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(1997年9月16日)          




期待の秋!

莫大な予算と比べて意外に内容の乏しい作品が多かった今年の夏休みシーズンながら、結果は予想以上の数字を出して幕を下ろしました。その波に乗り、早くも派手な予告編で話題をさらっている作品群が、これからコロンブス・デイ、ハロウィーン、そして感謝祭と祭日の続く秋のシーズンを控えて待機しています。昨年度、オスカー最優秀作品賞にノミネートされた5作のうち4本、あるいは各演技賞20のうち17までが9月初めの労働祭休暇以後に封切られた作品でした。いわば本格的オスカー・レースの幕開けともいえるシーズン到来です。その中から、僕の期待する作品を封切り日の順を追って何本かご紹介しましょう。


“ゲーム”(9月12日公開)

億万長者(マイケル・ダグラス)が弟(ショーン・ペン)から貰った誕生日プレゼントは、何と生死を賭けた過酷な精神ゲームでした。金持ちでしかプレイできない、その奇妙かつ残酷なゲームとは・・・・・・当初、ジョディー・フォスターが妹役を演じるはずで一悶着あったこの作品、監督は“セブン”で異様な殺意の世界を描いたデビッド・フィンチャー、ダークなスリラーに仕上がっています。(関連記事: 「1996年8月16日最新情報」)

“L・Aコンフィデンシャル”(9月19日公開)

原作はジェームズ・エルロイのベストセラー小説、'50年代のハリウッドが舞台となった犯罪ドラマです。カーティス・ハンセン("激流")監督のスタイリッシュな意欲作で、主演はケビン・スペイシー("ユージュアル・サスペクツ")とダニー・デ・ビート("マーズ・アタック")。また、キム・ベーシンガーがフッカー(娼婦)役で3年振りに銀幕へ登場します。内容は黄金時代のハリウッドで起こる殺人事件をとおして、ロサンゼルスの汚れた素顔を冷酷な刑事が暴いてゆくサスペンス。

“イン・アンド・アウト”(9月19日公開)

数年前、トム・ハンクスが“フィラデルフィア”の主演でオスカーを獲得した時、高校時代、演劇を教わったゲイの先生へ感謝の意を述べました。それをモデルに、この映画は己の性的選択を見つめる勇気がテーマとなったコメディー・タッチのヒューマン・ドラマ。昔の教え子(ブラッド・ピットを真似たような金髪のマット・ディロンへ注目!)からカミング・アウト(ゲイの公表)されたのをきっかけに、自分がゲイであることを認識した中西部の演劇教師("フレンチ・キス”のケビン・クライン)は、同僚教師との結婚を破棄し、冷たい世間の目も省みず自分の道を歩もうと決心します。彼を取材するニュース記者("ミスター・ベースボール”のトム・セレック)との熱烈なキス・シーンなど、話題騒然の野心作です。

“ピースメーカー”(9月26日公開)

スピルバーグ監督のスタジオ、ドリーム・ワークス初製作映画ということで話題を集めていますが、マイケル・シファー("クリムソン・タイド")の緊迫した脚本を、TV畑出身の女性ミミ・リダーを抜擢して初監督させたことでも興味をそそられます。バットマンは今一だったジョージ・クルーニー扮する陸軍諜報員とホワイトハウス核兵器密輸阻止班のニコール・キッドマン("ある貴婦人の肖像")が、国連ビルを核爆破しようと企てる東欧テロリストからアメリカを守るというアクション・スリラー。カーチェイスは勿論のこと、列車脱線あり、ヘリ空中戦ありの娯楽作品です。

“Uターン”(10月3日公開)

当初、シャロン・ストーンとビル・パクストン("ツイスター")主演でクランクインしたオリバー・ストーン監督("ニクソン")のこの犯罪ドラマも、紆余曲折を経てジェニファー・ロペス("アナコンダ")と多忙極まりないショーン・ペン("シーズ・ソー・ラブリー")の主演で落ち着きました。砂漠の町の見知らぬ住人にヒットマンとして雇われた(ペン扮する)流れ者が、事件の渦中へと巻き込まれてゆく小説“ストレイ・ドッグ/野良犬”の映画化で、機密を守るため小説のほうは出版を遅らせるというストーン監督らしいエピソード付き。(関連記事: 「1996年11月1日最新情報」「1996年12月16日最新情報」「1997年3月1日最新情報」「1997年5月16日最新情報」)

“相続人”(10月3日公開)

まだ現役の弁護士時代、無名であったジョン・グリシャム("評決のとき")の書いた脚本を映画化したものです。“ハムレット”の英国俳優ケネス・ブラナ演じる弁護士は、浮気相手の女性が過去に秘めた父親との近親相姦という事実と直面し・・・・・・ロバート・アルトマン("プレイヤー")監督の勇気ある抜擢から“シンドラーのリスト”でナチス将校(レイフ・ファインズ)付メイドを好演した新人エンベス・ダビッツや、ドラッグのリハビリを終えたばかりのロバート・ダウニー・ジュニア("恋の闇 愛の光")のキャスティングを巡って揉(も)めたスリラーだけに、下馬評は今ひとつ。(関連記事: 「1997年6月16日最新情報」)

“セブン・イヤーズ・イン・チベット”(10月8日公開)

ブラッド・ピットが主役を熱望して獲得したこの映画は、オーストリア人山岳家のヒマラヤ登頂の夢から捕虜収容所脱出、そして幼いダライ・ラマとの7年間に渡る友情を描いた話題作です。監督が“愛人/ラマン”で繊細な演出を披露したジャン・ジャック・アノー、彼はインドでの撮影を断念し、アルゼンチンへ200人のチベット僧を移動してヒマラヤの集落を再現しました。魂の触れ合いがテーマとなった今秋の目玉作品の1つです。(関連記事: 「1996年7月16日最新情報」「1997年3月1日最新情報」「1997年7月1日最新情報」)

“プレイング・ゴッド”(10月17日公開)

正月公開の予定が遅れた“Xファイル”の人気俳優、デビッド・デュカブニー初主演映画。マフィアのメンバーを治療したことから犯罪組織に係わってしまう医師のジレンマを描いたスリラーで、製作スタジオは当初のコロンビアからディズニー系のタッチストーンへ変更されたり、最後に改心する役柄を巡ってデュカブニーの不満が爆発するなど、いろいろと問題を抱えた作品です。(関連記事: 「1996年12月1日最新情報」)

“普通じゃないの”(10月24日公開)

“トレイン・スポッティング”で新鮮な才能を発揮したダニー・ボイル監督と、次期“スターウォーズ”のニュー・ヒーロー、オビ・ワン“ベン”カノービ役を射止めたイワン・マクレガーが、またまた一緒に楽しませてくれるロマンチック・コメディー。解雇された掃除夫(マクレガー)は怒り狂ってボスの美人娘(キャメロン・ディアス)を誘拐し、逃亡の旅が始まります。その結果、彼らを恋人同士に仕立てようと必死の天使2人(ホリー・ハンターとデルロイ・リンド)から追跡される羽目と・・・・・・ヤング・ブリッティシュ・パワー期待のハリウッド・デビュー作です。

“スターシップ・トルーパーズ”(11月7日公開)

“ロボコップ"、"氷の微笑”などのヒット作を手がけたオランダ人監督ポール・ベーホーベンが、製作予算9,000万ドルのほとんどをSFX(特撮)に費やし、ロバート・ハインラインのSFクラシック小説を映画化しました。無名のキャスト陣ながら、巨大な虫の軍団と戦う若き地球軍の勇姿はなかなかの迫力で、近接未来という時代設定へ「戦争映画」独特のロマンと憂愁を盛り込んだブロックバスター候補作。(関連記事: 「1996年8月1日最新情報」「1996年11月16日最新情報」)

“マッド・シティー”(11月7日公開)

もともとウィスコンシン州マディソン市を舞台にした人質ドラマから名づけられた題名ですが、スタジオ撮影を望むコンスタンタン・コスタ・ガヴラス("背信の日々")の希望で、架空の都市カリフォルニア州マデリンとなり、ハリウッドへ街のセットを建設して製作されました。ジョン・トラボルタ演じる美術館警備員は解雇に怒り、誤って同僚へ発砲したあげく、3日間人質と立て篭(こ)もります。これが、じつは貪欲なTVレポーター(ダスティン・ホフマン)の仕組んだ巧妙な罠で・・・・・・というスリラー、冥(くら)いストーリーを名優2人がどう盛り上げるかが見ものでしょうね!(関連記事: 「1996年11月16日最新情報」)

“ジャッカル”(11月14日公開)

1973年度のヒット作“ジャッカルの日”を現代風にアレンジしたこのサスペンス・ドラマ、物語の設定は少し違って、謎の殺し屋(ブルース・ウィルス)がアメリカ人高官暗殺を企んでいるとの情報を得たFBIは、彼をよく知る服役中のIRAテロリスト(リチャード・ギア)を使って逮捕を計ります。“ロブ・ロイ/ロマンに生きた男”で革命戦士像を見事に描いたマイケル・ケイトン・ジョーンズ監督が2大スターの魅力を活かし、ローラー・コースターのスリルを堪能させてくれる作品です。ハリウッドを代表するアクション・ヒーローのブルースは、どう「ワル」を演じるかが注目の的。(関連記事: 「1997年1月1日最新情報」)

“ワン・ナイト・スタンド”(11月14日公開)

脚本は“ショーガール”が散々だったエロチック・スリラーの本家ジョー・エスタハス("氷の微笑")、監督は“リービング・ラスベガス”で冥(くら)い人生の哀愁を見事に描いた鬼才マイク・フィッグス、題名通り「一夜の出来事」がきっかけとなって展開するサスペンス・ドラマです。L・A(ロサンゼルス)の優秀な広告マン("マーダー・アット・1600”のウェスリー・スナイプス)は、ニューヨークで知り合った女性("ターミナル・ベロシティー”のナスターシャ・キンスキー)と一夜の浮気を楽しんだ後、何も知らない妻("ジョイラック・クラブ”のミンナ・ウェン)のもとへと帰ります。そして1年後、彼女に再会したことから深刻な事態へ・・・・・・またまた、浮気好きの中年を震え上がらせる映画の出現かも?(関連記事: 「1997年5月16日最新情報」)

“エイリアン/復活”(11月26日公開)

前作で死亡した主人公リップリー(シゴニー・ウィーバー)をDNAクローニングで蘇らせたシリーズ第4弾。彼女の体内で死んだ女王蜂ならぬ女王エイリアンを復活させるべく、悪徳科学者たちによってクローニング化されたリップリーと、新登場のサイボーグ("クルーシブル”のウィノーナ・ライダー)が、例の恐ろしい怪物と対決するお馴染みSFアクション。前回は丸坊主のリップリーも、今回はセクシーなアクション・ヒロインとして大活躍です。(関連記事: 「1996年8月1日最新情報」「1997年4月16日最新情報」)

この中からアカデミー候補作が出る可能性大なだけ、興味はひとしおです。しかし、“読書の秋”でもあり、映画鑑賞の傍ら、わがハリウッド最前線「ブルーページ」もお忘れなく! ちなみに、ブックストアー「晴遊雨読」のページでお届けするオンライン・ノベルは現在フィクション9冊に増え、エッセイ集および小咄集もお楽しみいただけます。





ロケ地の明暗

昔から片田舎の小さな町での撮影を好むハリウッドは、古くは“スミス都へ行く”から最近の“フェノミナン”まで、リトルリーグ野球やのんびりムードが売り物のスモール・タウン・ライフを背景に数々の名作を撮ってきました。そこで、最近撮影を終えた話題作2本を、それぞれロケ先での評判へスポットを当て、明暗を浮かび上がらせてみましょう。まず最初は、ロバート・レッドフォード監督主演、ベストセラー小説の映画化で注目される“モンタナの風に抱かれて”です。マンハッタンに住む家族が都会から西部へ移住するこのドラマは、ビッグ・ティンバーというモンタナ州の小さな町(人口1,600人)でロケが始まりました。200人を超すクルーは全員、現地到着前にモンタナ流の作法や生活様式などのマニュアルを渡されるなど、万全の態勢を整えた上でクランクイン。レッドフォードはじめ、キャストやスタッフの地元への心遣(こころづか)いや彼らの親しげな態度が効を奏し、現地の完全サポートのもと撮影は無事終了したようです。エキストラやPA(Production Assistant/雑用係)の現地雇用で、製作費8,500万ドルの一部が地元経済に貢献したり、住民の心と触れ合うプロダクションの結果、スタッフは名残惜しまれながらモンタナを去ったとか・・・・・・もう1本がケビン・コスナー監督主演の“ポストマン”で、ワシントン州メタリン・フォールズというカナダ国境近くの村(人口230人)へ、核戦争後の荒廃した近未来風景を設定して撮影されました。そもそも、選択の理由は脚本にある架空の町バウンダリー・ダムと似ていることや、自然の荒野が魅力ながら、町中暗いガラスを張り巡らし、所狭しとスプレイされたグラフィティ・ペイントは、地元民にとっていい迷惑です。その中で数ヶ月もの生活を強いられた彼らが、とうとう騒音と前代未聞の交通渋滞にギブアップ! 製作スタジオのワーナーブラザーズは慌てて地元のアシスタントを雇い、彼らとスキンシップを計ったものの後の祭りでした。撮影状況の事前の警告があったとはいえ、当初数週間の約束が2ケ月に延びたこと。キャストは地元でなく近隣の大きな町で滞在したこと。300人を越すスタッフが現地の食堂施設を利用せずケイタリングで賄ったこと。これらも、地元民の怒りをかった原因でしょう。撮影終了直後、追われるようにワシントンを引き払ったコスナー軍団、英雄扱いされたレッドフォード陣営とはっきり明暗を分けてしまいました。やはり何処であろうと、大事なのは“人との絆”という次第!?





昨日の敵は・・・・・・?

物語にはヒーローやヒロインがいれば、その敵もいなくてはなりません。銀幕上で君臨した悪者たちといえば、世界を脅かす「コロンビアのドラッグ・キング」や「アラブ系テロリスト」から「恐怖のエイリアン」まで、ありとあらゆるパターンがいます。全体の流れとして、戦後はドイツ一辺倒、時たま日本も入ったワン・パターンが、冷戦の深刻化と平行してソ連へとバトンタッチ、このパターンはベルリンの壁が崩れるあたりで影を潜めました。最近、ハリウッド映画の「ワル地図」は、こうした往年の仇であるロシア人と中国人が塗り替えつつある感がなきにしもありません。今では遠い昔となった冷戦たけなわの頃、ハリウッド定番のワルであったソ連共産主義やKGBも、1991年のソ連解体以来、“Political Correctness(政治的誠実さ)”の嵐が吹き荒れたアメリカでは、映画で変に描こうものなら、当事者の民族や政治集団がデモをするという風潮で、“トゥルー・ライズ”などその好例でしょう。“トゥルー・・・”は核ミサイルで合衆国を破壊しようと企てる架空のクリムソン・ジハドというテロリスト集団が登場しますが、その典型的な描写に怒ったアラブ系アメリカ人は至る所でデモを敢行し、映画のボイコットを訴える始末となったのです。以来、ハリウッドが特定の人種を刺激しない悪者像を模索する傾向は、わかるような気がします。たとえば、ヒット作“エアー・フォース・ワン”で登場するロシア人テロリストは、帝国主義のため汚れきったロシアへ昔の栄光を呼び戻そうとする一風変わった集団でした。また、間もなく公開されるドリーム・ワークス・スタジオ第1作“ピースメーカー”でバルカン半島を拠点とするテロリストも、金で雇われた軍人という設定なのも、ハリウッドの気遣(きづか)いが窺(うかが)われます。古くは007ムービーの傑作“ロシアより愛をこめて”や“ゴールドフィンガー"、そして最近の“クリムソン・タイド”や“セイント”まで、旧ソ連を含めた古いロシア体制が「ワル」の対象として描かれてきましたが、最近は同じロシアでも、現実のニュースで話題を集めるロシア・マフィアへと焦点が移ってきました。“ジャッカル”では、ロシア・マフィアに雇われてアメリカ人高官を暗殺しようとする殺し屋テロリスト(ブルース・ウィルス)が暗躍し、“ブルーズ・ブラザーズ・2000”ではロシア人ギャングから追い回されるミュージシャンと、旧コミュニストへの怨念はまだまだ消えそうにもありません。一方、天安門事件やチベット弾圧などで世界中の非難を浴びる中国も、ハリウッドには格好の標的。中国人女性殺人事件の容疑者となった無実のアメリカ人ビジネスマンの葛藤や中国の政治的な矛盾がテーマとなった“レッド・コーナー”は、早くも“中国版ミッドナイト・エクスプレス”というニックネームまでついた話題作です。主演が敬虔な仏教徒であるリチャード・ギアというのも因縁深いですね。その他、チベット仏教の総師ダライ・ラマと白人山岳家(ブラッド・ピット)との友情を描いた“セブン・イヤーズ・イン・チベット”や、北京政府の圧力を蹴ってクリスマス公開に踏み切る勇者ディズニー製作の“クンダン”など、中国の政治思想が自由の“天敵”としてスポットを浴びています。その他、ハリウッド映画界の「ワル」リストへ登場するのは、ジョン・グリシャム作品の常連である「白人超越主義者」や「冷酷な大企業」、そしてデニス・ホッパー("スピード"、"ウォーター・ワールド")スタイルの狂信者や最近のヒット作“コンスピラシー・セオリー”で代表される「政府の陰謀」によるミステリアスな悪者もいますが、やはり“エアー・フォース・ワン”でのゲーリー・オルドマン(写真)が実証する如く、ハリウッド映画に於ける悪役の極めつけは、あのきついロシア訛(なまり)の英語を喋る冷酷無比な東ヨーロッパ人へ軍配が上がるのではないでしょうか?




(1997年9月16日)

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