フィーバーから20年!?
1977年に吹き荒れたディスコ旋風、そしてその文化を象徴するかのごとく爆発的なヒットとなったのがジョン・トラボルタ主演の“サタデイナイト・フィーバー”でした。僕もポリエステルの3つ揃い(スーツ)ならぬプリント・シャツにパンタロンという出で立ちで、ニューヨークのスタジオ54あたりへ出没してはフィーバッたのを憶えています。それから早20年が経過した現在、あの映画で一躍スターダムに乗ったトラボルタも、その後の長い低迷期間を乗り越え、今やカムバックどころかハリウッド有数の「2,000万ドルの男」まで成長しました。また、れいの透きとおったハーモニーで一世を風靡したビージーズもなかなかの勢いです。最近出したCD“スティル・ウォーターズ”は好調な上、オハイオ州クリーブランドにあるロックンロールの殿堂入りを果たすなど、もはや大御所の域へ達したオーストラリア出身のギブ兄弟(その「Brothers Gibb」の頭文字を取った名前が「Bee Gees」)、グループとして息の長さでは音楽界でも希な現役組といえるでしょう。“スターウォーズ"に負けじと、公開20周年を記念して今秋デジタル・サウンド版特別編“サタデー・ナイト・フィーバー”が上映されるほか、来年4月ロンドンのウェスト・エンドではミュージカル版の公演が予定されています。ビージーズはこのショーのため新曲“イモータリティー(永遠の命)”を書き下ろし、それがカナダ出身のスーパースター歌手セリーン・ディオンの耳にとまって現在レコーディング中。ショーを構成する他の楽曲は、大部分が“ユー・シュッド・ビー・ダンシング”といった映画のサウンドトラックからのディスコ・ナンバーで、そこへ“ワーズ”や“マサチューセッツ”など初期の作品を加えたビージーズ・ヒット・パレードとなるもようです。50代とは思えないバイタリティーで、9月から世界ツアーが始まるこのビージーズといい、白いポリエステル・スーツに身を固め、右手を上げて踊っていた姿とはひと味違う渋い役者へと変貌、主演作“フェイス・オフ”がヒット中のトラボルタといい、20年間のギャップを感じさせない彼らの尽きぬ創作欲には脱帽します。
チャイナ・コネクション
独自の香港スタイル・アクションをハリウッドへ持ち込み、“ハード・ターゲット”と“ブロークン・アロー”で迫力ある映像を楽しませてくれたジョン・ウー監督、今夏のヒット作“フェイス・オフ”ではますます腕の冴えが感じられます。そんな彼の活躍に刺激されたのか、ここしばらく香港パワーは大挙してハリウッド進出を狙っているようです。7月1日の中国返還以来、香港での映画センサーシップが懸念されている状況下にもかかわらず、香港スタジオとの共同製作を企画している新興勢力「フェニックス・ピクチャーズ」をはじめ、“ジョイラック・クラブ”のウェイン・ワン監督のような香港を基盤とした製作会社の設立も目立ってきました。このワン監督のプロダクション「クローム・ドラゴン」では、現在イギリスのアカデミー俳優ジェレミー・アイアンと香港有数の女優ゴン・リーの共演作“チャイニーズ・ボックス”を撮っています。なお、香港映画の代名詞といえばジャッキー・チェン、昨年あたりから彼の香港アクション映画が英語版へ吹き替えられてアメリカでも人気上昇中かと思いきや、残念ながら観客動員数は公開ごとに減っているのが現状です。43歳の彼はアクション・スターとして峠を越した年齢であることなどを考えると、香港映画界の有望株がこれからハリウッドで活躍するとしたら、やはり期待できるのは若手中心のような気がします。そこで有望な香港ヤング・パワーを4人リストアップしてみました。
チョウ・ユンファ
ジョン・ウー監督がハリウッド・デビュー前の傑作“男たちの挽歌”は、ウルトラ・クールなギャング役のユンファが印象的でした。来年の2月に公開されるミラ・ソルビノ("ロミーとミッシェルの場合")との共演作“リプレイスメント・キラー”で、彼の役どころはロサンゼルスに住む殺し屋。持ち前のグッド・ルックスと演技力で苦手な英語を克服し、ぜひともハリウッド・スターになって欲しい俳優です。
スタンレイ・トン
アメリカで公開されたジャッキー・チェンの第一作“レッド・ブロンクス”を監督したトンは、そのコメディックな演出で好評を博しています。今ディズニーが製作しているコメディー“ミスター・マグー”を、レスリー・ニールセン("裸の銃を持つ男")主演で監督中。
ミッシェル・ヨウ
やはりアメリカで公開されたジャッキー・チェンの最新作“スーパーコップ”で、見事な武道の腕前と美貌を披露して注目され、彼女が出演する007シリーズの新作“トゥマロー・ネバー・ダイ”は、現在撮影が進んでいます。この映画をきっかけに国際的アクション女優となるかも?
ウォン・カー・ファイ
カー・ファイの監督したアクション作“チャンキン・エキスプレス”は、鬼才クエンティン・タランティーノが注目し、クエンティン自身の配給会社でミラマックス・スタジオ系列のローリング・サンダーから全米公開されたといえば、そのインパクトの強さは想像いただけるでしょう。また、同性愛者をコミカルなタッチで描いた“ブエノスアイレス/ハッピー・トゥギャザー”が今年のカンヌ映画祭監督賞を受賞し、いまや多くのスタジオから引っ張りだこ!
このようにユニークな人材をハリウッドへ送り込む香港映画界のパワーは、新風を育てようとする業界全体の意気込みだと思います。日本の映画界も早く古びた封建制度を捨て、国際感覚で映画を撮れる人材が育つ環境を創って欲しいですね。
レズビアン・スター
ハリソン・フォード主演で南太平洋のリゾート地を舞台に繰り広げられるラブ・ロマンス“6デイズ、7ナイツ”は、コメディーの天才アイバン・ライトマン("ツイン")監督待望の新作です。独立記念日休暇明けの7月6日からハワイでクランクインしたばかりのこの映画、ハリソンの相手役が“ボルケーノ”で好演したアン・ヘッチとあって、いろいろな憶測を呼んでいます。というのも、4月に同性愛者だと公表したアンは、その後TVの主演番組“エレン”で、やはり自分がレズビアンであることをテーマに高視聴率を稼いだ人気TV女優エレン・ディジェネレスとの恋仲を発表し、話題をさらっているからです。ハリウッド映画界では、彼女の「カミング・アウト(同性愛者が自分の性癖を隠さず世間へ公表すること)」を勇気ある行動と見なす人と、女優としてアンの将来を危ぶむ人と半々の評価だけに、今回のキャスティングは興味を引かれます。当然、彼女とラブシーンを演じるハリソンの心境や、彼女がレズビアンであることを承知の観客へ、その演技ははたしてどこまで説得力を持つかなど、映画の内容と別に楽しめそうです。クランクインの直前、アンとエレンがハワイで挙式という噂まで流れ、製作スタジオのユニバーサルをヤキモキさせたものの、ライトマン監督曰く、ハリソンとの息もピッタリで、アンのプロとしての演技を信頼してあげて欲しい・・・・・・とか!?
ロバーツのお気に入り
ジュリア・ロバーツが“プリティー・ウーマン”以来のチャーミングなキャラクターを演じ、現在ヒット中のロマンチック・コメディー“ベストフレンズ・ウェディング”は、彼女お気に入りロン・バスが脚本を書いています。バスは、これもロバーツ主演でヒットしたサスペンスの傑作“愛がこわれるとき”や、ミッシェル・ファイファー主演の“デンジャラス・マインド/卒業の日まで”などを手がけた売れっ子脚本家で、いま“エントラップメント(罠)”というスリラーの企画を練っているところです。来年早々クランクインのこの作品では、主演のショーン・コネリーとプロデュースも手がけます。監督が、ミュージック・ビデオ畑出身で、下馬評の高い香港のハードボイルド・スター、チョウ・ユンファのハリウッド・デビュー作“リプレイスメント・キラーズ”のアントワン・フクワと、今から話題は多く、間もなくコネリーの相手役の女優が決まりそうです。ともあれ、バスの作品にぞっこんのロバーツは、彼が共同執筆した9月のクランクイン予定作“グッドナイト・ムーン”へスーザン・サランドン("依頼人")と共演するほか、彼の新作“マンハッタン・ゴースト・ストーリー”でも主演します。これはロンが6年前、ロバーツをモデルに書いたユーモアのある美しい幽霊のラブ・ロマンスで、“ジョイラック・クラブ”のウェイン・ワン監督のもと、来年早々クランクインの予定です。ちなみに、“ベストフレンズ・・・”後半のシーンで、ロバーツが乾杯の音頭をとる場面は、リルケの詩を引用した台詞に満足できないバスが、ロバーツ自身へ書かせました。見る者の心を打つ彼女の印象的なシーンは、そんな経緯(いきさつ)がなくては生まれていません。信頼するスターに躊躇なく創作へ参加させる器の大きさ、それがロバーツの尊敬する所以(ゆえん)なのでしょう。
WWUのリバイバル?
“バックドラフト"、"ブローン・アウェイ/復讐の序曲”などを製作し、質の高いメジャー級プロダクションとして伸びてきた「トリロジー(3部作)・エンターテイメント」では、現在“フライング・タイガー”を企画しています。アメリカが第二次世界大戦へ参戦する以前、中国大陸で有名を馳せたこの航空部隊の名称は、ボンバー・ジャケットのブランド名として有名なアビレックスや、鮫を描いた機体デザインでもお馴染みです。今売り出し中のマシュー・マッコナヒー("コンタクト")主演の“フライング・タイガー"、かつての戦争映画で見られなかった「ドッグ・ファイト(空中戦)」シーンが、CGI(コンピューター・グラフィック・イメージ)を駆使して銀幕上へ描き出されるもようです。零戦やグラマンのダイナミックかつリアルな映像は、かつて“スターウォーズ”が画期的な戦闘シーンでわれわれ映画ファンの度肝を抜いたごとく、コンピュータでエンハンス(高質化)されたWWU(第二次世界大戦)の実写フィルムやデジタル・サウンドと相まって、われわれを歴史のバーチュアル・リアリティーへ引きずり込んでくれることを期待しています。また、WWUの映画はこればかりでなく、スティーブン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演の戦争ドラマ“プライベート・ライアン”が撮影の真っ最中なら、日本軍とのガダルカナル戦線を描いたドラマ“シン・レッド・ライン”は、ショーン・ペン("シーズ・ソー・ラブリー")、ウッディー・ハレルソン("ラリー・フリント")、ジョージ・クルーニー("バットマンとロビン")主演という豪華キャストで企画中。そして、ロビン・ウィリアムス("ファーザーズ・デイ")が大戦中のヨーロッパ・ユダヤ人ゲットーのおかしなヒーローを演じる“聖なる嘘つき その名はジェイコブ”は、この夏クランクインです。その他、“ブレーブハート”の脚本家ランドール・ウォレスによるシナリオとアーノルド・シュワルツェネッガー主演で昨年の製作が予定されていながら、未だ始まりそうもない“ウィズ・ウィングズ・アズ・イーグルズ”といった戦争ドラマも控えています。“戦場にかける橋”の1957年度アカデミー賞受賞をピークに、ひと頃の勢いはなくなった戦争映画が、なんだか突然カムバックしたような雰囲気です。とりあえず、ここ数年はハリウッドでWWUのリバイバル・ブームが続くのかもしれません。
(1997年7月16日)
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