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(1999年4月16日)
ベニーニ旋風
"恋に落ちたシェイクスピア”が本命“プライベート・ライアン”を抜いて最優秀作品賞を受賞するなど、番狂わせの多かった今年のアカデミー授賞式のハイライトは、なんといっても最優秀外国映画賞に加え、アカデミー史上初めて外国映画で主演男優賞を射止めたロベルト・ベニーニの熱狂的な歓喜の姿でした。会場の椅子の上を満面で飛び回る彼の素直な反応は、気取り屋の多いハリウッドへ新風を吹き込んだ感さえあります。トム・ハンクス、ニック・ノルティー、イアン・マッケレンというそうそうたる大スターを押さえた受賞だけに、ハリウッドが彼の才能へ新たな興味を抱き始めたことは間違いありません。ベニーニが1994年に主演したコメディー“モンスター”は、なんでもこなす器用な男が連続殺人犯の容疑を受けるコメディーで、そのビデオ版の発売とアメリカ版の製作(ベニーニは主演しない模様)が同時進行している他、類を見ない彼の「ドタバタ喜劇」のセンスを活かした映画数本も企画されています。イタリア、トスカーニ地方出身で今年46歳のベニーニ、ベルナルド・ベルトリッチ監督("ラスト・エンペラー")の1979年度作“ルナ”以来、ジム・ジャームッシュ監督("ミステリー・トレイン")の“ダウン・バイ・ロー(1986年)”や“ナイト・オン・ザ・プラネット(1991年)"、そして巨匠フェデリコ・フェリーニ監督の“ボイス・オブ・ムーン(1990年)”や“ライフ・・・”同様妻ニコレッタ・ブラスキーとの共演作“ジョニーの事情/JOHNNY2(1991年)"、"ピンク・パンサーの息子(1993年)”といったコメディーへ主演し、イタリア屈指のスターに成長したのです。オスカー受賞を機に、抱腹絶倒のベニーニの世界をビデオでチェックしてみるのも面白いかも。また、受賞作“ライフ・・・”の英語吹き替え版は、現在英語を特訓中のベニーニ自らの声で間もなく製作されます。
シェイクスピアは人気者!
ハリウッドで数々の映画が取り上げてきた文豪シェイクスピアの作品は、著者自身の情熱的な青春時代を描いた“恋に落ちたシェイクスピア”が今年のアカデミー賞で作品、脚本、主演、助演女優、その他7部門で受賞したこともあり、このところブームとなっています。従来、シェークスピアの映画化は「長くて退屈な台詞」と「古くて格式張った骨董品のような英語」がネックとされているのを、時代設定や内容を現代の若者向けにアレンジし、新たな悲喜劇として生まれ変わった作品群・・・・・・まず、先月(3月)末の封切り作“テン・シングス・アイ・ヘイト・アバウト・ユー(写真)”は喜劇“じゃじゃ馬馴らし”を高校へ舞台を置き換えたティーン向け映画で、監督がTV畑出身の新人ギル・ジャンガー、主演は17歳の人気女優ジュリア・スタイルズ("デビル")と、なかなか斬新なシェイクスピア映画です。そして、5月に封切られるのがミッシェル・ファイファー、ケビン・クライン("イン・アンド・アウト")、カリスタ・フロックハート(TV番組“アリー・マクビール")共演の“真夏の夜の夢”で、10月にはこれまたジュリア・スタイルズ主演で“オセロ”の現代版“O”が封切られ、年末はアンソニー・ホプキンス、ジェシカ・ラング("沈黙のジェラシー")主演作“タイタス・アンドロニカス"、年明けはイーサン・ホーク("ガタカ")、ビル・マレー("ラシュモア")共演でニューヨークを舞台にした現代版“ハムレット”と続きます。監督も兼ねたケネス・ブラナ("相続人")とアリシア・シルバーストーン("ブラスト・フロム・パスト")の共演作“恋の骨折り損”たるや、1930年代のアメリカが舞台となったミュージカル仕立てで、曲はコール・ポーター、ジョージ・ガーシュウィンなど現代アメリカ音楽の巨匠が書いた作品を使う凝りよう。そんな「ヤング・シェクスピア・ラッシュ」のハリウッド、あの世からこの突然異変を見た本人は、さぞやご満悦!?
'70年代、一連の黒人アクション映画が一世を風靡した“ブラックスプロイテーション”ブーム同様、今ハリウッドではティーン俳優のティーン向け企画“ティーンズプロイテーション”ブームが本格的に巻き起こっています。2年前の“スクリーム”の大ヒットが皮切りとなり、今年も2月封切りの高校フットボール映画“バーシティー・ブルース”や高校シンデレラ・ストーリー“シーズ・オール・ザット"、また“シーズ・・・”と同じくフレディー・プリンズ・ジュニア("ラスト・サマー")主演で3月封切りのSF戦闘映画“ウィング・コマンダー"、往年のティーン・ホラーの名作“キャリー”続編“レイジ/キャリー2"、サラ・ミッシェル・ゲラー(人気TVシリーズ“バフィー・ザ・バンパイア・スレイヤー")とライアン・フェリーペ("54")主演のティーン殺人スリラー“クルエル・インテンションズ"、先の現代版シェークスピア“テン・シングス・アイ・ヘイト・アバウト・ユー"、クレア・デインズ("レインメーカー")、ジオバニ・ルビシ("プライベート・ライアン")主演で'60年代の人気TVスパイ番組“マッド・スクアッド”の映画版と、その勢いは留まるところを知りません。ハリウッドの各スタジオが熱い視線を注ぐ「ティーン市場」、これから秋へと封切りを控えた作品は、まだまだあります。ざっとご紹介すると・・・・・・
ヤング・ジェネレーション
フレディー・プリンズ・ジュニア
リース・ウェザースプーン
4 月 “25年目のキス”(20世紀フォックス)
女性記者となった女性(ドリュー・バリモア)が取材で高校生活へ逆戻り、もてないティーン時代を再び経験した結果は?
“エレクション”(パラマウント)
生徒会選挙の激戦に立候補した女性徒("プレゼントビル”のリース・ウェザースプーン)と歴史科教師("ゴジラ”のマシュー・ブロードリック)が巻き起こすドラメディーです。
“ゴー”(コロンビア)
話題作“スウィンガー”でデビューしたダグ・ライマン監督の新作で、ラスベガスを舞台に、失敗した麻薬取引へ荷担するレジ係("ディスタービング・ビヘイビアー”のケイティー・ホルムズ)の冒険を描いたライトタッチの犯罪ドラマ。
5 月 “アメリカン・パイ”(ユニバーサル)
いま一番ティーン層が心待ちにしているといわれるこの映画は、「プロム(高校卒業記念パーティー)」の日まで童貞を失わなければ死ぬ約束を交わす4人("シーズ・オール・ザット”のクリス・オーウェン他)のエピソードを描いています。
6 月 “デザート・ブルー”(サミュエル・ゴールドウィン)
プールのある公園を夢見るカリフォルニアの田舎町と、住人である若者の情熱がテーマのロマンチック・コメディーで、主演は“アダムズ・ファミリー”のクリスティーナ・リッチー。
“ビッグ・ダディー”(コロンビア)
女性にもてたくて養子をもらうアダム・サンドラー("ウェディング・シンガー")演じる普通の男の奇想天外な子育てコメディーです。
ケイティー・ホルムズ
ニック・スタール
7 月 “ディック”(コロンビア)
ホワイトハウス見学ツアーの途中で迷子になった2人のティーン・ガール("スモール・ソルジャー”のクースティン・ダンストと“ハロウィーンH2O”のミッシェル・ウィリアムス)から見たウォーターゲート事件の内幕を描いたコメディー。
“キリング・ミセス・ティングル”(ディメンション)
高校教師殺害事件がモチーフとなったコミック・スリラーで、主演は人気絶頂のケイティー・ホルムズ、“スクリーム”のケビン・ウィリアムソンが初めて監督を務めます。
“デトロイト・ロック・シティー”(ニューライン)
去年12月の「新企画情報」でもご紹介したこの映画は、'70年代後半のアメリカでキスのコンサート入場券を探し求める若者("ターミネーター2”のエドワード・ファーロング)のドラマです。
8 月 “ウッド”(パラマウント)
L・A空港から近いイングルウッドの中流階級家庭で育った黒人ティーン("スクリーム2”のオマー・エップス)の成長を描いた青春もの。
“アウトサイド・プロビデンス”(ミラマックス)
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ロードアイランド州でエリート校へ進学した労働者階級出身のティーン("ポストマン”のショーン・ヘイトシー)が、目前に立ちはだかる壁を乗り越えてゆく学園(キャンパス)ドラマ。
“ドロップ・デッド・ゴージャス”(ニューライン)
テーマは片田舎のミス・ティーン・コンテストのどぎつい舞台裏で、“ワイルド・シング”のデニース・リチャーズが主役を演じます。
9月以降 “O”(ディメンション)
舞台を現代の高校スポーツ界へ置き換えたシェイクスピア悲劇“オセロ"。
“サンセット・ストリップ”(20世紀フォックス)
'70年代の初期、売春婦やストリップ劇場が犇(ひし)めくサンセット大通りの栄華を、ニック・スタール("シン・レッド・ライン")主演で描いたレトロ調ドラマです。
“ライト・イット・アップ”(20世紀フォックス)
都会の片隅で起きた不慮の発砲事故がきっかけとなり、警官を捕虜に立てこもる高校生たちの緊迫したドラマで、主演はR&Bの大スター、アッシャー。
ダウンタウンは大騒動!!
ロサンゼルスを訪れた日本人なら誰もが一度は足を運ぶリトル東京、そこからわずか数ブロック離れたメイン通りがホームレスのたむろする危険地帯であることはよく知られています。この荒(すさ)んだ風景を映画へ活かそうと、最近も立て続けにロケが行われ、たまたまメイン通りと5番街の交差点でメル・ギブソン主演ヴィム・ヴェンダース("夢の涯てまでも")監督のミステリー“ミリオン・ダラー・ホテル”を撮っているのを覗(のぞ)いたところ、なんとも異様なムードで驚きました。深夜の交差点は撮影用の照明がこうこうと照らし出し、ガードマンは「騒音で寝られない」と騒ぐホームレスたちを制止しようと懸命なのです。映画そこのけの雰囲気の中、険悪な空気がエスカレートしたあげく、とうとうホームレスたちの怒りは爆発します。撮影クルーめがけてゴミや空き瓶ばかりか麻薬用の注射器まで、そこらじゅうの物を投げつけるのを、ようやくスタッフが現金を握らせて事なきを得ました。しかし、楽屋のトレーラーを出てセットに向かうメルの周りは3人のボディーガードが固めるなど、物々しい撮影となった上、騒ぎが収まり、準備の整ったセットで撮影を始めようとしたクルーの頭上へ、今度は大型ヘリコプターが登場して度肝を抜きます。エンジンの爆音もけたたましく飛び交い始めたヘリコプターには地上から派手な照明が当たり、なにやら無線会話らしき声まで聞こえてくるではありませんか! 間もなく、同じダウンタウンで撮影を進めていたアーノルド・シュワルツェネッガーの新作アクション“エンド・オブ・デイズ”がその犯人とわかって一件落着、彼らは「フライ・バイ」と呼ばれるヘリコプターの飛行場面を撮っていたというわけです。いろいろとハピニングがあったセット訪問で思ったのは、価値観の違いといおうか、人々が立ち止まって見ようとする華やかなハリウッド映画の撮影現場も、都会の片隅に一時の憩いを求めるホームレスへはたんなる迷惑でしかないのかもしれませんね!?
(1999年4月16日)
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