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(1998年9月16日)          




帰ってきたロリータ

1962年、監督がスタンリー・キューブリック("シャイニング")、主演が名優ジェームス・メイソン("スター誕生")で評判となった“ロリータ”は、その後、少女を好む性癖「ロリータ・コンプレックス」という新語が生まれただけでも、どれだけ注目を浴びたか想像はつくでしょう。一方、このリメイク版が数年前に製作されたことは、いろいろな事情から陽の目を見ずじまいであったため、あまり知られていません。それが最近ようやく封切られ、論議を醸(かも)しています。リメイク版は、アカデミー受賞男優ジェレミー・アイアン("ダイハード3")扮する中年男フンベルトが、性欲旺盛な14歳の継子(ままこ)ロリータに翻弄される様を克明に描き上げ、テーマはオリジナル同様「小児性愛(ピダフィリア)」です。インターネットの少女ポルノなどが社会問題とされる今の時代背景とはそぐわず、これが劇場公開へ漕ぎ着けるまで大きなネックとなってきました。ブラデミアー・ナボコフが書いた1958年のベストセラー小説を映画化したオリジナルは、主人公の異常な性癖やその犠牲者としてのロリータの姿が、キューブリック監督独特のビジョンで描かれていたのに対し、エイドリアン・リン監督("危険な情事"、"フラッシュダンス")のリメイク版では、主人公の性癖への哀れみ、その心の痛み、「小児性愛(ピダフィリア)」に対する世間の誤った捉え方などへ焦点が当てられており、過去数年間ことごとく配給会社から蹴られたのはわかるような気がします。今回の封切りも、まず最初は大手ケーブルTV局「ショータイム」がワールド・プレミア映画として先月末の放映を決定しました。しかし、それ以前に劇場公開をしなければ、アカデミー候補の資格を失うことは、邦画“シャル・ウィ・ダンス?”が去年のアカデミー候補でいいところまで行きながら、日本のTV放映を理由に没となったのを、ご記憶のかたはおられるでしょう。そんなわけで、大手配給会社との交渉を断念した製作側が、急拠ビバリーヒルズの小劇場「チャッキー・ゴーリー」で上映し、やっと陽の目を見たわけです。リメイク版への僕個人の見解なら、メイソンより大人しい役作りに徹したアイアンのフンベルト像へ同情の余地を覚え、ロリータ役のドミニック・スウェインの明るいニンフぶりにある種の魅力さえ感じます。しかし、大半の観客は美化された「小児性愛(ピダフィリア)」へ反感を抱くようです。ぼかしや影が巧妙に駆使された問題のセックス・シーンは、見方次第で芸術的とも未成年ポルノ的ともいえなくありません。また。僕の好きな女優メラニー・グリフィスが、夫と娘の関係に動揺する妻と母親役を好演しています。ともあれ、ケーブルTVのプレミアは話題性が候を奏したのか高視聴率を上げ、中堅配給会社ゴールドウィンも今秋の全米公開に合意すると、“帰ってきたロリータ”へ明るい兆しが見えてきました。昔から「お小姓」や「側室」という制度で「ロリータ・コンプレックス」はお馴染みの日本文化、その中で育った映画ファンの目にこの映画がどう映るか、なかなか興味深いですね!





「殺人」スケジュール

以前、このページの「新企画情報」でご紹介した超売れっ子脚本家ケビン・ウィリアムソン、彼の書いたお洒落(ヒップ)なホラー映画“スクリーム1&2”や“ラスト・サマー”は若者の間で一大ブームを巻き起こしました。そして、公開が迫る“ラスト・・・”の続編や、'90年代の青春を描いて若者の心を掴んだ人気TVシリーズ“ドーソンズ・クリーク”のプロデューサーとして、今やハリウッド屈指の「やり手(プレイヤー)」です。彼の脚本で先月(8月)中旬封切られた“ハロウィーン・H20"(写真)は、ジョン・カーペンター監督("エスケープ・フロムL・A")の1978年度作、19歳のジェイミー・リ・カーティス("トゥルー・ライズ")が主演して当時のヤングを震撼させた“ハロウィーン”の20周年記念版で、今回はナイス・ミドルとなったジェイミー扮するローリー・スティロードと彼女の娘が、例の“白顔の殺人鬼”マイケル・マイヤーズから狙われます。ヒッチコックの名画“サイコ”で一世を風靡したジェイミーの母親ジャネット・リーの出演も話題を呼んでおり、オリジナルの成功以来、続編の多くは駄作といえる“ハロウィーン”フランチャイズを、ケビンのホラー・センスがどう救うか見ものでしょう。ここしばらく多忙なケビンは、自作の脚本を初監督したホラー映画“キリング・ミセス・ティングル”を撮り終えるや、ノースキャロライナ州の“ドーソンズ・クリーク”ロケ地へ直行、精力的にプロデュースを務めています。麻薬(ドラッグ)とセックスが絡む“今風の青春”を明るくオープンな描写で人気の“ドーソン”だけに、ケイティー・ホルムズ("ディスタービング・ビヘイビアー")やジェームス・バン・ダー・ビーク("ミステリー・アラスカ")といった番組主演者たちも、(収録の)夏休みを利用して映画スターへの道を歩み始めているほどです。また、10月にはケビン自身が考案した新シリーズ“ウェイストランド(WasteLAnd)”という“ロサンゼルス(L・A)”と“荒廃地(Waste Land)”を引っかけた題名のパイロット(テストを兼ねたシリーズ第1作)の製作を始める予定で、内容はL・Aのヒップな若者グループの生き様を描いた、いま人気の大人向けドラマ“メルローズ・プレイス”っぽいドラマ。そして、12月に入るとエライジャ・ウッド("ディープ・インパクト")主演、ロバート・ロドリゲス監督("フロム・ダスク・ティル・ドーン")のスリラー“ファカルティー”が公開され、こちらは'80年代の青春を描いた名作“ブレックファスト・クラブ”とホラー・サスペンスの名画“SF/ボディ・スナッチャー”を掛け合わせたような作品らしく、ケビンの本領発揮が期待されます。1999年の年明けは、ケビン初の30代ドラマ“ハー・リーディング・マン”がシカゴでクランクインする予定で、この作品を通じ、どちらかといえば悲観的な'90年代の恋愛感を新しい角度から捉えたいそうです。ティーン文化の「総帥(グルー)」的存在のケビン、はたして大人の世界は拍手で彼を迎えるかどうか? その他、1999年のクリスマス公開を目指して企画中の“スクリーム3”の脚本執筆と、文字通り「殺人」スケジュールが当分続きそうな気配に、ひょっとしたら本人は心の中で悲鳴を上げているかもしれませんね!?





WWUブーム

先月(8月)封切られた“セイビング・プライベート・ライアン"(写真)は、幕開けの週末興行成績が3,000万ドルを越え、今年のトップ“ゴジラ"(5,500万ドル)に次ぐ快調な滑り出しを見せました。期待を上回る「戦争巨編(エピック)」の大成功は第二次世界大戦のリバイバル・ブームへ火を点け、ますます「戦争もの」の企画が目立つハリウッドです。まず、ジェームス・ジョーンズの小説を映画化した20世紀フォックス作品“シン・レッド・ライン”は、巨匠テレンス・マリック監督が“天国の日々"(主演リチャード・ギア)以来20年ぶりでメガホンをとり、ショーン・ペン主演、ジョン・トラボルタ、ジョージ・クルーニー("アウト・オブ・サイト")、ウッディー・ハレルソン("ラリー・フリント")他の共演と、オールスター・キャストで繰り広げられる戦下のドラマ、クリスマス・シーズンを狙って12月11日に封切られます。その他、かつての人気TVシリーズ“コンバット”の映画化(主演ブルース・ウィリス)や、アーノルド・シュワルツェネッガーが暖めてきた企画“ウィズ・ウィングス・オブ・イーグルズ”などの大型プロジェクトをはじめ、企画中の「戦争もの」はザッと見て10本以上あります。中でも話題となっているのが、1942年の実話を脚色したマイケル・ダグラス主演のユニバーサル作品“U-571”です。大西洋の諜報危機がテーマのこの映画、ドイツ戦争映画の名作“Uボート(1981年)”のリアルなセットを造り上げたプロダクション・デザイナー、ゴッツ・ウェルドナーと組んだジョナサン・モストウ監督("ブレイキダウン")は、イタリアのマルタ島沖へ400トンのUボートのセットを再現するという“タイタニック”並の気の入れようで、11月にクランクインします。また、今年のサンダンス映画祭で最も注目された映画“π”の若手監督ダレン・アロノフスキーを抜擢したのがディメンション(ミラマックスの特種レーベル)作品“プロテウス”で、大戦中のアメリカ海軍潜水艦の中で起こる怪奇スリラーです。ドリーム・ワークスの企画する“サンダー・ビロー”は、85隻以上の日本海軍船艇を沈めたといわれる実在のアメリカ軍潜水艦がモデルと、ハリウッドはリバイバル・ブームの真っ盛り。火付け役となった“セイビング・・・”など、ノルマンディー上陸作戦の場面がリアルすぎて予想外のハプニングまでありました。というのは、従軍経験のある退役軍人の多くが「蘇った感触(フラッシュバック)」で悩まされた結果、政府は特別のホットラインを設けて彼らの精神安定に務めています。2時間45分という異例の長さながら、老若男女を問わず名画の呼び声が高く、早くもオスカー確実と噂の“ライアン一等兵救出作戦"、中には画面の迫真度や込み上げる感情に耐えきれず、席を立つ老人も少なくありません。今後、当分続きそうな戦争映画ラッシュが、お互いの命を尊ぶことの大事さを教えてくれますよう・・・・・・





聖林ファッション

映画の主人公が颯爽(さっそう)と着こなす服装や装飾品に触発されたファッションを提供し続けるのは、昔から聖林(ハリウッド)の典型的パターンでした。そして、現在「シネマ・シーク(映画ファッション)」の最先端をいくのが、先月(8月中旬)公開されて評判のリメイク版“アベンジャーズ”といえるでしょう。その斬新なレトロ調の衣装は、ハリウッド・ファッションで高名なアパレル・装飾品通販ブティック「J・ピーターマン」の最新カタログで、さっそく紹介されています。このウマ・サーマン扮する“アベンジャー”の女性エージェント、エマ・ピールが着用した黒革のキャット・スーツ(写真)の複製(レプリカ)は価格が2,000ドルで、ご覧のとおり謳い文句も“Only Slightly Perverse(ちょっぴり意地悪)”と挑発的です。サイズは4、6、8の他、10から12の特大を注文(オーダー)することが出来ます。また、カジュアル・ブランドで知られる「ベベ」は同様のキャット・スーツ(キャンバス地)を168ドルで販売し、カルビン・クラインがデザインしたエマ愛用のサングラスは「サングラス・ハット」というチェーン店へいくと180ドルで買えます。なお、J・ピーターマンの「ハリウッド伝説(レジェンド)」シリーズで目玉商品となった“タイタニック”風装身具は、映画が封切られるより早く売り切れる盛況ぶりを示し、今後は“L・Aコンフィデンシャル”風ドレスなども発表してゆく予定だとか。ハリウッドが誕生して以来、「映画のヒロイン」は世の女性たちから憧れの的であり、そこへ自分をオーバーラップさせてイメージする観客の心理が、“ヒロインと同じ格好をしたい”願望を抱かせるようです。その願望は、もはや単なる憧れの世界を超え、商業ベースでどんどん広がっています。


巨匠黒沢明の冥福を祈る

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(1998年9月16日)

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