スパイ・スリラーの神様?
“レッド・オクトーバーを追え!"、"パトリオット・ゲーム"、"今そこにある危機”といったトム・クランシー・ノベルの映画化で有名な敏腕プロデューサー・コンビ、メイス・ニューフェルドとボブ・リームは、またまたハリソン・フォード主演でCIAエージェント、ジャック・ライアン・シリーズ第4弾“クレムリンの枢機卿”を来年中に撮影開始すべく着々と準備を進めています。一方、ニューフェルドがジャック・ライアン・シリーズ前2作の監督フィリップ・ノイスを起用、単独でプロデュースした人気TVシリーズの映画化作“セイント”は、4月4日の公開以来順調なヒットぶりで、早くも続編製作の話が持ち上がっているほどです。“バットマンとロビン”を降ろされたり、“ドクター・モローの島”ではマーロン・ブランドから愛想をつかされたり、何かと噂が絶えない主演バル・キルマーながら、今回はニューフェルドもビックリするほどの優等生ぶり。ノイス監督と脚本の数シーンを一緒に書いたり、共演のエリザベス・シュー("リービング・ラスベガス")との息もピッタリで、9つの役柄と14回の変身をこなす国際的スパイ、サイモン・テンプラーを熱演しています。これは、役作りへ固執するあまり囲りの偏見をかってしまうことが多いキルマーを上手く仲間に入れ、クリエイティブな面でも製作へ参加させたニューフェルドの、プロデューサーとしての手腕の賜(たまもの)でしょう。彼はさらにパートナーのリームと“パスファインダー”という、これまたスパイ・スリラーの製作準備中であり、当初主演するはずだったアーノルド・シュワルツェネッガーがスケジュールの都合上降板したため、現在、他の大物スターと交渉中。複雑なスパイ・スリラー小説を見事に映画化してきたニューフェルド/リーム・コンビ、彼らはまさに僕たちプロデューサーの神様的存在なのです。そのコンビに信頼され、今回で彼らの作品を監督するのが3度目というノイスも、セクシュアル・スリラー“硝子の塔”をはじめ、初期の低予算映画“デッド・カーム/戦慄の航海”(スリラー映画ファン必見の傑作)など、エッジ・オブ・ユアー・シート(座席で身をすくめるほどの恐怖感を形容した表現)的な演出の天才という次第。
ボン・ジョビの華麗なる変身
端役ながら“リトル・シティー"("レリック”のピネロープ・アン・ミラー主演)、“ホームグロウン”("スリング・ブレイド”でアカデミー賞脚色賞受賞のビリー・ボブ・ソーントン主演)が公開間近と、ロック界のプリンス、ジョン・ボン・ジョビは着々と映画スターへの道を歩んでいる感があると思いきや、遂に主演の座を射止めました。異色作“彼女は最高”の主演脚本で注目されたエディー・バーンズの新作“ロングタイム・ナッシング・ニュー”というのが、その映画です。内容はエディーとローレン・ホリー("ドラゴン")との三角関係がテーマのダーク・コメディー。このところ演技づいているジョンは、他にも自分のバンド、ボン・ジョビの次作アルバム“デスティネーション・エニホエァー(何処も目的地)”のビデオでデミ・ムーア、ウーピー・ゴールドバーグ、ケビン・ベーコン("スリパーズ")など大物スターと共演しており、これがまた単なるミュージック・ビデオとは違うのです。30分のドキュメンタリー仕立ての中、新曲を披露するばかりでなく台詞もある映画のようなスタイルが、今後、ミュージック・ビデオ業界の新トレンドとなるかもしれません。今年35歳のジョン、持ち前のルックスとバイタリティーで、いつかロック・スターから銀幕のスターへ華麗なる変身を見せてくれると期待しています。
タランティーノ待望の新作
アカデミー賞脚本賞を受賞した“パルプ・フィクション”以来次回作が待たれていた鬼才クエンティン・タランティーノが、いよいよ動き出しました。“ゲット・ショーティー”の原作者エルモア・レナードの著書“ラム・パンチ”を基にした“ジャッキー・ブラウン”がそれで、主演は僕の最も好きな俳優でもあるロバート・デ・ニーロとタランティーノ好みのサミュエル・L・ジャクソン("パルプ・フィクション")、そして'70年代に一世を風靡した一連の黒人アクション映画の多くで主演ししているパム・グリアー("エスケープ・フロムL・A")の起用も決定しました。ハリウッドから忘れられていたジョン・トラボルタを“パルプ・・・”で見事にカムバックさせたクインティンが、パムの野性的な魅力をどう活かして復活させるかは、大物デ・ニーロとの初顔合わせ同様、早くも話題となっています。じっさい、パムのために原作をかなり書き直し、FBIと銃の密輸集団との裏切り合戦へ巻き込まれるスチュワーデスの運び屋という役柄を創作するほどの気合いの入れよう。初期の脚本“フロム・ダスク・ティル・ドーン”を弟分的な存在であるロバート・ロドリゲス("デスペラード")に監督させ、新バットマンのジョージ・クルーニーと共演したり、人気TV番組“ER"(主演の医者の1人がジョージ・クルーニー)のエピソードを、例のテンションの高いスタイルで監督したり、やはり人気TVシリーズ“X-ファイル”の監督が決まっていながら、DGA(Directors Guild of America/監督協会)メンバーでないことから降板して体制派に反乱姿勢を示すなど、何かと話題の多いクエンティン、やはり彼の魅力は、あの凄じいばかりのバイオレンスと天才的なストーリー描写が売り物の、ひと味違う監督技でしょう。日本ではCMでお馴染みの彼が大ファンである“仁義無き戦い”の、深作欣治監督との製作企画も水面下で進行中とのこと。さて、長すぎたほどの充電期間後、ハリウッドのアンディー・ウォーホール、クエンティンが、今度はどんな映像(サプライズ)を与えてくれるのか、今から非常に楽しみですね!
13は不吉な番号!?
| 1995年のヒット作“アポロ13”で宇宙飛行士役を演じて以来、翌夏のメガヒット“ツイスター”をはじめ、次期ブロックバスター候補“タイタニック”と話題作に恵まれていたビル・パクストンながら、最近、彼がプロデューサー業も兼ねた“トラベラー”の宣伝キャンペーンを巡り、配給会社と激しい争いを演じています。この映画はビルとマーク・ウォールバーグ("フィアー")が主演で、ヨーロッパのローマニー・ジプシーから派生したアイルランド系移民のアメリカ人子孫に伝わる秘密結社のごとき社会や文化をドラマチックに描いた野心作。4年前、ビルの妻が発見したこの脚本は、ビルの名前が売れた結果、初めて製作費を集められたという曰(いわ)くつきの企画であるせいか、新聞やTVの宣伝広告が小さいことでモメているようです。映画の興行成績は宣伝予算が大きく左右するこの業界、僕自身、自分の作品を巡って配給会社と折衝経験もあり、彼のジレンマはよくわかる気がします。ただ、ビルのトラブルはそれだけでなく、本年のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたビリー・ボッブ・ソーントン("スリング・ブレード")と共演の新作“シンプル・プラン”が、とつじょ製作スタジオ、パラマウントの意向で無期延期となってしまいました。彼ら扮する兄弟が莫大な「汚い金」を発見した結果、展開してゆくこのスリラーは、大物プロデューサー、スコット・ルーディン("身代金"、"法律事務所")製作、ジョン・ボアマン監督("戦場の小さな天使たち")のもと4月からクランクインの予定が、どういうわけかその2週間前に突然延期。ボアマン監督はロケ地のミネソタで早くもセット設営を指揮していたというぐらいですから、ビルの落胆ぶりもかなりなものだと思います。しかし、1949年に製作された怪獣映画の名作“マイティー・ジョー・ヤング"(ロサンゼルス動物園へ移された身長5メートルのアフリカ産ゴリラが脱走の果てに大暴れする物語)リメイク版の主役候補にも上がっているビル、それで縁起直しといきたいところでしょう。いっぽう、“アポロ13”でビルと共演し、“スリーパーズ”では復讐の的となる冷酷な守衛役を好演したケビン・ベーコンも調子が悪いところをみれば、やはり13というのは不吉な番号のようです。彼の場合は、以前から望んでいた俳優ロバート・ダウニー・ジュニア("愛が微笑む時")との共演が実現した“ワイルド・シング”で、製作会社マンダレー・エンターテイメントがドラッグ中毒で入退院を繰り返すダウニーの保険料(数百万ドルという噂)支払をダウニー本人へ強要したことから彼は降りてしまいました。せっかく夢の共演がオジャンになってしまったケビンながら、そこはプロ、後釜(あとがま)に起用されたマット・ディロン("シングルス")と順調に撮影が進んでいます。ビルほど不運でもなさそうな彼は、弟マイケルとのバンド、ベーコン・ブラザーズのツアーが好調でレコード契約も成立したほか、'60年代のいかがわしいディスクジョッキー役を演じる“テリング・ライズ・イン・アメリカ"("氷の微笑"のジョー・エスタハス脚本)は公開間近。 |

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夢よもう一度!
最近作“クルーシブル”で迫真の演技が記憶に新しいダニエル・デイ・ルイス、“父の祈りを”と“マイ・レフトフット”で意気投合した監督/脚本家ジム・シェリダンとの新作“ボクサー”が、いよいよアイルランドのダブリンでクランクインしました。物語は、ダニエル扮する将来を嘱望(しょくぼう)されていながら罪を犯し刑務所で服役中だったベルファスト出身の元ボクサー、ダニー・ボーイ・フリンが13年の刑期を終えてダブリンへ戻ってくるところから始まります。コンクリートの壁に囲まれた憎悪の廃墟と化したダブリンの街、昔の恋人マギー("ブレーキング・ザ・ウェーブ”で今年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたエミリー・ロイド)も、やはり服役中の夫と10代の息子を抱えて生活苦のどん底。そんな状況下でマギーと民衆の希望のためにリングへ上るフリンのカムバックを描いた「アイルランド風ロッキー」とでもいうべき感動作です。“マイ・レフトフット”で見事オスカーを受賞したダニエルと監督賞にノミネートされたシェリダンのコンビや、“父の祈りを”で脚本を共著したテリー・ジョージ(トラブルだらけの“デビル”で撮影用脚本をクレジットなしで書いた人物)との共同脚本と監督のみならず、今回はプロデューサーとしても参加しているシェリダン、黄金トリオで夢の再来を狙っているようです。
(1997年5月1日)
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