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(1997年12月1日)          




ホリデー・ラッシュ

今年もアッと言う間に、恒例のクリスマス・ホリデー映画シーズンの到来です。数々の話題作が公開される中から、期待できそうな作品を取り上げてみました。


“モンタナの風に抱かれて”(12月12日公開)

「馬に囁く人」という奇妙な原題のこの作品は、娘の落馬事故がきっかけとなり母親("イングリッシュ・ペイシェント”のクリスティン・スコット・トーマス)の世界へ訪れた調教師との愛を描く、1995年度のニコラス・エバンス著ベストセラー小説の映画化です。ロケ地モンタナは大雪のため撮影が大幅に遅れたり洪水で脅かされながらも、主演を兼ねるロバート・レッドフォードは“マジソン郡の橋”のリチャード・ラグラベネーゼの脚本を見事な監督ぶりで撮り上げました。(関連記事:
「1996年7月16日最新情報」「1996年8月1日最新情報」「1997年5月16日最新情報」「1997年9月16日最新情報」)

“アミスタッド”(12月12日公開)

1839年、実際に起こった奴隷船乗っ取り事件がテーマとなったドリームワークス・スタジオ自信の第2弾、監督総指揮はスピルバーグです。キューバ沖合の船上で反乱を起こし故郷へ帰ろうとする53人のアフリカ人奴隷ですが、やがてアメリカ本土に辿(たど)り着き裁判にかけられます。奴隷達の運命は、彼らを弁護する若き弁護士("評決のとき”のマシュー・マッコナヒー)や時の大統領ジョン・クインシー・アダムス(アンソニー・ホプキンス)の手中に・・・・・・というシリアスなドラマ。黒人版“シンドラーのリスト”という下馬評の話題作です。(関連記事: 「1996年12月16日最新情報」「1997年6月16日最新情報」「1997年7月1日最新情報」)

“スクリーム2”(12月12日公開)

昨年のスリーパー(大穴)ヒット・ホラーの続編で、物語はオリジナルから2年後、大学キャンパス内の連続殺人事件が中心となって展開します。例のごとく斬新なアイデアを盗まれないよう、撮影中はコピーできないゼロックス紙で書かれた脚本を使うなど、すべてが秘密のベールに包まれたまま。主演のニーブ・キャンベル、デビッド・アーケット、そしてTVレポーター役のコートニー・コックスは全員続投です。大ヒットを狙うミラマックス傘下のディメンション・フィルムたるや、もう第3部の準備に入っているぐらい自信満々、今回どんなカラクリで怖がらせてくれのでしょう!?

“スフィアー”(12月12日公開)

ご存じマイケル・クライトン("ロスト・ワールド"、"コンゴ")原作の小説を映画化。ダスティン・ホフマン演じる精神科医とシャロン・ストーン演じる海洋生物化学者、そこへサミュエル・L・ジャクソン演じる数学者を加えた海底探検隊が遭遇する世界を描いたSF大作です。スフィアーという恐怖感が具現化されるパワーを持つ未知の海底基盤球体内での冒険を、バリー・レビンソン監督("レインマン")はサスペンス満点に描いています。製作費が7,500万ドルの期待作です。

“007/トゥモロー・ネバー・ダイ”(12月19日公開)

ブロッコリー親子がプロデュースする18番目のボンド映画、今回は武道を駆使する一風変わったボンド・ガールが登場します。これまでの17作中、最高収益3億5千万ドルを売り上げた前作“ゴールデンアイ”に勝るアクションへ、前作よりわかりやすい明快なストーリー展開で迫る作品です。当然ながらQ課の開発した秘密兵器も活躍し、第三次世界大戦を企てるメディア王("エビータ”のジョナサン・プライス)から世界を救うダンディーなピアース・ブロズナンと、香港アクション映画スター、ミッシェル・ヨウの活躍がみもの!(関連記事: 「1997年4月16日最新情報」「1997年7月16日最新情報」「1997年9月1日最新情報」)

“タイタニック”(12月19日公開)

東京国際映画祭の目玉として、世界に先駆けてプレミア公開された11月1日から遅れること一ケ月半、製作費が前代未聞の2億8千万ドルといわれる“世紀の災害エベント映画”が遂に日の目をみます。ケイト・ウィンスレット("いつか晴れた日に")扮する裕福な乗客と、レオナルド・デキャプリオの貧乏乗客との恋物語を背景に、氷山に衝突して沈没した豪華客船の悲運をドラマチックに描いた、ジェームズ・キャメロン("トゥルー・ライズ")監督の力作です。夏公開に間に合わなかったことがかえって幸運となるかどうか、共同製作スタジオの20世紀フォックスとパラマウント、世紀の賭の行方は・・・・・・?(関連記事: 「1996年9月16日最新情報」「1997年2月16日最新情報」「1997年4月1日最新情報」「1997年5月1日最新情報」「1997年6月1日最新情報」「1997年9月1日最新情報」)

“ホーム・アローン3”(12月19日公開)

前2作で何と8億ドル以上を稼ぎまくった名物シリーズも、遂に主役マッカリー・カルキン抜きで新段階に入った感じです。代役に抜擢されたのは8歳のアレックス・リンズ坊や("素晴らしき日")。今回は、疱瘡で自宅療養している彼が持っている重要なコンピューター・チップを巡っての、国際的泥棒軍団とのドタバタ攻防戦ということです。マンネリ化をどう防ぐかがみどころ。

“ポストマン”(12月25日公開)

苦汁を舐めた“ウォーターワールド”以来初のケビン・コスナー主演監督作で注目される映画です。テーマは再び「さすらいの放浪者が巻き込まれる出来事」ながら、2013年の時代設定と核戦争後の荒れ果てた地球という背景へ興味をそそられます。政府再興のため郵便配達人に成りすましたケビンは、郵便を略奪しようと企むギャングのボスと戦うハメに・・・・・・「水」が失敗だったので、今度は「陸」で勝負?(関連記事: 「1996年9月16日最新情報」)

“ジャッキー・ブラウン”(12月25日公開)

僕が今シーズン最も期待する、“パルプ・フィクション”以来待望のクエンティン・タランティーノ作品です。'70年代の黒人アクション映画ブームのクィーン的存在パム・グリアーを中心として、ロバート・デ・ニーロ、タランティーノ作品の常連サミュエル・L・ジャクソン、ブリジェット・フォンダ、初代バットマン、マイケル・キートンなどの豪華キャストで描く、武器商人と連邦捜査の板挟みとなる運び屋スチュワーデスの物語。ベースは“ゲット・ショーティー”の原作者エルモア・レナードの小説“ラム・パンチ”で、タランティーノ・タッチが爆発します! (関連記事: 「1996年5月1日最新情報」)

“ビッグ・レボウスキー”(12月25日公開)

昨年の大ヒット“ファーゴ”でメジャー入りしたコーエン兄弟のこの新作は、同姓同名の億万長者("フリントストーン"のジョン・グッドマン)と間違えられるボーリング狂の浮浪者、ジェフ・レボウスキー("マンハッタン・ラプソディー"のジェフ・ブリッジズ)を巡る誘拐事件がテーマの、コーエン兄弟独特の持ち味を生かしたミステリー。“ファーゴ”でドジな殺し屋を熱演したスティーブ・ブシーミも再登場です。

“クンダン”(12月25日公開)

名監督マーチン・スコセッシ("カジノ")悲願の作。スターをいっさい使わず、主演者は全員チベットからの亡命者であるばかりか、本物の僧侶が仏教僧を演じています。“E・T”のメリッサ・マチソンによる脚本は、第14代チベット仏教総師(ラマ)として生まれたダライ・ラマが1959年インドへ亡命するまでの過程や、中国からの弾圧にもめげず祖国独立へかけた情熱を感動的に描き出し、演技はまったく未経験のチベット人数人が成長してゆくダライ・ラマの姿を自然に演じ、比較的少ない2,800万ドルの予算で撮り上げたスコセッシ監督の腕はさすがです。製作費7,000万ドルの対抗馬“セブン・イヤーズ・イン・チベット”と、はたして“仏教ショーダウン(対決)”の軍配が上がるのはどちらでしょうか? (関連記事: 「1996年4月1日最新情報」「1996年7月16日最新情報」「1997年2月1日最新情報」「1997年7月1日最新情報」「1997年9月16日最新情報」)

“マウス・ハント”(12月25日公開)

“バッドワイザー蛙”のテレビCMといえばアメリカで抜群の人気を博しましたが、これはその監督ゴア・バービンスキーを抜擢してドリームワークス・スタジオが放つ第3弾。内容は“バードケイジ”で軽妙なゲイぶりが印象的だったネイサン・レインと、イギリス人俳優リー・エバンス扮する兄弟に立ち向かう、勇気あるネズミのコメディーです。クリストファー・ウォーケン("ラストマン・スタンディング)の鬼気迫る駆除業者といい、実写へCGやアニマトロニック(操縦ロボット)を組み合わせたネズミの演技(?)は必見もの! いわばネズミ版“ホームアローン”といえます。(関連記事: 「1997年7月1日最新情報」)

“ボクサー”(12月26日公開)

“マイ・レフト・フット”や“父の祈りを”の名コンビ、ダニエル・デイ・ルイスとジム・シェリダン監督に、昨年の話題作“ブレイキング・ザ・ウィーブ”でオスカー候補となったエミリー・ワトソンを加えて描く、不運のアイルランド人ボクサーの物語。14年間の刑務所生活を終え、家庭へ戻った男と彼を取り巻く人々の悲哀が胸を打つ力作です。撮影中は毎日3時間ボクシングの練習を欠かさなかったルイスの熱演が期待されます。(関連記事: 「1997年5月1日最新情報」「1997年5月16日最新情報」)

“大いなる遺産”(12月31日公開)

デビッド・リーン("アラビアのロレンス")監督の1946年度ヒット作“大いなる遺産”の現代版リメイク。文豪ディッケンズの名作を超現代的MTVスタイルで焼き直したところは、昨年の“ロミオとジュリエット”リメイク版と同じパターンです。現代のニューヨークが舞台となり、ドナ・カラン・ファッションに身を包んだグウィネス・パルトロー("エマ")と若い芸術家("今日を生きる”のイーサン・ホーク)の恋物語。


さあ、この中から映画ファンの皆さん、そしてアカデミー投票メンバーの心に残る作品は、いったいどの映画でしょうか!?





小説へラブコール!

ヒット映画の続編ばかりでは観客が飽きてしまうと考えたハリウッドは、このところ「映像向きの小説」の映画化権を買う企画へ目をつけている傾向が顕著です。今までにもトム・クランシー("レッド・オクトーバーを追え”他)やスコット・トゥロー("推定無罪”他)などのベストセラー小説を映画化してヒットさせてきた大手スタジオは、定番の政治サスペンスや軍事スリラーものばかりでなく、SFもの、医学スリラーもの、ラブ・ストーリーといった幅広いジャンルの小説を必死で探しています。力強い男性が主人公として描かれるそれらの小説は、トム・クルーズ、ハリソン・フォード、トム・ハンクス、メル・ギブソン、ブラッド・ピットなどの数少ないメガ・スター向けに絶好のネタとなるからです。また、小説家も賢くなってきて、まるで映画を意識したかのごとき頼もしい主人公や、エキサイティングで興味あるストーリー・ラインの小説が増えてきました。その結果、大御所マイケル・クライトン("ディスクロージャー”他)やジョン・グリシャム("評決のとき”他)の800万ドル・クラスには及ばなくとも、200〜300万ドルで映画化権を売却するクラスの小説家が最近では珍しくありません。「映画用小説」という新しい市場を開拓するエージェンシーまで出現し、わがブルーページの「晴耕雨読」で取り上げたうち、今年のプュリッツァー賞受賞小説「アンジェラズ・アッシュ(5月書評)」と「アンダーワールド(11月書評)」が辣腕プロデューサー、スコット・ルーディン("イン・アンド・アウト")に売却されたのを始め、クライトンの「エアーフレーム(4月書評)」、グリシャムの「陪審評決(2月書評)」と「パートナー(10月書評)」は当然ながら既に映画化が決まっています。企画(ディベロプメント)と呼ばれるリスキーな事業の一部である小説購入は、映画化へ至らず失敗した過去の例が山ほどあるだけに、スタジオ側としては冷や汗ものの買い物です。そんなハリウッドの必死の思いが込められた企画を、いくつか探ってみると・・・・・・


“コブラ・イベント”

ヒット作“アウトブレイク”の原作“クライシス・イン・ザ・ホットゾーン”を書いたリチャード・プレストン作の医学スリラー。殺人ウィルスをマンハッタン市内へ撒き散らす殺人鬼と、彼を追いながら住民を病気から救おうとする女性病理学者の物語です。20世紀フォックス傘下の「フォックス2000」社が300万ドルで購入しました。

“ファザー・フィギア”

イギリス人作家ニック・ホーンズビーによる大人のラブ・ストーリー。父親の作曲したクリスマス曲の印税で優雅に暮らす男性が恋人探しのため片親グループへ入会し、そこで1人の女性と出会います。彼女の抱える不良っぽい息子との触れあいや葛藤、そして結ばれる絆に自分を再発見してゆく姿を描いた感動作です。ニューラインとロバート・デ・ニーロのトライベッカ・スタジオは、パラマウントやミラマックスを300万ドルという破格の値段で競り落とし、既にトム・ハンクス、ブルース・ウィルスへ食指を伸ばしているもよう。

“セカンド・エンジェル”

まだ出版されていないにもかかわらず250万ドルでワーナーブラザーズへ落札された、売れっ子作家フィリップ・カーのSFスリラー。この地球全体を脅かす破壊的なインフレンザ菌との戦いがテーマの近未来小説の他、カーは進化と係わる生物学上の新発見を雪男“イェティ”の探索へ利用するスリラー小説“エサウ(聖書の登場人物)”をディズニーに200万ドルで売ったばかりか、豪華ヨット船上の強盗事件を描いた最新作“ファイブ・イヤー・プラン(5ケ年計画)”もトム・クルーズの製作会社へ300万ドルで買い取られるという人気ぶりです。

リスキー・ビジネスの最先端を行く小説の映画化ですが、そこは究極のギャンブルを得意とするハリウッド、これからも“映画臭い小説”の人気が衰えそうにはありません。





ハリウッド式未来像


ガ タ カ

ブレードランナー

“フィフス・エレメント"、"ガタカ”や“スターシップ・トルーパーズ”に代表される近未来SF映画の人気は相変わらずですが、過去のSF作品で描かれた多くは現実のものとなっていることを考えれば、これらの映画が将来のビジョンを見せてくれているのかもしれません。このジャンルの傑作“ブレードランナー(1982年)”は、21世紀の崩壊したロサンゼルスを舞台に、ハリソン・フォード扮する警察官が極悪アンドロイド集団と戦うストーリーです。そこへ描かれるロサンゼルスの街はアジア人種の進出が著しい“文化の坩堝(るつぼ)”と化し、もはや白人は少数民族(マイノリティー)でした。現実がリドリー・スコット監督("G・Iジェーン")の鋭いビジョンに近づいているばかりか、この映画で使われたコカコーラ以外の商品ブランドは、アタリ、パンナム航空、ベル電話社など、その後衰退の一途を辿り、「ブレイド・ランナーの呪い」とも言われています。また、アメリカ全体の犯罪率が400パーセントを越してマンハッタン島全体が刑務所となる“エスケープ・フロム・ニューヨーク(1981年)”は、まさに現在を暗示するかの興廃と略奪風景が印象的でした。アナログで描いた3Dコンピュータ・モデルは今や一般的なレベルまでデジタル化され、ジョン・カーペンター監督("エスケープ・フロム・L・A")の先見の明が窺(うかが)われます。来春封切られる'60年代の人気TVシリーズを映画化した“宇宙家族ロビンソン”は、1997年10月16日に新天地を求めてジュピター2号が発射される筋書で、その理由は「地球の人口過多」、最新のロボット工学を取り入れたところが斬新です。古くは、大企業の(整理された従業員を高炉へ投げ入れるといった過激な)リストラやコンピュータ、TV、ビデオ電話など、当時の“夢物語”が描かれた“メトロポリタン(1926年)”の未来ビジョンには目を見張ります。スタンリー・キューブリック監督("アイズ・ワイド・シャット")の“2001年宇宙の旅”でも、インターネット、スペース・シャトル、チェスで人間を負かすコンピュータばかりか、話したり考えたりするコンピュータや太陽系の宇宙旅行、月面基地が登場し、今やほとんど現実となっている世界です。こうした流れを見ると、“フィフス・・・”に出てくる23世紀の飛行タクシーやハイテク生活様式、あるいは“ガタカ”の政府による染色体(DNA)管理出産制度や“スターシップ・・・”で描かれた巨大な「昆虫もどき」との宇宙戦争などが、数世紀後は具現化するかもしれませんね!?




(1997年12月1日)

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