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(1998年5月1日)          




長かった道のり


今でこそハリウッド映画界には演技派デンゼル・ワシントン("天使の贈りもの")、アクション・スター、ウェスリー・スナイプス("U・Sマーシャル)、渋い演技派サミュエル・L・ジャクソン("ジャッキー・ブラウン")、重厚なベテラン、モーガン・フリーマン("ハードレイン")、“ブロックバスター男”ウィル・スミス("ID4"、"MIB")、そしてセクシー女優バネッサ・ウィリアムス("ソウル・フード")やビビカ・A・フォックス("ID4")と、いろいろなタイプの黒人スターが犇(ひし)めいています。しかし、ここへ辿り着くまでには長い道のりがあり、それは'70年代の「ブラックスプロイテーション」として映画史へ名を残す時代を経た末のことです。この「Black(黒人)」と「Exploitation(・・・を利用して私利を図る)」の合成語で知られる一連の黒人アクション映画は、“フォクシー・ブラウン"(写真右)、"コフィー”などでパム・グリアーを、また“シャフト”などでリチャード・ラウンドトリーをスターにしました。いま“アミスタッド"、"イブズ・バイユー"、"ソウル・フード”といった優秀なブラック・フィルム(黒人俳優陣による黒人文化を描いた作品)が輩出しているのも、“スーパーフライ"、"クレオパトラ・ジョーンズ”などの「ブラックスプロイテーション」映画のおかげといえるでしょう。内容は、どちらかというとソフト・ポルノ・タッチの犯罪ドラマが多く、根底にはいつも「白人社会の犠牲者」である犯罪者を美化する風潮と、反面「裕福な白人社会」への憧れが感じられなくもありません。メキシコ・オリンピック(1968年)で、アメリカ代表陸上選手だったジョン・カーロスとトミー・スミスが表彰台の上で黒い手袋をした右手を突き上げ、母国の人種差別へ無言の抗議をして以来、テネシー州メンフィスのキング牧師暗殺事件、L・A近郊のワッツからデトロイト、そして全米へと飛び火した黒人暴動、また世界ヘビー級チャンピオンのカシアス・クレイが奴隷名(本名)を破棄し、モハメッド・アリと改名したことなどが、「ブラックスプロイテーション」映画を生み出す足掛かりとなった気もします。'70年代に入り、白人社会で虐げられる“ニグロ”的存在から、自分たち独特のイメージや文化を表現する自由を勝ち取った彼らのエネルギーは、映画だけでなく音楽の世界でもカーティス・メイフィールド、マービン・ゲイ、フォー・トップス、アース・ウィンド・アンド・ファイアーなどが台頭してきました。グルービー(当時の流行り言葉)な黒人探偵もの“シャフト”の主題曲を歌ったアイザック・ヘイズが、アカデミー賞を受賞したのもこの時期です。それまで黒人ハリウッド俳優といえば“野のゆり(1963年)”でオスカーを受賞したシドニー・ポワチエぐらいしかいなかったことを思えば、'70年代エンターテイメント文化のブラック・パワー台頭は、どれだけ大きなムーブメントであったかわかります。当時の社会情勢をドキュメンタリー化した映画などでもわかりとおり、既製のシステムへの反発がその原動力となったのでしょう。ニュー・ハリウッドの旗手クエンティン・タランティーノは「ブラックスプロイテーション」映画のファンとして知られていますが、パム・グリアーを主演に抜擢した昨年の“ジャッキー・ブラウン"(写真左)は、かつて彼女が愛する妹をヘロイン中毒にした社会へ復習を誓う看護婦役を演じた“コフィー(1973年)”と通じるところもあり、そこにクエンティン流の“黒人文化”への叙事詩が表われているようです。ジョン・ウェインに代表される西部劇をアメリカ白人社会の“原点”と捉(とら)えるなら、「ブラックスプロイテーション」映画こそ、黒人社会の「西部劇」なのかもしれません。





タイタニックのお次は?


映画史上初の世界興業収益が10億ドルを突破(フランス、ドイツ、イギリス、日本で、それぞれ8千万ドルの売上)、アカデミー賞では名作“ベン・ハー”と並ぶタイ記録の11部門受賞ばかりか、驚異的な売れ行きを示したサントラ・アルバムや、そして主演スター、レオナルド・ディキャプリオの世界的ブレイクと、何から何まで話題騒然の“タイタニック”でした。脚本料の150万ドル以外、売上の10〜15パーセントと噂される監督プロデューサー料を辞退してまで、この「永遠の名作」を完成させた「アイアン・ジム」ことジェームズ・キャメロンですが、製作スタジオの20世紀フォックスとパラマウントでは、先月(4月)、1億ドルの「謝礼」ボーナス支給を決定したばかり。そのキャメロン監督が、お次は何をやるのでしょう? 彼が食指を動かしている1つ目のプロジェクトは、最近倒産してハリウッドを驚かせたマーベル・コミックス社の看板キャラクター“スパイダーマン”です。そもそも、オリジナル・コミックのファンであるキャメロンがその映画化へ係わったのは数年前まで遡(さかのぼ)り、'90年代初頭“ランボー”シリーズなどで気勢を上げていたキャロルコ・スタジオが、当時マーベル・コミックス社からオプション(期限付の製作権)を取り付け、彼に500万ドルの手内金を支払っています。しかし、キャロルコとマーベルの著作権をめぐる法廷争いの結果、この企画は5年間箱入り状態となってしまいました。その後、20世紀フォックスがキャメロンのため倒産したマーベルより権利を買い取ろうと試みたものの、今度はMGM/UAがキャロルコから映画化権を譲渡されたと主張するばかりか、ビデオ化権はソニー傘下のコロンビア/トライスターが所有していると言い出す始末です。そんなわけで、6月に開かれるマーベル社の倒産公聴会までは、まだまだ予断を許しません。権利問題さえ解決すれば、“タイタニック”で成功した大手スタジオの共同製作(パラマウント/国内配給と20世紀フォックス/海外配給)という線もじゅうぶん考えられる企画なだけ、コミックのスーパー・ヒーローを「視覚の天才キャメロン」がどう映像化するのか、今から非常に楽しみですね! そして、もし“スパイダーマン”を実現できない場合、2つ目のプロジェクトはSFクラシック“猿の惑星”のリメイクです。20世紀フォックスの製作で、キャメロン自ら脚本監督を担当する超大型SF作品となるでしょう。数年来、アーノルド・シュワルツェネッガーがこの企画へ異常な興味を示しており、“ターミネーター1&2”や“トゥルー・ライズ”の実績もあるだけ、実現すれば“タイタニック”クラスの“世紀のブロックバスター”が誕生するかもしれませんよ!!





オスカー、その後

アカデミー賞を受賞して格が上がるのは言うまでもないメリットですが、今年オスカーを手にしたスター達は、今後どのような進路を歩むのでしょうか?


ジャック・ニコルソン(主演男優賞)

通算3度目のオスカー受賞後も、あいかわらずNBAレイカーズの試合へ顔を出しては、フォーラム(レイカーズの本拠地)のコートサイド席を賑わす常連振り。いろいろ脚本を読んでいるようですが、まだ次作は決まっていません。また、主演企画とは別にジョニー・デップ、ウィノナ・ライダー、アンディー・ガルシアと、そうそうたる顔合わせで製作されるイタリアの伝説的名監督ミケランジェロ・アントニオーニ("赤い砂漠")作“ジャスト・トゥビー・トゥギャザー”で、今年84歳のアントニオーニ監督補佐を務めるべくヨーロッパへ赴きます。

ヘレン・ハント(主演女優賞)

ヤッピー夫婦をコミカルに描いて長年人気の主演TVシリーズ“マッド・アバウト・ユー”へ、もう1シーズン続投が決定し、そのギャラたるや1回百万ドルと破格の契約です。この夏はブロードウェイの舞台で“十二夜”に主演する準備もあり、しばらく映画から遠ざかりそうな気配。

ロビン・ウィリアムス(助演男優賞)

風変わりな戦争ヒーローを演じた“聖なる嘘つき その名はジェイコブ”が間もなく封切られる他、ちょうど撮影を終えたロマンチック・ファンタジー“奇蹟の輝き”では、奇しくも昨年のアカデミー助演男優賞受賞者キューバ・グッディング・ジュニアと共演しています。この後、“インタープリター"("ホームアローン”のクリス・コロンバス監督作)、"パッチ・アダムス"("ライアー・ライアー”のトム・シャデアック監督作)とコメディー映画への主演が続く予定。

キム・ベーシンガー(助演女優賞)

“L・Aコンフィデンシャル”で新境地を開いたキム、最近3百万ドル("L・A・・・”は2百万ドル)のギャラで、コロンビア製作、ルイス・マンドキ監督("男が女を愛する時")のロマンス・ドラマ“アイ・ドリーム・オブ・アフリカ”へ主演を打診されたところです。しばらくは母親業に専念すると言う彼女が、果たしてこれを請けるかどうか?

マット・デイモン(脚本賞)

前回、このコラムで紹介したとおり、脚本ばかりか本業の俳優としてもますます注目を集める活躍ぶり。親友で執筆パートナーのベン・アフレックと“ドグマ”で共演した後、今度は“イングリッシュ・ペイシェント”の奇才アンソニー・ミンゲラ監督作“タレンティッド・ミスター・リップリー”でチャーミングな殺人鬼を演じます。




誰がモデル?

アメリカ南部出身で女好きの知事が大統領に選出されるまでを描いた最新作といえば、ベストセラー小説“プライマリー・カラーズ”の映画化であることは言うまでもないでしょう。ジョン・トラボルタ扮する主人公とエマ・トンプソン("いつか晴れた日に")扮するその賢妻が、クリントンとヒラリー夫人に酷似しているため、見ていると映画のイメージへ現実の大統領夫妻が重なって不思議な効果を醸(かも)しだします。クリントン大統領のインターンゲート・スキャンダルも手伝い、現在ヒット中のこの映画は、新しいTV番組のアイデアを生み出したようです。ワーナーブラザーズが先月(4月)の21日から撮影を始めたTVパイロット(シリーズ化を狙った最初のテスト番組)は、その名もずばり“ムービー・スター”と、ハリウッドのAスター夫婦がキャリアと子育てを両立させる様を描いています。主人公は銀幕上でジョークを連発しながら銃をぶっ放すアクション・ヒーローの良人、そしてTVの人気ソープ(昼メロ)"総合病院”出身で国際的な女優の美人妻とくれば、もう誰がモデルか一目瞭然、ブルース・ウィルスとデミ・ムーアのカップルしかいません。彼らの子供はルーマー、スカウト、タルーラと3人とも珍しい名前ですが、それをもじって“ムービー・スター”では主人公夫妻の子供をムーングロー(月明かり)というあたりまで、ひたすら家庭内をパロディッた内容が注目の的です。番組のセット・デザイナーは僕の友人なので、じっさいWBスタジオを覗(のぞ)きに行ったところ、主演俳優達がブルースとデミの特徴をよくつかみ、表情から話し方までそっくりなのは驚かされました。





カンヌ最前線!


邦画“うなぎ”がグランプリを受賞した昨年度のカンヌ映画祭、第50回という記念すべき祭典のわりには盛り上がらずじまいで終わりました。今年は期待される独立プロダクション作品の他、大手スタジオがスター主演のビッグ・プロジェクトを披露したり、久しぶりで華麗な雰囲気となりそうです。眩しい太陽に包まれたフレンチ・リビエラで5月13日から24日まで開催される恒例の国際映画祭、今年はユニバーサル・スタジオが「台風の目」となりそうです。まず、映画祭の最後を飾る「クロージング・ナイト」の試写は、現在アメリカで上映中のジョン・トラボルタ主演作“パーフェクト・カップル”が決定しました。そして“パルム・ドール"(最優秀映画賞)コンペへは、フランスで絶大な人気を誇るジョニー・デップ("フェイク")主演のテリー・ギリアム監督("12モンキーズ")作“ラスベガスをやっつけろ!”が参加します。その他、以前ご紹介した“黒い罠"(オーソン・ウェルズ監督)のディレクターズ・カット版を初公開したり、待望のブラッド・ピット主演作“ジョー・ブラックをよろしく"(写真)や“ブルーズ・ブラザーズ2000”の特別試写会を開くと、かなりの気合いの入れようです。ライバルのソニーも負けじと、傘下のトライスター製作の夏休みブロックバスター“ゴジラ”を公開したり、その晩はMTV主催で“ゴジラ・サイズ”の超豪華パーテイーを計画中とか。また、ブライアン・シンガー監督("ユージュアル・サスペクツ")の期待作“アプト・ピューピル”やビル・プルマン("ID4")主演の新進ジェイク・キャスダン監督(父親は“再会の時"、"フレンチ・キス”のローレンス・キャスダン監督)作“ゼロ・イフェクト”でコンペの参加も狙っています。ユニバーサルやソニー以外では、今年のコンペ選考委員長を務めるマーチン・スコセッシ監督の“クンダン”を披露するディズニー、“ダーク・シティー”を文字通り「ミッドナイト・スクリーニング(深夜試写)」するニューライン・シネマと、やたら大手スタジオの存在が目立ちます。独立プロ部門では、“イングリッシュ・ペイシェント”のオスカー女優ジュリエット・ビノーシェ主演作“アリス・アンド・マーチン"、インディー(独立プロダクションの略称)の大スター、ハービー・カイテル("ピアノ・レッスン")主演作“エタニティー・アンド・ア・デイ"、そしてミラマックスの全米配給が決定済みの“ベルベット・ゴールドマイン"("トレイン・スポッティング”のイワン・マクレガー主演)といったライナップ・・・・・・さあ、今年コートダジュールを征服するのはインディーか? それともスタジオか? 両者の対決が見ものですね!




(1998年5月1日)

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