちらし

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masaka.ekiben.or.jp
(株)新発田三新軒
新潟市秋葉区新津本町1-2-43
0250-21-6220
取扱駅:新潟駅、東京駅、上野駅、大宮駅

 新潟の「新発田三新軒」の「えび千両ちらし」は弁当箱へ黄金色の和紙を使い、豪華な中身を連想させる外見ですが、いざフタを開けてみると4切れの手焼き玉子が一面に敷かれ、桜むき海老のおぼろが玉子へかかっているだけです。しかし、玉子をつまむと、その下に4つの具材とすし飯が隠されています。

 一面に敷かれた手焼き玉子は存在感のある大きさと厚さで、出汁の効いた薄目の甘口です。そして、むき海老のおぼろが玉子へ甘味を足しています。その下に隠れた具材は、薄切り〆めをしてわさび醤油にからませたこはだ、たれ仕込みしたうなぎの蒲焼、酢通しをして醤油でからませた蒸し海老、そして塩いかの一夜干しの4種類と、どれも手間暇を惜しまず仕込みされたものばかり。すし飯もれんこんとかんぴょうを混ぜ合わせたコシヒカリの精進合わせと、そこへおぼろ昆布が敷かれています。酢の〆め加減、たれのつけ具合、そしてすし飯のほど良い甘味など完成度が高い逸品です。

 お寿司の世界で通と言われる人は玉子から注文すると言われており、それは玉子の出汁や焼き加減を見てお店の力量を知ることが出来るからに他なりません。玉子から食べるように考えられたこの駅弁は、手間暇かけた仕事への自信の表れかもしれず、その味も千両級の価値を感じさせます。

■ますのすし

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www.minamoto.co.jp
(株)源
富山市南央町37-6
076-429-3100
取扱駅:富山駅、高岡駅

 「ますのすし」の起源は平安時代とされ、勅使へ持たせた献上品が始まりです。 当時は今のような形のものでなく、米を醗酵材料とした魚の身だけを食べる「なれずし」と呼ばれるものでした。それから、米を一緒に食べる「生なれ」へと変化し、源の前身である料亭「天人楼」でも名物として喜ばれるようになります。明治時代へ入ると早寿司の流行とともに今の鱒寿司の原形となり、明治41年、駅弁業へ転身した源が、北陸本線富山駅構内でオリジナルのパッケージと現代に引き継がれる製法で「ますのすし」を販売し、富山のお土産として全国へ広まったのです。

 なお、お馴染みのパッケージのますの絵は、文化勲章受賞した中川一政画伯の作品です。当時から、ますのすしをこよなく愛した中川は神通川でとれたばかりの生の鱒を用意し、それをモデルに描いたというエピソードも残っています。贈答品としても人気を呼ぶようになり、今では駅ばかりか全国の百貨店でも買えるほど普及しました。

■深川めし

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www.jr-cp.co.jp/products/detail/39?area=2
(株)ジェイアール東海パッセンジャーズ
東京都中央区日本橋三丁目1番17号 日本橋ヒロセビル
0120-616138
取扱駅:東京駅、品川駅、新横浜駅

 あさりを一緒に炊き込んだ御飯へ、焼穴子とハゼ甘露煮、あさりの浅炊きを盛り付け、全体的に江戸前の魚介をイメージした味で統一されています。あさりのあっさりとした風味、穴子の香ばしさ、ハゼの甘い味付けがバランスよく馴染み、飽きのこない仕上がりです。

 ちなみに、同じ「深川めし」でも、このJRCP(ジェイアール東海パッセンジャーズ)の他、NRE(日本レストランエンタプライズ)の商品もあり、両者は一見同じようで、かなり内容が違います。どちらも東京駅弁の顔という感じで美味しいことは美味しいのですが、お薦めしたいのは前者のほうです(JRCPの駅弁は東海道新幹線の改札内でしか買えませんので、ご注意ください)。あと、東武鉄道浅草駅の「深川めし」というのもあります。また、「深川めし」と並んで人気のある「貝ずくし」も確かに悪くありませんが、筆者としてはJRCPの「深川めし」が一番好みです。

■ひっぱりだこ飯

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www.awajiya.co.jp/prod/prod_18.htm
(株)淡路屋
神戸市東灘区魚崎南町3-6-18
078-431-1682
取扱駅:三ノ宮駅、京都駅、六甲道駅、大阪駅、天王寺駅、新大阪駅、新神戸駅、神戸駅、芦屋駅、西明石駅

 1998年、明石海峡大橋の完成を記念して発売されて以来、ロングセラーを続ける名物駅弁です。タコ壺風の陶製容器からは、タコのうま煮、アナゴしぐれ煮、タケノコ煮、菜の花などのおかずが姿を見せ、その下へ詰めた炊き込みご飯は自家製の特製スープで炊き上げており、もっちりとした米粒にはスープの味が良く馴染み、風味、食感共に素晴らしい。ご飯の中にはタコのすり身で作ったタコ天がしのばせてあるなど、食べ進むのが楽しい一品でもあります。

 製造販売元の「淡路屋」へ触れておくと、創業は明治36年、以来、五代にわたって駅弁稼業が受け継がれてきたそうです。その歴史は一世紀に及び、鉄道網の急速な発達、戦争、高度成長。時代が変化するなか、美味しさを常に追及し、神戸の本物の味を多彩に盛り込んだ「肉めし」、また駅弁の常識を打ち破る「あっちっちスチーム弁当」をはじめ、さまざまなアイデアを味づくりへ取り入れてきました。

 その淡路屋といえば、原了郭の「黒七味」をフィーチャーした淡路屋の「京都牛膳」も、なかなかなものです。同社のヒット商品である肉めしとは一味違って、京都名物黒七味を活かしたところがユニークかつ食欲をそそります。

■利休牛たん丼

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www.rikyu-gyutan.co.jp
(株)利久
宮城県岩沼市吹上2丁目2番36−1
0120-047910
取扱駅:仙台駅、大阪駅、博多駅

 「利久」の「牛たん丼」は、オーストラリア産の中でも特に上質な物を厳選して使用しており、1枚1枚手作業で加工味付を行っています。そして、牛たん丼へ欠かせないのが麦飯と南蛮味噌です。その利久が牛たん焼の本場、宮城仙台に門を構えて20余年、今では全国へ店舗を展開する他、インターネットショップも展開するようになりました。

 同じ宮城の牛タン弁当では、利久の他、「こばやし」、「伯養軒」、「日本レストランエンタプライズ」なども類似商品を出しています。いっぽう、利久の場合は前述のとおり仙台市内にある十数店のレストランを含み全国へ店舗を展開し、催事向け弁当が駅弁でも売られていると言ったほうがいいでしょう。最近では、利久と限らず牛タン弁当の多くが淡路屋の「あっちっちスチーム弁当」同様、「熱々」を売り物にしています。確かにアイデアとして面白いものの、糸を引いて温めた後もご飯の一部が冷たかったり、まだまだ改良の余地はありそうです。

■いずう鯖寿司

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www.kyo-ryori.com/shop.php?s=3
いずう
京都市東山区八坂新地清本町367
075-561-0751
取扱駅:京都駅

 京都では祭といえば鯖寿司が欠かせません。その昔、鮮魚が手に入りにくかった京の人々へ、若狭からのひと塩ものの鯖は大変な御馳走でした。鯖寿司はそうした時代の名残をとどめ、今でも京都の寿司の代表格です。この鯖寿司を専門家の手で作り始めたのが、祇園切通しに店を構える「いづう」であり、天明元年(1781年)の創業以来、約220年間にわたって京寿司を作り続けてきました。

 初代はいづみや卯兵衛といい、初文字をとって屋号としました。京の町衆が好んで食べた若狭の鯖へ着目し、この地へ京寿司専門の店を構えて鯖姿寿司を売り出し、評判をとったといいます。以来、代々にわたって吟味を重ねた材料を用い、鯖姿寿司を作り続けて来たのです。古くからお茶屋の仕出しをしてきたせいか、ここの寿司は色も香もあり、艶っぽくて盛り付けにも工夫が凝らされています。

 筆者の場合、京都駅から新幹線へ乗る時に買う駅弁は、大概いずうの鯖寿司です(いずうの鯖寿司は東海道新幹線の改札内でしか買えませんので、ご注意ください)。また、京都以外でも、いろんな百貨店で購入できます。

 以上6つの駅弁の他、奈良の「柿の葉寿司」や宮崎の「ランプステーキ弁当」なども捨てがたく、考え出すときりがありません。いずれ続編を書くこともあるでしょう。最後に駅弁ではありませんが、もう一つだけ弁当の王者をご紹介しておきます。いずうの鯖寿司と同じ京都駅(の駅構内ではなく改札口を出た伊勢丹百貨店の地下食料品売り場)で買える「和久傳」の「鯛ちらし」か「二段弁当」は最高です。機会があれば、ぜひお試し下さい。

横 井 康 和      


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